第86話 冒険、経験、喧嘩にまけん②

 魔獣は、魔核を破壊されて、倒れた。


「大丈夫?治せる?」

「ええ、お薬があるので。どうもありがとうございました」


「えっ・・・・ああ、どうも」

 彼女は、伯爵令嬢のセーラだった。


 いったいここで、何をしてる?


「あの、今使われた剣は、その・・・名のある武器ですよね?」


 うん?ぼくは咄嗟の事で、どう答えていいかわからなかった。


 彼女には、ぼくが仮面を被っているせいで顔を見られていない。

 それに、仮面で、声がくぐもって聞こえて、声ではぼくとはわからないだろう。


「オレの家の宝剣で、ノーネームって名前だ(それ、名前かな?)」

「ふざけてます?」

「あはははは、ばれちゃったか。でも、おいそれと名前を他人に教えることはできない。ところで、君はなぜ一人でここに?」


「それは・・・・秘密です」

「あはははは、オレも秘密だから同じだね」

「そうなんですか?」

 あっ、いらんことを言ってしまった!


「秘密は女の子の専売特許じゃないからね。ぼ・・オレのような見るからに秘密な男の子は、秘密だらけなのさ。あははははは」

 あぶない、あぶない、もう何を言ってるのかわからないぞ!

 早く、帰ろ。


「あの・・・私、道に迷ってしまって。できたら帝都の街まで一緒に連れて行って頂きたいのですが」

「えっ?・・・それは・・あはははは!オレにできることがあれば、なんなりと、お嬢さん」

 こんな感じかな・・・冒険者風のキャラ、出来てるかな。

 冒険者としゃべったことがないから、わからないや。


 こうして、ぼくはセーラと・・・ああ、名前を聞かないと。知ってるけど・・・あれ?それだとぼくも名乗らないと・・・・ええっと、名前・・ノーネームってバカだよな・・・えっと・・・・。


「あの、わたし、セーラって言います。その、伯爵とかの貴族ではありませんので、お気遣いなく。あの、貴方のお名前は?」

(あっ、まずいよ。伯爵なんて言っちゃった。ついクセで・・・大丈夫かな?)



 きたよ。

 えっと・・・。

「あははははは、名前ね~~。君も本名じゃないんだろ?」


「えっ!ええ、もちろんです!」

(ああ、良かった!気づいてない!意外と、マヌケなひと?)


「まあ、無かったら無かったで会話しにくいだろうし。オレの名前は、ユーマだ。名前は、ゆーまい(言うまい)と思ってたんだけどね、あははははは!」

 冒険者って、こういうベタなダジャレを言うってクリス王子が言ってたからね。

 ここで役立ったよ!

 ありがとう、クリス!


「うふふふふふふ、面白いです!それ、ダジャレって言うんですよね?そうですよね?わたしの叔父が時々おっしゃるんですけど、みんなから浮いてて、いつもバカにされちゃうんですけど、わたし、大好きですよ、ダジャレ。でも、もう満腹かな?うふふふふふふ」


 えっ?満腹?それって・・・これは貴族的な拒否のお言葉では?

 しかも、何気にディスってない?

 貴族は相手の立場や気持ちを考慮して、婉曲的な表現をするって、バネッサ先生がおっしゃってたよね。

 ぼくは、ちゃんと教育を受けたことがないし、デュフォー家は武の家柄だから、よくわかんないんだけど。


「あはははは、もう言わないから安心してね」

「はい、でも、今度会った時、また、ダジャレを言っていただけませんか?笑ってみたいので」

(わたし、なに、言ってるんだろう。ひょっとして・・・いやいや、ないない)


「(はい?)あははははは、そうか、じゃあ、また今度ね、あはははは!」

 いやーー、この「あはははは」って、使えるよねー、あはははは。


 こんな調子で会話しながらも、ぼくは索敵を怠らない。

 これが、並列思考ってことをカレンが言ってるので、そうなのだろう。


 そうして、僕等は、帝都の街に入った。

 そして・・・・・。


「君・・あっ、えっと、セーラ?さっきから、ぼ・・オレと同じ方向に歩いてんだけど、こっちが君のお家なの?」

「うふふふふふ、いいえ、わたし、冒険者ギルドに用があって」

(おうちって、時々、可愛いらしい事を言うのね、ユーマって。この人、わたしと年齢が近いのかな?)


「えっ?ぼ・・オレも冒険者ギルドに行くんだけど」

「あらっ?ユーマって、冒険者なの?さっきも一発で魔獣をやっつけちゃったし。もしかして、A級の冒険者さんなの?」

「いやいや、そんな凄い事ないよ。この前、D級に上がったばかりだから」

「えっ、じゃあ、わたしと同じ。良かった。あの・・わたしとパーティーを組みませんか?」


「えっ?・・・」

 どうする、これ?

 ぼくは、あくまでもソロでやらないと、バレちゃうし・・・・。


「あの、すぐにお返事しなくてもいいですよ。わたし、今度みたいな事があったら嫌なので、誰かと組まないといけないと思ってたんだけど、冒険者に知り合いがいないので」


「オレは、ソロが基本なんだ。だから、一緒に探してみない?そのくらいは手伝ってあげるからさ」

「ありがとう、それじゃあ、お願いします」


 こういう訳で、ギルドへ行き、受付のお姉さんに訊いてみたけど、同じ年齢位でパーティー募集をしている人たちはいないらしい。

 っていうか、ぼくたちは、最年少の冒険者なので、そこがネックになっていた。


 他の冒険者たちをずっと観察してたけど、良い感じのオーラを宿している人は少なく、そんな感じの人が居ても、そんな人たちと組んでいる人たちは残念な人だったりと、あまり時間がない中、探したけどダメだった。


 ぼくは、彼女を早めの夕食に誘った。

 さすがに、夜遅くになると、彼女もヤバいだろうし、このままほっとくわけにはいかなかったので、切り上げる口実としての夕食だ。


「わたし、あそこの冒険者御用達のお店に行ってみたかったんです。ユーマは、行ったことあるんでしょう?」

「あははははは、もちろんだよ」

 ウソをついた。

 なぜ?

 ちょっと、カッコ良い冒険者風を演じたかったから?

 いいよね、アーネ?

 君の親友なんだから、ほっとけないよね?


 って、言い訳をぼくの心の中でつぶやく。


 カレン『トーマ、その子、魔眼持ちよ!気をつけなさい!』


 えっ?

 ぼくは、固まった。





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