彗星の軌道(旧)
雨世界
1 僕たちがいつか大人になるということ
彗星の軌道
登場人物
木葉雨 高校二年生 十七歳の少年
森虹 高校二年生 十七歳の少年
森風 高校一年生 十六歳の少女
プロローグ
どこに行こうか? きっとどこにでもいけるよ。
本編
僕たちがいつか大人になるということ
「彗星って孤独なのかな?」
天文部の部室に貼ってある彗星のポスターを見つめながら、森虹はそんなことを突然、幼馴染の親友である木葉雨にいった。
彗星のポスターを見ている虹の目はいつものようにずっと遠くにあるなにかを静かに見続けていた。
いつもそうやって虹は子供のころからずっと、すごく難しいことを考えていた。
とても大切ななにかを知りたいと思っていた。
雨はそんな虹の目を見ながら、虹の考えている『すごく難しいこと』を知りたいと思ったし、虹の探して言える『とても大切なこと』がなんなのか知りたいと思っていた。
でも、どちらも結局、雨には知ることができなかった。
わかろうと努力したのだけど、雨には全然、わからなかった。
虹はとても頭が良かった。
有り体に言えば虹は天才だった。
県内有数の進学校である県立三つ葉高等学校の中でも、いつも一番の成績をとっていたし、それだけではなく、全国でも上位十名くらいのところにはいつも森虹の名前があった。もっとも、虹本人は自分のことを天才だとは全然思っていないようだったけど、(虹はいつも雨に「僕は天才じゃないよ」と笑って言っていた)雨から見た虹は間違いなく天才だった。
虹は雨の手の届かないところにいた。
そんな虹に、雨はずっと子供のころから憧れていた。(虹は雨にとって、正義のヒーローのような存在だった)
虹はいつものそんな雨の憧れた目をして、雨のことを見つめた。
雨は部室の椅子に座っていて、長いテーブルの上で本を読んでいたのだけど、その本を読む手を止めて、さきほどからずっと虹を見ていた。
雨は虹の透明な目を見て、とても綺麗で、まるで宇宙のようだ、と思った。
雨はそれからずっと、彗星は孤独なのか、そうじゃないのか、そんなことばかりを毎日毎日、考えていた。
「あのすみません。突然、失礼します」
そんなことを言って、虹の妹である森風が近所にある雨の実家を訪ねてきたのは、夏休みのある日のことだった。
雨が家の外に出ると、泣きはらした赤い目をした風がにっこりと笑って、「お久しぶりです。雨さん」といつもと変わらない明るい口調でそう言った。
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