【第十話】母親 ④

「くそッ!!何なんだよ……ッ!!何なんだよ、それは!!」



話が終わって、スパイルは家の中で一人、怒鳴り散らした。


動揺し過ぎて再び冷静さを失っている。


さっきから感情と思考がメチャクチャだ。


冷静になっては動揺し、落ち着いたと思ったら取り乱している。



「何だよ……ッ!!何なんだよ!!くそッ!!」



あれから、


スパイルは母親の話を黙って聞き続けた。


混乱する頭で何とか思考を回しながら、母親と"父親"の間に起きた、あまりに馬鹿げた話を聞き続けたのだ。


今は母親と分かれて、ティアルの部下を家で待っている。


もうイライラが募って仕方がなかった。


感情が荒ぶって止められないのだ。


思考を回そうにも、脳が上手く機能しない。


椅子に座っているものの貧乏ゆすりが止まらず、スパイルは思わず目の前のテーブルを蹴り飛ばした。



「ふざっけんなよ!!何だってそんなことになったんだッ!!」



母親は先にディオドラス鉱山へと向かわせた。


渡した金を持って、今はディオラスの国境を抜けた辺りか。


スパイルはとうとう立ち上がって、座っていた椅子すらも蹴り飛ばした。


テーブルも椅子も部屋のあちこちに散らばって、ぱっと見は空き巣にでも入られたかのような有り様だ。


スパイルはそれでも、さっき蹴ったテーブルをもう一度蹴り飛ばす。


とうとう、テーブルは壊れた。



「何で言ってくれなかったんだ……ッ!!言ってさえくれれば……ッ!!こんな地位になんてならなかったのにッ!!」



後悔は先に立たない。


何度過去を振り返っても、過去は何一つとして変わりはしない。


それでも、


振り返ってこうしていればと考えてしまう。


例え無駄なことだと分かっていても、分かっているのに止められない。


もう自暴自棄だった。



「どうして……ッ!!どうしてなんだ!!タイミングならあったろう!?いくらでもあったじゃないかッ!!なのに何で今なんだ!?何で、こんな、もう取り返しの付かない所まで言えなかったんだ!!」



違う。


気付くことは出来た。


聞けば良かった。


話せば良かった。


会話すれば良かった。


団欒すれば良かった。


スパイルはそれをずっとしなかったのだ。


してなかったんじゃない。


敢えてしなかったのだ。


気付くことなら出来た。


ヒントはいくらでも転がっていた。


なのに、


一度もそれを、拾わなかった。

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