第一章:Berandal

ヒメミコ (1)

 何故、世の中と云うのは、こうも巧く行かないのだ?

 私は、千数百年前……今のこの国の呼び方では弥生時代末から古墳時代の初め……九州の半分近くと本州の一部を、強力な……自分で言うのも何だが……呪術により支配していた女王だった。

 だが、とんでもない時代に目を醒してしまった。

 この時代には……私のような者……今の呼び方では「特異能力」とか「異能」とか呼ばれる力の持ち主はゾロゾロ居るらしい。

 いや、どうやら、この時代の学者達の研究によると、私の時代にも結構居た痕跡が到る所に有るらしいのだが、迂闊にも私が気付いていなかったようだ。

 そして、私が目覚める二十数年前……海の彼方にある「アメリカ」とか云う国で起きた9・11とか呼ばれる事件……それを契機に、異能を隠していた者達が大っぴらに自分の力を使い始めた。

 もちろん、この国を含めた全世界で。

 更に悪い事に、私が生きていた頃に得意としたのは、太陽の霊力を操る呪術だった。死霊と太陽は非常に相性が悪い。死霊となった私は、生前、最も得意とした呪術を使えなくなってしまっていた。

 早い話が、今や私は、この時代にどこにでも居る「異能力持ちのチンピラ」と化していた。それも、良く見積っても「中の上」か「上の下」ぐらいの……。

 何とか三〜四十人の部下を持つ……と言っても、半分は私が支配している精霊すだまを取り憑かせて操ってるヤツらだが……「暴走族」とやらのリーダーになったは良いが……。

「おい、どうして、私ばかり狙われる?」

 敵は、この時代の「銃」と云う武器で、私に、もの凄い速さの小さな金属カネの塊を浴せる。

 一方、私はの防具を着装つけさせた部下に、「県警の機動隊」とやらから奪った大型で頑丈な盾を持たせて、銃弾とやらを防がせていた。

 しかし、何とか敵の隙を作らねば、術を使うのに必要な暇さえ出来ない。

『あのさぁ……。普通、あんた……と言うかちゅ〜かあたしがリーダーだって判るんじゃないの?』

 私の今の体の本来の持ち主である野見山千夏と云う名前の女が、頭の中でそう言った。

『何で、「レコンキスタ」の「レンジャー隊」のコスプレなんてやるかなぁ?』

 私と私の部下は……私が赤、頭が回る副官クラスが青、力を強化する術をかけているヤツが黄色、飛び道具が得意なのが黒、その他大勢が緑の……服や防具を着ている。

 もちろん……参考にしたのは「対異能力犯罪広域警察機構」レコンキスタの「レンジャー隊」と云う奴らだ。

 どうやら、更にその起源は、昔の「戦隊もの」なる作り話に有るらしいが……。

『いや……この時代のいくさの決まり事だと思ってな……』

『……』

『……すまん……。この時代の言い方だと……「格好良かったから」だ……』

『あのさ……悪事をやるなら、真面目にやってよ。この体、あたしの体なんだよ、本当は……』

 私がやっている事は……私が生きていた頃にも良く有った事だ……。まぁ、今の呼び方で言うなら「代理戦争」。

 どうやら、遥か遠い場所で……私達よりもかなり規模の大きい「ゴロツキの集団」が壊滅し……その生き残りがこの辺りに落ち延びたらしい。「生き残り」と言っても数百人は居る、かなり強力な武器を持った連中が……。

 一方で、元から、この辺りを縄張りだと思っていた別の「ゴロツキの集団」にとっては、他所者よそものの集団など目障りだ。

 私達は他所者よそものに雇われ……敵は「地元のゴロツキ集団」……「青龍敬神会」を名乗る今の呼び方だと「ヤクザ」に雇われ、本気の戦いの「前哨戦」をやる羽目になったのだ。

 せっかく甦る事が出来たは良いが……私が再び一国の女王になれる日が来るとしても……かなり先のようだった。

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