【第十話】母親 ⑥
夜の道を、スパイルは静かに歩く。
目を見張るほどの筋骨隆々な肉体に、明るい金髪が街灯に照らされる。
五指の先に長く太い強靭な爪を身に付けた彼は、傍から見れば飢えた獣のようだった。
その身から放たれるオーラは猛々しく、口からは獰猛な息が漏れ出ている。
頑張って抑えている殺気が、今にも漏れ出しそうだった。
スパイルは、この城下の街並みを、ゆっくり歩み進める。
目的地は、このディオラスの中でも王城に次ぐ最高地にある居城。
ティアル・サーライトのいる屋敷だった。
「まだ早い……まだだ……」
ティアルの居城までの道のりを歩きながら、スパイルはボソボソと呟く。
そこに近づけば近づくほど、足が急ぎそうになるのを感じていた。
さっきまでは恐怖にすくんでいた体も、いざ行くとなれば覚悟を決めるものだ。
今は、ティアルの殺し方で頭がいっぱいだった。
「おいおーい!!こんな夜遅くにNo.4様がお一人でどうなされたんですかー?遊びに行くなら俺らにも一杯奢ってくださいよー!!」
すると、
街の人気のない所を歩いた辺りで、街のチンピラらしき人間に話しかけられた。
ここにいるのだから、おそらく2桁には入っているのだろう。
顔を覚えていないから、それほど高い順位でもないはずだ。
「No.4になんてなったんだからタンマリ持ってるんでしょー?俺らにもお裾分けしてくださいよー!!」
男がそう言うと、さらに何人かの若者が一斉に出てきた。
数は30人といった所か。
一応はNo.4ということで、それなりの人数を用意したようだ。
スパイルは思わずニヤける。
ちょうど、ティアルに奇襲を仕掛けるために、冷静にならなければならなかった所だ。
「おい、何笑ってんだー!?この数が目に入らねぇのかよ!?テメェみてぇな雑魚でも、No.4なら沢山持ってんだろー!?いいから有り金全部置いて……」
「今日はいい夜だな」
唐突に、
スパイルはそう言って、ゆっくりと顔をそっちに向けた。
亡霊のようにゆっくり動いていた足が止まり、顔だけが動いている。
男は思わずたじろいだ。
殺気も何も放たれていないのに、体が危険信号を伝える。
彼らもなまじ2桁のレベルにはいるのだ。
世間的にも弱いレベルじゃない。
むしろ強いくらいだ。
だから、
対峙して初めて分かった。
この男がNo.4になったのは、運でもマグレでも何でもない。
それだけの、凶悪なまでの実力を持っている。
男の頬に汗が一筋流れ落ちた。
「い、いやぁ、冗談だよ。アンタを街中で見るなんて初めてだったからさぁ……。ちょっとお近づきになりたくて……。だから……」
ズシャアアアアアアアア!!
夜の22時。
城下の人気のない路地裏で、一人の人間の首が宙を舞った。
首を失った体からは血が噴水のように飛び出し、その場一帯を赤黒く染め上げる。
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