第71話  アリシア

 ~~~~~説明多めのため、この話は蹴飛ばしてもOK。




 わたし、アリシア=フォン=デュフォーは、ガーランド帝国の皇帝ルドルフ14世の側室となり、すぐに妊娠する。


 当時、25歳だった私は、本当は、皇帝からのシツコイ求愛に辟易としていた。

 だって相手は、 50過ぎのジジイですもの。


 私がこの歳まで結婚しなかった理由は、暗部に所属していたせいである。

 暗部にいると、死を日常の中で意識せざるを得ず、また、魔力ドリンクを基本、毎日飲まなければならない。


 この魔力ドリンクは、確かに魔力を高めるモノではあるが、同時に副作用が存在する。

 特に作用が強いモノほど、クスリというモノは副作用が強く出る事は常識だ。


 このドリンクの副作用は、普段では考えられない行動をとったり、いつもと真逆の感情に支配されたりすることだ。

 でも、私は、負の感情が芽生えた時に、それを増幅させるのではないかと思っている。例えば、可愛い可愛いと子犬を撫でるときに、その犬が噛むようなしぐさを見せて一瞬怖いと思ってしまったら、その犬を殴り殺してしまうとかだ。

 だから、突飛な行動を取るとか、真逆な反応をするとか言われるのだと思っている。


 また、暗部に何年もいると、このドリンクを飲む真の理由がわかってくるようになった。このドリンクは、むしろその副作用を狙って飲むのであり、負の感情によるエネルギーを指に着けさせられる指輪に溜めさせているのではないかと思っている。

 しかし、この指輪が溜め込む量は限られており、それ以上の負の感情に支配されると、闇に飲まれ、精神が狂ってしまう。

 そうして、気が狂う者たちを、今までに多く見て来た。


 私は、魔眼を使えるので、このドリンクの吸収を阻止しながら飲むことができる。

 ふつうは、ドリンクの無毒化など一瞬ではできる訳がなく、だから私の場合は、臓器の粘膜からの吸収を防ぐべくシールドを張るという繊細な魔力行使を行い、そして、無毒化を図っていく。

 お陰で魔眼の使い方の練習にはなった。


 そんな事のできる私だからこそ、暗部に長く居て、天才魔導師と呼ばれるようになった。


 そして、そんな私は処女であるため、皇帝の食指が動くというモノだ。


 しかし、父が死に、事態は急展開を見せる。


 父は勇者の目の前で無残な死を遂げた。

 何もしてくれなかった勇者へ復讐する為に、私は権力が欲しかった。

 それに、帝国騎士団の中で、デュフォー伯爵家がそれなりの地位を維持していくためでもあった。


 父亡き後の当主は、私の弟。

 魔眼持ちの私より剣技が拙い。

 帝国学園時代から、父が騎士団長で地位が伯爵なのをいい事に、弱い者イジメをするかと思うと、なまじイケメンの為、他人の女性を寝取ることに情熱を燃やすなど、一族の恥晒しだ。


 そのような弟がこれからデュフォー伯爵家を背負って立つことなど無理な話である。

 たぶん、父は、弟がこのようだから、魔王を倒してデュフォー伯爵家の地位を安泰にさせたかったのだろう。



 このように、私は打算で、側室となりルドルフの子を身籠った。

 もちろん、勇者は、あれから死んだため、復讐を遂げることはできなかった。


  妊娠をしても、皇帝は私を暗部の仕事に就かせた。

 フランツ王国が戦争をするなど、世界情勢が緊迫しているからだ。

 でも、それは表向きの事。

 私で、暗部の研究者は実験をしているのだ。

 妊娠中の暗部の女性、しかも、長く狂わずにいる魔導師としての力量が高い私で。

 妊婦がどうなるのか?

