【第八話】スパイル・ラーチェス 15

「…………」



(殺ったか?)



目の前に上る巨大なマグマの円柱を目にしながら、スパイルはその中にいるであろう恭司のことを考える。


思えば、ティアルがビスと勘違いした技はコレだったのだろう。


スパイルはそんなことは知らないが、この凄まじい威力は圧倒的だ。


ビスのソレとは比べ物にならない。


スパイルは自ら作り出したこの光景を、呆然と見つめる。


血が足りてなくて、体はもうボロボロだった。



(これは……死ぬ。間違いない。俺の最強の技だ。万が一にも生き残ることは有り得ないだろう)



本心だった。


これをくらって生き延びる奴なんて存在しない。


確信があった。


だが、


それなのにどうしても、この光景から目を離すことが出来ない。


何故か……心の根底ではもしかしたらと考えてしまう。


噴き上がったマグマが重力のもとにすぐ隣に落ちてきても、スパイルはずっとあの炎柱を見ていた。


何か……そこから出てくるような……。



「……よぅ……」



ふと、声が聞こえた。


炎柱の中から、いや、その向こう側から。


炎柱の外を回って、歩いてくる。


ふと気付くと、着物姿の黒髪の男が、スパイルの前に立っていた。



「俺の勝ちだな」



誇らしげにそう放つ言葉。


スパイルは言った。



「ああ……。お前の勝ちだ。恭司」



スパイルにそう言われると、恭司はその場にドサッと座り込んだ。


疲れて……出し切って……もう動くことは出来ない。


スパイルに対して抱いていた絶大な殺意は……いつの間にか消えていた。


今では戦いが終わって、涼やかな気持ちだけが内を占めている。



「なぁ……お前、一体どうやってあのピンチを凌いだんだ?」



ふと、スパイルは尋ねた。



「『空跳』――。……三谷の技の一つだ。宙で空気を蹴り、二段階の跳躍を行うことが出来る。それで空中から炎陣の外へ飛び出したんだ」


「……そんな技を隠し持っていたのか……。てか、まだそんな体力があったことにも驚きだよ。あの炎陣はかなり高温かつ屈強に仕込んだんだが……まさか破られるとはね」


「おかげで体中が大火傷だ。無理したから足もバキバキだし、激痛でクラクラする。生きてるのが奇跡だよ」


「ハハハ。アレは俺の最終奥義みてぇなもんだからな。破られるとは正直思わなかった。てか、そんな凄ぇ技、何で今まで使わなかったんだ?」


「……まだ上手く出来ないだけだ」



空跳は今は亡き恭司の父……『三谷恭一郎』の得意としていた技だ。


恭一郎のオリジナルで、奥義書にも載っていない。


恭司は小さい頃の父の記憶を掘り起こし、激痛の中、ぶっつけ本番でそれを行ったのだった。

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