8話 鉛筆転がせばだいたいオッケー
「それも【全能】で分かるのでは?」とクラリス。
「クラリス様、魔法は魔力を消費するので」ノエルが言う。「今のミアの魔力であまり高度な魔法は……」
「大丈夫だよノエル。私の魔力量、今は400ちょっとあるから」
「はぁ!?」
ノエルが素っ頓狂な声を上げた。
そりゃそうだ。
魔法学園に入学する12歳の平均魔力量は300。
私は7歳でそれを上回っているのだから。
学園を卒業する時の平均値は600。
みんな3年で倍ぐらいに増えるのだ。
「ちなみに、あたしも400です」
ローレッタが小さな胸を張って言った。
可愛い。
はい可愛い!
「えええ!? どうやって!? 僕でもまだ140ぐらいなのに!」
魔法大好きのノエルが食い付いた。
「毎日魔力が空になるまで魔法を使う。寝て起きて回復。以下繰り返し」
私が方法を簡単に説明した。
「色々と魔法のバリエーションを増やしながら使うといいです」ローレッタが補足。「魔力と同時に、使える魔法の種類も増やす。本当に空になるまで、毎日やります」
「よし、僕も毎日、空にします!」
ノエルが強く頷いた。
「お前も魔法が使えるのか?」
ジェイドがノエルを見ながら言った。
「はい、僕は魔法士の称号を持っていますジェイド王子」
「ほほう。お前、俺様の子分にしてやろうか?」
「……えっと、僕はその」
ノエルが困り顔で私を見る。
ふむ。
王子の誘いを断りにくいんだね。
よろしい、私に任せたまえ。
「ジェイド。ノエルは私の部下だ。引き抜くなら私を倒せ。いいね?」
「そ、そうか。じゃあいい」
ジェイドはあっさりと引いた。
「それで?」クラリスが言う。「【全能】で暗殺が目的かどうか確定できますの?」
「やってみよう。メモ帳と万年筆ある?」
私が言うと、治安維持隊が両方持って来て渡してくれる。
私はメモ帳に『強盗』と『暗殺』と書いた。
次にそのページを破ってテーブルに置く。
そして魔法を使う。
この事件の目的はどちらか?
イメージは鉛筆転がし!
私は万年筆を転がす。
そうすると、万年筆のペン先が『暗殺』の側で止まった。
「暗殺のようだね」
「それ本当ですの!? テキトーに転がしただけですわよね!? いえ、魔法陣は出てましたけれど! そんな使い方で本当に大丈夫ですの!?」
クラリスがビックリした風に言った。
「ミアは一体、何をイメージしたのでしょう……」
魔法の仕組みを知っているノエルが疑問を浮かべた。
鉛筆転がしだよ。
試験の時とかに使うだろう?
ああ、分かってる。
それは前世の話。
「お姉様の【全能】は全能なので、間違ったりしません。それにこの方法なら、魔力の消費も抑えられるので、かなり多くの二択が可能です」
それから私たちは数多くの、思い付く限りの二択を書いて万年筆を転がした。
「さ、さすがに疲れたよ……」
私がダラッと身体を伸ばす。
「お疲れ様ですお姉様、では分かったことを確認しましょう」
「うむ! 犯人は全部で3人だ!」
ジェイドは指を3本立てて言った。
「性別は男、男、女」とレックス。
「年齢は男40代、男20代、女20代です」とノエル。
「転がしてないけど、たぶん40代がボスだろうね」
私は天井を見上げて言った。
魔法ってさ、連続で使うと実は疲れるんだよね。
「さすがに名前は分かりませんでしたわね」
実は名前も何個か思い付きで書いたのだが、ペン先は止まらなかった。
まぁ、名前って凄まじい数あるからねぇ。
「さて問題は、彼らはまだ続けるということです」ローレッタが言う。「更に、職業は兵士であることが判明していますが、中央兵ではないです」
「しかも現役」レックスが言う。「兵士のくせに国民に剣を向けるとか、許せん」
「中央兵ではない現役の兵ですと」クラリスが言う。「他領地の兵で、今は長期休暇中ということですわね?」
「任務中かもしれませんが?」とローレッタ。
「それが事実なら、どっかの領地が下剋上を狙っているということか!?」
ジェイドが酷く怒った風に言った。