 私の子がどうなるのかを。

 今までも、妊婦に実行してきたのだろうが、悉く失敗したらしい。

 私にも情報網はあるし、魔眼がある。

 すべてはあの、ハゲの暗部最高顧問のせいだ。


 私が皇帝の妻という地位にあるなど関係がなかった。

 私には、何の権力も無かった。

 騙されたのだ、私は・・・・・。

 皇帝と暗部のハゲとの関係を全て見通せるほど、私の魔眼は完全ではない。

 なので、あとは・・・・・・・。


 私は、暗部でも指折りの魔導師の為、やることは多々あった。

 最近、とみに暗躍する王国のスパイや他国のスパイたちとの水面下での攻防や、帝国の裏切り者たちの始末など、殆どが暗殺に関するものだが。


 でも、妊娠という表向きの理由で、帝都近辺の任務に限ってもらっていた。

 知ってるわよ、データを取るために、近くに私を置いているのを。



 妊娠中は、私の子供にドリンクの害が及ばないように、私の身体よりこの子にシールドを多く施した。そのため、徐々に私は、感情のコントロールが効かなくなっていった。

 でも、この子のため、私はできるだけの事をしようと思った。

 もちろん、その時は、自分が闇に飲み込まれることなどないと思っていた。

 


 やがて、この子の産み月となり、どうやら私の精神が正気でいられる時間の方が短くなってきているという事がわかった。

 そこで、私は、決意を固める。


 自分の魔眼の力をこの子に与えることを。


 私は、この子がお腹にいるときから、話しかけていた。

 この子の映像が私には見える。

 この子は、魔眼持ち。

 しかも、私と同じ両目の魔眼持ちだ。


 私の家系は、たまに魔眼持ちが生まれる。

 でも、親子で魔眼持ちは珍しい。


 でも、この子の将来の為、魔眼の発現が周囲に知られては、暗部へと配属されるかもしれない。

 だから、私は、この子の魔眼の発現には、ある条件を付けた。

 できれば、そのようなモノを使わずに、真面まともな人生を歩んでほしいという願いを込めて。


 そして、待望の赤ちゃんが生まれた。

 私は、もちろん、魔眼の継承を即座に行った。

 継承するには、直接眼を見ること、そして、年齢が早ければ早い程良い。

 生まれたての赤ん坊は、ふつう、眼を閉じているものだが、この子は違う。

 なぜって、


 でも、私の全ての能力を与えたのではない。

 そんなことは、いくら魔眼でも不可能だ。

 魔眼は、魔力の流れが見え、それに干渉できるのが基本だ。

 それから派生する、いろいろなスキルが存在する。

 また、備わったオリジナルの能力もある。

 私は、私のオリジナルだけをこの子に与えた。

 正確には転写したのだが、時期自分のモノになるだろう。

 これは、親子であり、両眼の魔眼持ち同士だけが行えること。


 しかし、周囲に知られないようにという気持ちが強すぎて、眼に熱水を掛けると言う奇行に出てしまった。


 ごめんね、私の赤ちゃん。

 ごめんね・・・・・。


 折角の可愛い顔が・・・でも、私は

 この時に、私は自覚した。

 もう、自分が感情をコントロールできない所まで来ていると。


 私は、赤ちゃんと距離を取るしかなかった。

 私は、この子を見ると、感情がたかぶって、何をするかわからなかったからだ。


 私は、それでも時々、この子の魔眼の状態を観察した。


 私が湯をかけてしまったを知るために。


 私には、時々、未来視の魔眼が働くことがある。

 私には、心の奥で見えていたのだろう、この子の未来が。

 この子が魔眼を使う未来が。



 湯を被った左眼は、通常の視力は戻らないが、魔眼の能力が発揮されない訳ではない、いや、むしろ通常視力がない分、魔眼の発動がしやすいはずだ。


 でも、この子は気づくだろうか?

