第33話
喉が渇いて目が覚めた。
キッチンに飲み物を取りに行くと、チャッピーがリビングのソファーで眠っている。
「あれ? チャッピー、古城さんは?」
不思議に思い、彼の部屋へ行くと、扉が開いていた。……いない。
まるで初めからいなかったみたいに……
「……そ、そんな……」
花音は部屋を飛び出した。
「お嬢様、なんて格好で!」
パジャマのままロビーに現れた姿を見て驚いたルリ子が叫んだ。
ルリ子の制止も聞かず花音は外へ出た。
「お嬢様、お待ちください!」
ルリ子は追いかけるが、なかなか追いつけない。
花音はしばらく走ると今度は力が抜けたようにしゃがみ込んでしまった。
そこへ白のレクサスがクラクションを小さく鳴らして、花音の所で停車した。
彼は驚いた様子で車を降りると、着ていた上着を花音の肩にかけ、車に乗せた。
「どうしたの?」
「す、すみません。……いないから、びっくりして……」
花音は古城の顔を見てホッとしたのか、ポロポロと涙があふれて止まらない。古城は驚いた様子だった。
ルリ子に気付いた古城が、そっと頭を静かに下げた。ルリ子も慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい」
花音は、彼を見つけてホッとしたのと、早とちりしてしまったことが恥ずかしくて謝った。
「びっくりしたよ。パジャマ姿で走ってるから」
「起きたら古城さんがいなくて……すみません……」
足元を見れば、部屋履きのスリッパのままだ。まだ、興奮しているせいか呼吸も少し荒い。
「今日は、三田まで行くだろ? 初めての車だから、少し慣らしておこうと思って、この辺を走ってたんだよ。ごめんね。声を掛けて行けば良かったね」
「いいえ、私こそすみません」
「スマホ、見た?」
「いいえ?」
「そう、じゃ、今度はテーブルにメモを残しておくよ」
彼は、花音の頭にポンと手を乗せると優しく言った。
「これからはちゃんと確認します。大丈夫です」
彼の “今度は” がすごく嬉しくて心が落ち着いてきた。
「……ごめんなさい。勘違いして……」
「約束したんだから、大丈夫だよ」
(そうだった。いないことにビックリして、約束忘れてた……。こんな姿で外を走り回るなんて呆れただろうな……)
花音は彼の着せてくれたパーカーの前をそっと引き寄せた。
車は、滑るように駐車場に入っていった。
彼は、エレベーター前の駐車スペースに停めて、パジャマ姿の花音を庇うようにエレベーターに乗り込んだ。
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