【第九話】スパイルの過去 11
「カァーッカッカッカッ!!聞いたぜ聞いたぜ、元No.4のこと~?お前も悪だなぁ、ええおい?俺様ならあんなに酷いこと出来ねぇよ、出来るわけねぇよ、正気を疑っちまうなぁ、ええおいおいおいおいおい?」
ティアルはそう言いながら、スパイルに歩み寄ってきた。
相変わらず左右の足の長さがあっておらず、首を傾けて覗き込むように見てくる。
スパイルはイラつきに表情を歪めながら、軽く頭を下げた。
「お戯れを。それを酷いと思える人間が、そのお立場にいらっしゃるとは到底思えません」
淡々と、言葉を紡ぐ。
ティアルとここで出会ったのは予想外だ。
元No.4の部下たちから何を聞いているかも分からない。
なるべく静かに様子見するのが正解だ。
「カカァーッカッカッカッ!!まぁそりゃそうだ!!玉座の間で言っていたような"たまたま"じゃなかったとはいえ、確かに不正は一つもしていなかったようだなァ!!まぁ、俺に嘘をついていたことは"不快"だが?今回は特別に見なかったことにしておいてやるよ!!カッカッカッカッ!!」
「……ありがとうございます」
「だがなぁぁ?お前について、最近色々と噂になってるってのは知ってるかァ?元65位のお前がそんな手段でNo.4になんてなっちまったもんだから、皆不安になっているのさ。果たして本当に、『そいつに実力はあるのか』ってなぁ?」
「………………」
「俺は思ってない!!俺は思ってないぜぇ!?だが皆は不安らしいんだ!!お前はそこにいるだけの資格があるのか!!そういうことをしないと勝てないようなボンクラなんじゃないかってなァ!!」
「……よく、仰りたいことが……」
「俺と戦えよ!!スパイル・ラーチェス!!そうしたら皆認めるぜぇ!?頭だけじゃないんだぞって!!ちゃんと実力あるんだぞってぇ!!俺とお前で証明してやろうじゃないか!!なぁ!!」
「………………」
結局はそこに繋がる。
ティアルの強引で野蛮な言い分に、スパイルは一旦口を閉じた。
ティアルが言っていることもあながち間違ってはいない。
なんせ、噂になっているというのは本当だからだ。
No.4という地位はこのディオラスでも相当に高いもの。
65位に先を越されて不満に思う人間が、このディオラス中にゴマンといるのだ。
10位以下のランキングならともかく、一桁はそれだけ特別扱いされる。
謀略を巡らす智力は力の一つだが、一桁クラスだとそれだけじゃ不満を持つ人間がいてもおかしくなかった。
要は、
謀略さえ封じれば勝てるんじゃないかと、そう思ってる人間が多いということだ。
スパイルは首を静かに横に振った。
「お心遣いは大変痛み入りますが、これは私の問題です。現に、私宛のランキング戦の申し込みが今も尚殺到しておりまして……。まずはそれを片付けるのが先決かと存じます。お気遣いいただけたことについては何とも感謝の念にたえませんが……」
「いいから。いいから戦えよ、スパイル」
「ッ!!」
途端、
ティアルから恐ろしいほど冷たい殺気が放たれた。
重力が上がったように重苦しい空気が漂い、スパイルは生唾をグッと呑み込む。
ティアルは、言葉で説得することを止めたのだ。
正しく武力行使に乗り出してきた。
そこには、
ただの戦いに対する愉悦だけでなく、怒りも混じっている。
玉座の間でランキング戦の機会をたまたまだと偽っていたのがそこまでイラついたのか、ティアルは本気だった。
ランキング戦の順番のことを言っても無駄だろう。
下手をすれば順番待ちしている人間全てを殺してでも実行しかねない。
スパイルは思わずグッと表情を引き締めた。
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