 私の子だから、多分、気がつくことだろう。

 私の魔眼の特性を。

 そして、自分の身を守ってほしい。

 自分の大切な人を守ってほしい。

 そのために、魔眼を使ってほしい。


 決して、暗部や帝国のおもちゃなどにならないでほしい。

 この私の様に・・・・・。


 私は、この子を産んでから、私の心への闇の浸食の度合いが急速に高まって行った。

 ということは、実は赤ちゃんが、自己防衛本能かもしれないが、お腹の中にいるとき、私を逆に守っていたのかもしれない。

 私が守っていたと思っていたのに。


 もう、ドリンクを飲まなくてもいいのだが、このドリンクには依存性があり、飲まないと更に気が狂いそうになるのだ。

 だから、飲まざるを得なかった。


 そうして、私は、出産してから、なんとか2年を生きた。


 正気の時に、2歳になろうとする我が子に最後の別れをした。


 「あなたの魔眼には、私がいつでも宿っているのですよ。だから、安心なさい」

 そう言って、私は彼の、光を宿していない左目に素早くキスをした。

 彼の左眼が一瞬、光ったように見えた。

 彼は、私のことがわかっている。

 「ママ・・ママ・・・」

 そう言って、笑うのだ。

 私を見ると、笑うのだ。

 彼の片言は、私にとって、何百倍もの言葉となって響いてくる。


 私は、更に彼の頭を優しく撫でようとするが、周りに止められた。

 それ以上の接触は、乳母たちや養育係に止められてしまった。

 彼には、私の何もかもがわかっているはずだ。

 お腹の中にいる間、私はずっとしゃべってきた。

 彼は言葉を発することはなかったけど、彼の感情は流れ込んできていた。

 ああ、私の愛しい子。



 私は産後、実家に帰っていたのだが、精神が不安定という理由で、それからずっと実家にお世話になっていた、我が子とともに。


 実家では、この子の従姉、シルフィア=フォン=デュフォーが、姉の様にこの子の世話を焼いていた。

 まだ、5歳前だというのに、彼女は利口でよく気がつく、優しい子だった。

 そして、まるで、自分が母親であるかのように、この子の相手をしてくれる。

 だから、この子を彼女に託した。

 傍にいる、彼女が私に話しかけてくる。


 「おばちゃま、どこに行くの?」

 「うんとね、お空のお星さまになるの」

 「えっ?そんな事が出来るの?」

 「うふふふふ、出来るのよ、おばちゃんにはね。だから、夜に南の空を見てごらん。いつも、こっちを向いて一番輝いてる星があるから。それが私よ」

 「えーー、そうなの?じゃあ、今晩、見れる?」

 「ええ、晴れてたら見えるわ。この子にも大きくなったら教えてあげてね。そして、私の代わりにこの子のこと、お願いね」

 「うん、わかった!」


 彼女は無邪気に笑った。

 私には、彼女から優しい魔力の波動が感じられるし、見ることができる。

 彼女なら、大丈夫だ。

 私は、彼女にわからないように、潜在能力の底上げとその発現が早期にできるように手助けをしていた。


 この二人、これから大きな試練が待ち受けているこの二人に、どうか女神様の御加護がありますように・・・・そう願いながら、私が私である今この時に、わたしは・・・・・・。


「ごめんね、生まれてから、あなたに何もしてやれなくて。おっぱいすらあげられなかった。もできなかった。抱っこして、あやすこともできなかった。こんなママで、ごめんね。そして、こんな顔にしてしまってごめんね。大好きだよ!愛してる!ずっと、ずっと、あなたの幸せを願って見守ってるわ!あなたの魔眼は私の愛の魔眼。私が唯一、あなたにあげれた能力。私がまだ自由に使いきれなかった能力、あなたなら更なる高みまで引き上げられるはずよ!私にはわかってるんだから。愛してるよ・・・・・トーマ!」


 そう言うと、私は別室へ行き、魔力を両眼に集中させた。

 そして、両眼を中心に魔力を爆発させた。


 さよなら、トーマ・・・わたしの愛しい子。



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