12話 《月花》ってもしかして新しいラスボスか何かなの?


「ミアちゃんは滅多にいない逸材ですが、まぁうちの団長ほどではないですね」サルメが唐突に団長自慢を開始。「うちの団長はなんせ、3歳の時点で正規軍の中隊を壊滅させましたからね」


 なにその化け物。

 さすがファンタジー世界。

 ちなみに、中隊の規模は現代地球とは異なっている。

 こっちでの中隊は8から12人で、4から6人の2小隊が所属している。

 まぁそれはそれとして。


 人間離れした奴がいるんだなぁ、なんて思った次の瞬間。

 私は前世の団長を思い出した。

 そういや私の団長は、4歳でAK担いで戦場にいたんだっけ。

 ファンタジー世界じゃなくて、現代地球で。

 よって、私の前世の団長の方がすごい。

 まぁ言わないけどね。

 私とレックスはサルメの傭兵団自慢を聞きながら、海賊たちの元へと移動。


「朝飯を食わせておくれ」

「マジかこのガキ。立場とか分かってねーぞ? これだから世間知らずの公爵令嬢は」


 マッチョが苦笑いしながら言った。


「腹が減っていたら訓練できないだろう? 私たちは育ち盛りなんだよ」

「いや、育ち盛りってもっとデカくなった時だろうが」


 マッチョがどうでもいいことに反応した。


「いいから朝飯。君らが食ってるその変な干し肉でいいよ」

「お前、マジで、クソガキ! 一発だけ蹴っていいか!?」


 マッチョが青髪の方を向いて言った。


「やめろ。公爵令嬢だぞ? 傷を付けた時と無事に返した時の反応は絶対に違う。余程のことがねーなら、攻撃すんな」


 ごもっとも。

 私が無事な場合と、そうでない場合。

 これは明確にローズ領の動きが変わる。

 私にダメージがあれば、戦争である。

 間違いなく戦争だ。

 カイルは割とおっとりした人だけど、それでも間違いなく海賊団の最後の1人を殺すまで手を緩めない。

 私が無事なら、取り締まり強化ぐらいで済む可能性もある。

 ああ、でも私が無事ならこいつら死ぬんだけどね。


「チクショウ、クソガキ……」


 マッチョはギリリッと歯ぎしりした。


「おい、朝飯を分けてやれ」青髪が金髪に指示を出す。「サルメさんの分もだ」


「私はいりません。自分の非常食があるので」


 そう言って、サルメはローブの中から調理済みのカエルを取り出す。

 美味しそうだなぁ。

 私がそう思った瞬間、サルメはカエルにかぶりついた。


「ひっ、か、かえる……」


 レックスが私の背中に隠れた。

 かーわーいーい!

 可愛いけど!


「レックス。カエルぐらい食べられなくてどうする? カエルが怖いなんて立派な騎士になれないよ?」

「こ、怖くないし」


 レックスが私の背中から出た。

 いやーん!

 虚勢張ってるの超可愛い!

 くっそ!

 押し倒して撫で回したいって欲求に駆られるぅ!

 やらないけどね!

 腐っても公爵令嬢だから私!

 いや、傭兵だった頃でもやらないけどさ!

 そのぐらいの良識はあった!


