第78話 アラクネ

『おいっ!起きろ!朝だぞ!!』


「う~~~ん、まだ暗いよ・・・すや~~~」


『おいっ!起きろ!朝めしが無くなるぞ!』


「う~~ん、まいう~~~むにゃむにゃむにゃ・・・・すや~~~」


(なんだ、こいつ?スヤスヤと寝やがって!おいっ!カレン!何とかしろよ!)


(う~~~ん。もう食べれないわ・・すや~~~)


(こいつら、ポンコツだな・・・・もう少し、寝るか、オレも・・・すや~~~)



 帝都の朝は、早い。

 夜明け近くから市場が開かれ、市場の関係者などはもっと早くから準備をしている。

 帝都の夜も、実は遅い。

 夜の明かりは深夜になっても、帝都の街を照らし、まさしく不夜城と呼ばれる人間族の街で一番の賑わいを見せる。


 ところで、時刻は、多くの者たちが教会の鳴らす鐘で知ることとなる。

 朝一番の鐘は、太陽が全部、地上に出た時に鳴らされる。


 今朝も、その鐘が鳴らされると、トーマは侍女たちに起こされ、慌ただしい一日が始まるのだった。


 のだが、トーマは朝イチのトイレに入っていると、また声を聞いた。

『おいっ!そろそろ、オレの声に気づいてんだろ!返事しろよ!』

「すや~~~~」

『おい、そういうボケは、もういいから!』


 ~~~~~~

 アラクネ(魔王)視点


 勇者・・・お前を見つけるのに、時間がかかり過ぎたぞ!・・もう・・オレは・・・・。


 オレは、元魔王。

 あの時、勇者に魔核を切られた時・・・実は、真っ二つに斬られるように微妙に微調整しながら斬られたんだわ!


 あはははは・・・うっそ!

 そんなこと出来たら、勇者なんかに斬られるわけないだろ!

 あははははは!

 そうだよ~ん、オレの昔の魔王キャラはもう無い。


 あの時、魔核は、一つは勇者の魂と融合し、もう一つはこのアラクネの魂と融合したのだ。


 偶然に融合・・・なわきゃねーだろ!

 これは、アラクネと考えたプランCだ!

 勇者を殺す為、オレが死んだ場合でも、勇者を殺す為のプランCだ。


 オレと融合したアラクネは、もう喋る事は無い。

 彼女?は、オレに全てを委ね、オレを受け入れ、オレと融合し、オレの人格に影響を与えている。だから、オレはアラクネのやってきた事も、全てを知った。


 このトーマには、全てを話すつもりだったが、時間が、もうオレには無い。

 コイツは、前世の記憶が無い。

 話しても、まるで他人事のように実感がわかないだろう。


 まあ、それでもいい。


 しかし、勇者があの様な事になるとは、流石に予想出来なかった。


 もし、オレが奥の手を使って生き返り、アラクネと融合などしなかったら、奴等の企みも知ることが出来たのだが・・・。


 その奥の手を使ってまで救ったミーシャは、奴等の慰みモノになっている。


 許せねーー!!


 オレは、また、見ているだけだ!

 この10年以上、またそんな感じで生きているなんて、勇者が死んでも生き地獄だった。


 プランCも、アラクネと融合するところは予定通りだったが、アラクネ本体が使い物にならず、アラクネの使い魔に宿るしかなかったのは誤算だった。


 そして、勇者を殺させる予定だった聖女たちが、既に奴等の手に落ちているのも、誤算だった。


 それでも、勇者は賢くて強い。

 そう簡単にはいかないだろうと見ていたら、奴等の筋書き通りになった。


 しかも、ミーシャまで取られて。


 オレは、魔王・・・・だったモノだ。

 また、魔核を成長させようとしたが、魔力が足らない。


 魔核さえ復活すれば、と思ったが、それも無理だった。

 そもそも、魔力を最初に使い過ぎた。


 この身体、こんなに小さいが、よくもってくれた。

 換魂の術を行う魔力は、すでにない。

 もはや、使い魔達のコントロールもままならない。

 オレは、もうすぐ死ぬ。


 しかし、このトーマが魔剣を手にしてくれた。

 お陰で、会話もでき、魔力を借りることができる。


 だから、オレは決断した。

 このヴェルギリウスを使えるトーマに全てを託すことを。


 ヴェルギリウス、悪かったな。

 オレは、お前を信じられなかった。

 あの時は、何も、誰も信じられなかった。

 ガートルードも、あのミーシャさえも。


 ミーシャは、オレの愛しい義妹。

 アラクネが、ミーシャにしたことは許せないが、もうそれはいい。

 今、お前を救ってやれるのは、このトーマだ!


 ヴェルギリウスを統べるカレンよ、頼むぞ!

 今、お前を信じる。

 オレの、最初で最後のオレの頼みを聞いてくれ!


 ターシャ、今から君の所へ行くよ。

 ごめんね、オレ、何もできなかった。

 次に、生を受けるときには、一緒になろう!!


『唯一無二、天下独尊、生者必滅、自他合一・・・我、帰るべきところへ帰らん!復核せよ、我が魔核!我が命を捧げ、カレンに託す!無即有也、有即無也・・・う~~~~~む・・・・・』


 こうして、アラクネとなった魔王は消えた。



 ~~~~~~~

 再び、トイレの中のトーマ。


「う~~~~ん」

 ああ、スッキリした。

 今日も、一日、快便快調!!

 そう思った時、ぼくは、心臓が飛び出そうになる衝撃に、意識を失った。







 ~~~~~~~~~~~~~

 作者より。

 ごめんなさい!

 食事しながら、読んでいる人がいたら、ごめんなさい!



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