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「なんだかすごくお兄ちゃんらしい話ですね」
にっこりと笑いながら、そう言って風はようやくずっと両手に持っていた雨の淹れたコーヒーをひとくちだけ飲んだ。
「あ、美味しい」
雨を見て風は言った。
「どうもありがとう」
にっこりと笑って雨は言った。
それから二人の間の空気はとても穏やかなものになった。雨と風はもう数時間後にはよく思い出す子もできないような、そんなたわいのない世間話をしながら笑顔のたえない時間を過ごした。
「雨さんは子供のころから、ずっとまっすぐな人ですね」
二人の話が一周して、再びいつものように虹の話に戻ったところで、風は雨を見てそう言った。
「まっすぐ? 僕が?」
自分のことを指差しながら雨は言った。
雨は風にそう言われるまで、自分のことをまっすぐな人間だと思ったことは一度もなかった。
どちらかというと、まっすぐという言葉は雨よりも虹のほうがとてもよく似合っていると、雨は思った。
そのことを風に言うと、風は「雨さんも案外お兄ちゃんのこと全然わかっていないんですね」とちょっとだけ驚いた顔をしてそう言った。
「どうして?」と雨は言った。
「お兄ちゃんは全然まっすぐな人なんかじゃありません。お兄ちゃんはもっとめちゃくちゃな軌道を描く人です。まっすぐになんて絶対にそんな風に宇宙を飛んだりはしません。妹として保証します」
と自信満々の顔をして風は言った。
「宇宙をまっすぐに飛ぶのは雨さん。めちゃくちゃな軌道を描いて飛ぶのはお兄ちゃん。これはもう絶対です」
ふふっと笑って風は言った。
そんな風の自信満々の言葉を聞いても、雨はなんだか、そうなのかな? と思うくらいでなんとなく、やっぱり納得することはできなかった。
雨の頭の中で『虹という名前の彗星』はまっすぐ宇宙の中を飛んでいた。それは昔からずっと、虹と出会ったときからずっと、そうだったのだと、そんな風景を頭の中に思い浮かべてから、雨はこのとき今日、初めて気がついた。
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