22話。神域のアビリティ
「ルカ姫様。私はあなた様に剣を捧げ、家臣となりました。どうかこれまで通りエリザとお呼びください。敬語は不要でございます」
『剣の誓い』の儀式を終えて、ボクの家臣となったエリザは、胸に手を当てて告げた。
「わかりました。ではボクからもお願いですけど。ルカ姫様は、やめていただけませんか?
ボクは王女じゃないし、女の子扱いされると困ります」
実は昨日、領主の屋敷に帰る際、疲労困憊で動けなくなったボクを、エリザがお姫様抱っこで運んでくれた。
衆人環視のすさまじい羞恥プレイだった。妹にも見られたかも知れない。
「ボクはお姫様抱っこされる方じゃなくて、する方です!」
「か、かしこまりました。では、公の場以外では、ルカ様とお呼びいたします。
し、しかし、ルカ様は、むくれたお顔も、美しくかわいらしい……イルティア様より可愛げがあると申しますか。お、お守りしたくなります」
エリザは、なぜかぽっと顔を赤らめた。
「だから、女の子扱いしないでください、てば!」
「はっ、申し訳ありません。以後、気をつけます」
生真面目にエリザは頭を下げる。
「……悪かったわね。可愛げがなくて」
イルティアが、ふくれっ面をしていた。
「ふん! まあ、いいわ。ではルカ様、朝食にいたしましょう!」
イルティアが、待ちわびた様子で呼び鈴を鳴らそうとした。
彼女は、さっきから空腹を我慢していたらしい。
「その前に、イルティア。これを外して欲しいんだけど」
ボクは右腕にはめられた黄金の腕輪を指す。
この都市が陥落すると、死ぬという呪いがかけられた腕輪だ。イルティアにはめられたこれは、どうやっても外れなかった。
「も、申し訳ありません。それの解呪方法は、私にもわかりません。『魔王の魔導書』の解読が進めば、判明するかも知れませんが……」
イルティアは勢い良く床に手を付いて平伏する。
「いたらぬ奴隷に、どうかルカ様のお仕置きを! 私を逆さ吊りにして鞭打ち、犬と呼んで蔑んでください!」
頬を上気させ、イルティアはなにやら潤んだ瞳でボクを見つめた。
な、なにを期待しているんだ、コイツは……
「だから、そんなことする気はないって!」
「イ、イルティア様……」
エリザも長年仕えてきた王女の痴態に、目を見張っている。
「魔導書の解読が必要か……わかった。それじゃ、その件は任せる」
「はっ! 身命を賭して遂行いたします!」
ボクの命令に、イルティアは喜悦の表情で応じた。
「言っておくけど、魔王の魔法を許可なく使うのは禁止だからね」
「御意にございます。魔法実験を行う際は、許可を仰がせていただきます!」
昨晩からの言動を見てきて、イルティアが本心からボクに忠誠を捧げていること。ボクに崇拝に近い異常な好意を抱いているのがわかった。
おそらく魔導書を渡しても、問題ないだろう。
「ルカ様。ご報告せねばならないことがあります。実は私が持っていた魔王の魔導書は本物ではありません。本物はお父様の元に物質転送魔法で送ってあります」
「はぁ?」
ボクとエリザは同時に間の抜けた声を上げた。
「私のお父様。国王シュナイゼルのスキルをご存知でしょうか?」
「消費アイテムを増やせるという【複製】でしょ?」
エリクサーなど貴重な消費アイテムを無限に使うことができる、理を超えた力だった。
「はい。しかし、エルフの王女の力を得て、お父様の【複製】は、武器や防具の類いも、ひとつですが増やせるように進化したのです。それは勇者の聖剣や魔王の魔導書といった神域の武器、魔導具であっても例外ではありません」
驚愕の事実に、ボクは言葉を失くした。
「もしやイルティア様の持っていた魔導書は、シュナイゼル陛下のスキルで複製されたものであったと!?」
エリザが椅子を蹴立てて立ち上がる。
「その通りよ。でも進化したお父様のスキルにも限界があります。神域のアイテムを複製した場合、神の加護であるアビリティまで再現することができないのです。
例えば、私の聖剣には【HP自動回復(リジェネレーション)】といったアビリティが宿っていますが。聖剣を複製した場合、このアビリティの欠けた物になるのです」
そこまで聞いて、気になる疑問が湧いた。
「それじゃ、魔王の魔導書のアビリティって何?」
魔王の魔導書を携えたイルティアは、間違いなく強敵だった。
アビリティが欠けた魔導書を使っていたのだとしたら、国王の力はイルティアを上回ることになるのじゃないか?
「申し訳ありません。アビリティは魔導書や聖剣から真の使い手として認められないと発現せず……魔導書から、私は使い手として認められなかったため、どんな力かわからないのです」
イルティアは、恥じ入ったように身を震わせて答えた。
「不老不死の力かと思ったけど、違うのか?」
「その可能性もありますが……魔王の魔導書を解読すれば、不老不死に達することができるとエルフの古文書に書かれていました」
その時、閃くことがあった。
「それじゃ、ボクが女神様からもらった聖剣【スター・オブ・シェラネオーネ】にもアビリティが有るってこと?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます