第15話 [条件]③


「その種族間の関係の悪化で両家の交流を取り戻そうと思われたお父様はディモニア家に使者を送り、両家で婚姻関係を結ぼうと提案されました」

「……もしかして、ルルゥさんが」

「はい。私はヴァンブラッド家の長女であり、二人の兄や妹に比べて魔力が弱いので適切な判断だと思っています」

「ルルゥさんには兄弟がいるんですか」

「はい。お父様そっくりの上のお兄様とお母様そっくりの下のお兄様、二人に負けないくらい優秀な妹がいますよ」


手の中で遊んでいた宝石をぐっと握りしめたルルゥさんは、僕を真っ直ぐ見つめてからにっこり微笑んだ。


「ヴァンブラッド家としてカル様の保護を約束しておりますが、ディモニア家に嫁いでもその意志は変わりません。カル様が望むならヴァンブラッドの本邸に保護を求めていただいても構いませんが、きっと辛い一生を過ごすことになるでしょう」

「辛い一生、ですか」

「昔はかろうじて生き残っていた人間に対して様々な研究と実験、望まない繁殖行為を強要したらしいのです。種族にとって価値の高い『人間』そのものを調べようとしたのですが、想定外の弱さに生き残りも死滅したそうですよ」

「そんな……でも、弱いのがわかったんなら僕にもう乱暴なことはできないんじゃないですか?」

「いえ、死なせてしまいましたがある程度どこまでしてもいいのかがわかっているので、恐らくその範囲内で研究と実験でしょうね。あまりカル様を怖がらせるようなことは言いたくないのですが」

「貴重な存在っていうならもっと手厚く丁寧に扱ってくれよ……」

「なので、カル様さえよろしければ私と共にディモニア家にいてくださいませんか」


ルルゥさんは初対面から優しかった。貴重な『人間』だとわかれば他の吸血鬼が彼女みたいに優しくなる可能性はもちろんあるだろう。


今、僕の世界の基準はルルゥさんに教えてもらった情報しかない。僕を案じて真実を言っているのか、僕を逃がさないための嘘なのか、その判断はとても難しい。


「僕はルルゥさんと約束してるので、ルルゥさんについていきますよ」


ただ、見知らぬ吸血鬼より知ってる吸血鬼についていくほうがいいんじゃないかと僕は思った。


「嬉しいお言葉をありがとうございます。交流がないのでディモニア家がカル様に対してどういう対応をとるのかわかりませんが、いざというときは力を貸してくださいね」


ルルゥさんの笑みは僕を勘違いさせる。人間だということを除いても僕自身が大事なんだと言われている気分になる。


出会って日が浅いから仲が深まるもなにもなく、今のところ丁寧な捕食者とレアな被食者の関係でしかないのに。


―――トントンッ


「姫様、お待たせいたしました」


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