「ほらよ」


 金髪が私とレックスに干し肉と皮革水筒を渡した。

 水筒の中身は飲み水だ。

 食事を摂ってしばらく休憩。

 その後、私とレックスはストレッチを開始。

 なぜかサルメが交じった。


「ところでミアちゃん」


 サルメは身体が柔らかい。

 レックスが悔しそうにサルメを見ていた。


「ん?」

「ローズ領は身代金を払いますか?」

「どうだろうね? 払うかもね。ローレッタは止めるだろうけど、父様と母様は払うかも」

「ローレッタ?」

「妹だよ」

「妹に嫌われてるんですか?」

「まさか! そんなわけない! ローレッタは私が拉致されたとは思ってない。だって、私が馬車に飛び乗るのを手伝ったのがローレッタなんだから」

「なるほど。可能性はあるわけですか。ふむ……」


 サルメが何かを思案していた。

 まぁ、どうせろくでもないことだ。

 傭兵ってのは、世界が違っても考えることはろくでもないのだ。


「まぁ、船長の釈放はまず無理だろうから、連中が金を払えるのはうちの身代金しかない」

「ですね。国家は海賊に屈したりしません。領地もそうだと思いますが?」

「うちはどうかな? ちょっと分からないかな。払わなかったら、君はどうする? てか、船長を君が助け出した方が早いんじゃないかな?」

「その義理はないです。私はお金を回収に来たのであって、金策を手伝いに来たわけじゃないのです」


「でも、金を持って帰らないと君も困るだろう?」

「いえ、本当はなんとかなるんですよ。ここを探すのに2日もかかった理由は、彼らの船と本来の拠点を売り払う段取りをしていたからで、足りない分は彼らの懸賞金で賄うつもりだったんです」

「懸賞金? え? どのぐらい? ちょっと1人か2人分けてくれない?」

「じゃあ、1番金額の高い青髪だけあげますよ」


 やったぜ。

 これで戦闘服が買える!

 サルメ、実は結構いい奴じゃん!


「あれ? でも、じゃあなんで君は、1日待つって言ったんだい? 今すぐ彼らを殺して突き出した方が早いのに」

「ミアちゃんが面白そうだから絡もうと思っただけですよ」

「まさかの私目的!?」

「あと、もしも本当に身代金が支払われるなら、彼らの船と拠点を返してあげないといけないので」


 やれやれ、とサルメが息を吐いた。

 身代金とかどっちでもいいから、早く終わらないかな!

 懸賞金で戦闘服買うんだぁ!



「筋はいいのですが、雑すぎです」


 私の剣を受けながら、サルメが言った。

 もちろん、私たちが使っているのは仮創造した木剣だ。


「型は昨日、初めてちゃんとしたのを習ったばかりだからね!」


 私はレックスが教えてくれた型を思い出しながら、サルメを攻撃。

 サルメは全ての攻撃を軽く受け止める。

 木剣と木剣が打ち合う音が倉庫内に響く。


「そしてレックス君。型は綺麗なのですが、逆に型に囚われすぎですね」


 右側から仕掛けたレックスの攻撃も、サルメは簡単に受け止めた。

 こいつマジで強いな。

 まぁ、私とレックスが全然、連携できてないってのもあるけれど。


「実戦では多少、崩れるものです」サルメが言う。「もちろん、型通りの攻撃が1番威力があるのですが、それは理想のラインであって、よほどの技術力がなければその軌跡は描けません。うちの団長ぐらいですよ、理想の剣筋で攻撃できるのは」


 できるのかよ!

 私は心の中で盛大に突っ込んだ。

 化け物を束ねる化け物か。

 ちょっと会ってみたい気もするけど。

 いや、今の私は公爵令嬢。

 領地を最強にするのが夢。

 進んで危ない人に近寄る必要はない。

 ぶっちゃけ、海賊とかは私の中ではそんなに危なくない。

 私の方が強いという自信があるからね。


「俺、もう無理……」


 しばらく私とレックスはサルメを攻撃し続けたが、やがてレックスがバテた。

 レックスが少し離れて床に座り込む。

 私とサルメの一騎打ちに。


「まぁミアちゃんは魔法が使えるようなので、本当なら魔法を織り交ぜるほうがいいでしょうね」

「私もそう思うよ」


 右手に木剣、左手に拳銃とかね!

 あれ?

 剣も銃も結局、物理攻撃じゃね?

 私、魔法で物理しか考えてなくね?

 もっとファンタジー的な魔法の使い方も覚えないとね。


「私も実戦なら、魔法を織り交ぜます」


 サルメは何気なく言ったのだが、私は少し驚いた。

 こいつ、魔法も使えるのか。


「うちの団は全員使えますよ?」


 私の表情を見たサルメが言った。

 なにその団、本当ヤバいんだけど。


「こっちの方と少し違うんですよ」

「何が?」


 私たちはずっと打ち合っている。

 喋りながらも、ちゃんと稽古を続けているのだ。


「魔法のあり方です。私たちの元いた大陸では、魔法は誰でも使えるんですよね」


 私はその発言に酷く驚いた。

 え? 【全能】がいっぱいいたらどうしよう。


「大丈夫です。こちらの魔法ほど強力ではないので」

 

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