「どうかな?」私が言う。「もしそうなら、他に殺すべき相手がいるだろう? 軍務大臣とか、騎士団長とか、兵団長とか」
今回殺された要人の1人は外交官。
もう1人は国家戦略局の局長。
暗殺の対象はこの2人。
でも暗殺だと分からないように、わざわざ連続強盗殺人事件を起こしている。
「暗殺によってどのような利益があるのか」ローレッタが言う。「そこを洗っていけば、犯人に近づけるかもしれませんね。最終的にはお姉様の万年筆転がしで」
「ですが、今日はここまでですわ」クラリスが言う。「さすがにアタクシたち、夕飯までには城に戻りませんと」
「うむ。それもそうだ。よし! 各自、色々と考えておけ! 明日また合流だ!」
「僕、明日はちょっと……」
「俺も父上と約束が……」
「私らは明日、領地に戻る予定だったけど、まぁいい。滞在期間を延ばそう」
相手が雑魚の犯罪者ではないと分かったので、かなり楽しくなってきた。
ふふっ。
どうせ撃つなら鴨よりマシな的がいい。
「よし! ではミアとローレッタは明日! 登城するように! 話は衛兵たちに通しておく!」
「中庭で待つよう言っておいて」と私。
ジェイドは首を傾げたが、私が繰り返すと曖昧に頷いた。
◇
私とローレッタは空から城の中庭に着地した。
着地の際にちょっと高いところから飛ぶ感じになったので、しっかり五点着地。
「空から!?」
「まさかの空から!?」
「しかも割と高いところから落ちたぞ!?」
「あれが噂のローズ姉妹か!」
近衛兵たちが酷く困惑したように言った。
「やぁ君たち、空中挺進大好きミア・ローズだよ!」
「同じくローレッタ・ローズです!」
今日の私たちはパラシュートではなくハンググライダーで滑空してきた。
もちろんハンググライダーは私の仮創造。
着地と同時に消したけれど。
「王子に中庭でローズ姉妹を待てと言われていたが、まさか空から登城するとは」
「騎士たちから、話は聞いていたが、まさかここに空から来るとは」
実は今日は側仕えと護衛騎士を置いてきたかったのだ。
敵は訓練された兵士。
セシリアたちは邪魔になる。
いいように言うと、危険なので遠ざけた。
だから私たちは戦闘服に着替えて庭に出て、速攻で空に舞い上がった。
大丈夫、ちゃんと城に行くと昨日のうちに言ってある。
「とりあえず、案内しましょう。こちらへどうぞ」
近衛の1人が踵を返す。
どうやら、私らの案内は1人だけのようだ。
つまり、他の近衛たちは野次馬である。
私たちは黙々と歩いて、ジェイドの部屋まで移動した。
「よく来たなローズ姉妹! 今日もいい朝だ! お前たちも、その、なんだ、今日もう、うつ、うつ……く……」
「私らは別に鬱じゃない」
会って第一声がお前たち鬱ってなんだよ。
どう見ても私ら元気だし。
「ああ、ジェイド……情けないですわ……」
ジェイドの部屋のベッドに腰掛けたクラリスが溜息を吐きながら首を振った。
「それより! 今日も捜査するぞ! 資料の写本を用意している!」
ジェイドがどや顔でテーブルを指さした。
そこには捜査資料の写本が並んでいる。
「いや、犯人が次に誰を狙うか分かったから、囮にしよう」
私が言うと、クラリスもジェイドも目を丸くした。
「昨夜のうちに、次のターゲットを絞っておいたんだよ」
「お姉様の万年筆転がし、最強です!」
まぁ、殺されそうな要人の名前を書いて転がしただけのこと。
選択肢が増えれば増えるほど、魔力の消費が多くなるとか、どのぐらい選択肢を増やせるかとか、色々と実験もできた。
「す、すごいなミア……俺様の出る幕が……ない……」
「ああジェイド、可哀想に……相手が悪かったですわね」
「私は【全能】だからね」
本来はラスボスだしね。
「ところで、狙われているのは誰だ?」とジェイド。
「うん。君だよクラリス」
「はい?」
私がクラリスを指さすと、クラリスはポカーンと口を半開きにしたのだった。
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