第53話
「ミラー先生が、母を診て下さるって本当ですか? あの……」
花音がお礼を言いかけたとき、古城のスマホが鳴った。
「はい。古城です。先程は有り難うございました。……ええ、……はい」
古城は花音に目配せすると、車を道路脇の空き地に止めて、スマホをオープンにした。花音は古城の気遣いに泣きそうになった。
「こちらこそ、有り難うございます。それでですね。香川教授が古城さんと話がしたいと申しまして……」
瀬戸医師からだった。
「有難いです。私はどちらに御伺いすれば……」
瀬戸医師はすぐに古城の言葉に被せて来た。
「あ、古城さんの電話番号を伝えましたので、香川教授から古城さんに連絡が入ると思います」
「あっ、電話が来たようです。有り難うございました」
瀬戸医師との通話を切ると、落ち着いた重みのある声がした
「古城さんですか?」
その声は紳士的な雰囲気だ。
「はい。そうです」
古城は、静かに答えた。
「伊藤さんの主治医をしている香川と申します。先程、瀬戸医師から聞いたのですが、ドクター・ミラーとお知り合いとか……」
「はい。友人です」
古城の言葉に、香川教授はしばらく言葉が出ないようだった。
先に口を開いたのは古城だった。
「瀬戸医師に伊藤さんの病状を聞きました。ミラーが適任と伺いましたので……」
古城と香川教授との会話は花音には衝撃的だった。母の体は、自分が聞いていたよりも深刻な状態だった。
花音の母は、多機能にわたって障害を抱えており、手術を行う場合、精密な技術とスピードが求められる。
日本にも立派な先生がいるのに、何故ミラー医師に頼らなければならないのか……
ミラー医師は短時間で肺、心臓、気管支の複合手術を行える数少ない医師の一人であるからだ。
三田に移ってからは大きな発作もなく花音はホッとしていたのに、病魔は母の体を容赦なく蝕んでいたのだ。
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