42話。天魔騎士団
身体が鉛のように重くなり、その場に片膝をつく。
「ルカ様! 大丈夫ですか!?」
エリザが肩を貸してくれる。
【滅龍聖矢(ゲオルギウス)】は、生命力だけでなく、そうとうな体力も消耗する。
「ああっ。少し休めば大丈夫そうだ」
ボクは荒い息を吐いた。【光翼(シャイニング・フェザー)】を解除して、とにかく身体を休めることにする。
『見事! やはりこの程度では、貴様の命を奪うにはいたらぬようだな』
天を見上げると、雲の中から消し飛ばしたハズの空中都市アルフヘイムが、その威容をのぞかせていた。
「……なんだと?」
『驚いたか? 今落とした空中都市は、余のスキル【複製】で増やした複製品だ。アナスタシアの【オーバースキル】の支援があってこそ実現できるモノだがな』
国王の嘲笑うかのような声が響く。
あんな巨大な物体まで複製できるなんて、それは反則じゃないか?
シュナイゼルとアナスタシアの力の巨大さにおののく。
「さすがはお父様と言ったところですね。【滅龍聖矢(ゲオルギウス)】は連発は不可能。先にルカ様の切り札を潰すのが、狙いだったようです」
イルティアが顔に疲労を滲ませて言う。さしもの彼女も、アークデーモンを大量召喚し、生命力もボクに渡したため、消耗しているようだ。
「ですが、ご安心を。お父様の【複製】は消費アイテム以外はひとつしか増やせません。空中都市を何度も複製して落とすことは不可能です」
イルティアの解説に、ボクはほっと胸を撫で下ろす。
『イルティア。奴隷に身をやつすとは、王家のとんだ面汚しよ。やはり、貴様は姉のルディアにはるかに劣る! ニ年前、ルディアではなく、貴様が病で死ねば良かったのだ』
父王の酷薄なセリフに、イルティアの顔が歪んだ。
空中都市アルフヘイムから、小さな黒い点が空中に大量にばら撒かれる。
なんだあれは……?
『余の【複製】は消費アイテムしか無限に増やすことはできぬ。しかし、消費アイテムの材料に魔物や生物の死骸が使われることが多いことを知っておるか?
そう、死体なら余は無限に増やすことができるのだ。そして、【魔王の魔導書】のアビリティ【死王(ノーライフキング)】は、決して滅びぬ最強のアンデットを生み出す力』
ボクは遠くを見ることのできる遠見の魔法で、小さな黒い点の詳細を確認した。
「あれは……【光翼(シャイニング・フェザー)】!?」
それは輝く翼を持った少女たちだった。
武装した500人近い少女たちが、空から落ちてくる。
しかも、そのいずれもが同じ顔。やや幼いが、イルティアにそっくりな美貌をしていた。
「まさか、まさか……ルディアお姉様!?」
イルティアが眼を剥く。
『そうだ。余の娘。二年前に亡くなった第一王女ルディアの死体を複製し、魔王の力で最強のアンデットとして蘇らせた軍団。しかもこやつらは、魔王から奪った最強の武器防具で武装しておる。
これぞ神をも殺す余の近衛騎士団。【天魔騎士団】だ!』
勝利を確信した国王シュナイゼルの高笑いが響く。
天魔騎士団ひとりひとりから、凄まじい圧を感じる。
あれが地上に降りてきたら、とんでもない殺戮が開始されることは、火を見るより明らかだった。
『さあ、我が娘ルディアよ! 裏切り者の妹イルティアを殺せ! 紛い物の勇者ルカを倒せ! 反逆者どもを根絶やしにしろ!』
「……自分の娘をなんだと思っていやがる!」
ボクは怒りに聖剣を握りしめた。
ルディアだけではない。イルティアの悲しそうな顔を初めて見た。
「フェリオ! あいつをぶちのめしに行くぞ! エリザついてきてくれ!」
「はっ!」
ボクはエリザと共にユニコーンの背にまたがる。
天魔騎士団はアンデットの軍団。国王シュナイゼルによって生み出されて統率されているのなら、ヤツを倒せば動きをとめるハズだ。
「聖騎士団は街の防衛を頼む! イルティアは悪いがミリアを守ってくれ。奴らはミリアを狙って来ると思う」
ミリアが死ぬばボクの命も無くなる。そのことは、おそらく国王も承知しているハズだ。
「わかりました。ルカ様、どうかご武運を!」
「ルカお姉様! 勝利をお祈りしています!」
イルティアやミリア、聖騎士の少女たちに見送られ、ボクは空中都市に向かって飛び立った。
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