第30話
「今の僕なら君の力になれると思うんだ」
強い決意を秘めた空色の瞳がティアナを射抜く。
ただ、ティアナも少し前までのティアナとは違っていた。
「ロバートは殿下の国の、それも三大公爵家の一角、ルスネリア公爵家当主です。私は彼に罪を償ってほしいと思っていますけれど、殿下はそれに本当に力を貸してくれると言うのですか?」
先程は事故の衝撃もあって昔のように話し口調が崩れてしまっていたが、皇太子殿下の御前だ。本来ならば許される行いではない。ティアナは口調に気を付けながら話した。
「父に逆らえなかった僕に信頼がないのはわかっている。でも……」
「違います。そういう意味ではありません。殿下の立場を悪くしないかと言っているのです。私は殿下の国で罪人として連行されるところを逃げ出した人間です。本来ならばそのような人間と時間を共にしているだけでも問題なのに、それどころか手を貸すだなんて、周りに知れたらどうなるか……」
「全部僕のせいなんだからその辺りは君は気にしなくていいんだ。どうか僕に君の信頼を取り戻すチャンスをもらえないだろうか?」
「全部殿下のせいだなんて、そんなこと誰も思っていません。それに……」
懇願するウィルバートと困った顔で思案するティアナ。二人の間に緊張した空気が漂った時、王城に向かっていた馬車が止まり、外から声がかかった。王城に着いたようだ。
「二人とも、もう少し話し合う必要がありそうね。ウィルくんはティアのせいで服も汚れてしまっているし、一旦お互い部屋に戻って、落ち着いてから仕切り直すのはどうかしら?」
穏やかに優しく二人を促すマリアに、ティアナは逃げてしまいたくなる気持ちを抑え、ウィルバートに向き合う。
「ウィルバート皇太子殿下は婚約者のいる身。元婚約者の私と関わってアマンダ様を悲しませることは私としても本意ではありません。どうか私のことはお捨て置きください」
ティアナの強い意思がこもった視線で射抜かれても、ウィルバートは引き下がらなかった。
「言いたいことはわかった。だが、僕の話を聞いてほしい。二人きりで話すのが問題になるならばフィリップも同席させる。それでも駄目だろうか」
二人の視線が交わる。ウィルバートは絶対に引かないと目で訴えかけている。その目に敗北を悟ったティアナはそっと嘆息した。
「わかりました。では、後ほど」
◆◆◆
「それで?ティアはどうするのさ?」
「シュネー!」
部屋に戻って着替えたティアナは、姿を現したシュネーの存在を認識した瞬間、花の香りに誘われた蝶のようにふらふらとシュネーへと近づき抱き上げると、モフッとその毛に顔を埋めた。
「フランネア帝国を滅ぼしたいなら、僕たちが力を使えばすぐだよ」
ティアナがふわふわもふもふを心ゆくまで満喫して癒されていると、真っ白なふわもふの主が急に恐ろしく不穏なことを言い始めた。愛らしい見た目にそぐわない、真っ黒な空気を纏い始めたシュネーにティアナは慌てる。
「シュネー!私は滅ぼすとか、そんなことは望んでいないのよ。ただ、私を手に入れるためだけに父を殺め、母を殺めようとしたロバートに罪を償ってほしいだけ」
「それだったらもっと簡単だよ。誰の力を借りなくても、僕が助けてあげられる」
シュネーは彼曰く「偉い精霊」なので、きっと簡単に悪を成敗できてしまうのだろう。
以前メアリーに聞いたことがある遠い東の国に昔いたという「ミタコーモン」のように。「アクダイカン」を「スケさんとカクさん」がやっつけるのよね。……あれ?「ミトコーモン」だったかしら?と、違う方向に考えを深めていたティアナに対し、シュネーは話を続けた。
「よくわからない方向に話を展開させて現実逃避しているのかな?じゃあ、僕が『ミトコーモン』してくるね。それでいい?」
シュネーにはティアナの頭の中は筒抜けなのだ。
「だめよ!実際に手を下すのは『スケさんとカクさん』なのよ!『ミトコーモン』は一番いいところで『インロー』という宝玉みたいなアイテムをかざして平伏されるのが醍醐味なのよ!」
「じゃあティアナが『ミトコーモン』すればいいじゃないか。僕が『スケさんとカクさん』の役割をすればいいんでしょ?」
空想の産物だった会話がシュネーの投げやりな一言によって一気に現実と融合した。
「私が『ミトコーモン』……?何それかっこいい……」
ティアナはメアリーから『ミトコーモン』の話を聞いて以来、彼の大ファンだったのだ。
メアリーからもっと彼の詳しい情報を聞かないと!そう考えながら興奮したティアナは宣言する。
「決定しました。私は悪を成敗する『ミトコーモン』になります」
「……なんでもいいけど、結局ウィルバートはどうするの?話しに行くんじゃなかったっけ?」
「あ……!すっかり忘れてた。早く行かなきゃ!」
『ミトコーモン』を思い出したおかげですっかりと鬱屈した気分が晴れたティアナは、嘆息するシュネーに見送られ、軽い足取りでウィルバートの元へと向かうのであった。
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