12話。妹とデートに出かけることにする

「こら! それ以上、前に出てはいかん!」


「あん! 兵隊さん、ルカお兄ちゃんが全然、見えないよ!」


 大歓声の中に、聞き慣れた声がわずかに混じった。

 視線を向けると、沸き立つ群衆の最前線で、兵士と押し合いをしているコレットがいる。


「すごい! すごいよ! お兄ちゃん、勝ったんだね! 私、神殿で女神様にずっとお祈りしていたんだよ!」


 コレットは、ぶんぶんと大きく腕を振った。ボクに見つけてもらおうと、その場で飛び跳ねる姿が、かわいかった。

 そう、ボクの妹は世界一かわいい。

 

「……あっ、コレット!」


 ボクは幻獣フェリオより飛び降りて、妹に駆け寄った。

 壁となる兵士をかき分けて、コレットの手を取る。この温もりこそ、ボクが一番守りたかったモノだ。


「コレット! 最後の戦いの時、お前の声が聞こえたんだ。すごく助かったぞ!」


「ホ、ホント!? よくわからないけど、私、何かの役に立てたの?」


 ひとしきり無事を喜び合うと、まわりの困惑した視線に気づく。

 

「あの、ルカ姫様……何を?」


 ボクたち以外の全員が、完全に置いてけぼりにされた様子で、ボクら兄妹を見つめていた。


 うれしさのあまり、完全に後先のことを考えずに動いてしまった。

 

「この娘はコレット。ボクの大事な人で、今回の勝利の立役者のひとりなんだ」


「ルカお姉様の大事な人ですって!?」


 ミリアが口をあんぐりと開ける。


「細かい説明は省くけど、とにかくそうなの!」

 

 ボクはコレットを抱えて、フェリオの背に飛び乗った。

 このまま妹と別れたら、次はいつ会えるかわからない。


『ちょっとルカ。その娘は……!』


 乗り手を選ぶ幻獣ユニコーンは不満げに首を振った。


「この娘は間違いなく、ボクなんかより清らかな乙女だ! 固いこと言わないでくれよ」

 

「ひっ、ひぇええ! ちょっとお兄ちゃん、めちゃくちゃ目立っていて、恥ずかしいよ!」


 ボクにしがみついて、コレットが赤面する。


「この娘もボクに力を貸してくれたんだ! みんな。コレットも聖騎士たちと同じようにたたえてくれ!」


「はっ! ルカ姫様が、そう、おっしゃるのであれば」

  

 エリザが生真面目に胸に手を当てて答える。


「そうか! お嬢ちゃん、何か知らねぇが、偉かったぞ!」


「ああっ! ルカ姫様に抱きかかえてもらえるなんて、うらやましいぃいい!」


「姫様! こっち向いて!」


 領民たちも、ボクの宣言を素直に受け入れてくれた。

 これはイケると直感して、ボクはさらに踏み込むことにする。


「コレットは南門近くにある薬屋バルリングの看板娘なんだ。ここのポーション(回復薬)はとても質が良いんで、ボクの御用商人とする!」


「はわ!? うちが王女様の御用商人!?」


 かなり強引だが、これで実家に顔を出す口実ができた。実家の宣伝もできて、一石二鳥だ。


「コレットは、すごくかわいいだろ? みんな買い物に来てね!」


「おい、バルリングって、そんなすげぇ店だったのか!?」


 実家の薬屋のことを知っている人たちが、ざわめく。


「はい! 買い物に行かせていただきます!」


 聖騎士団の少女たちが、揃って声を上げた。

 やった。彼女たちが来てくれるなら、うちの店は繁盛、間違い無しだ。

  

 きっと、父さんと母さんも喜んでくれるだろう。


「それじゃフェリオ。このまま南区画に向かって。しばらくこの娘と、ふたりきっりになりたい」


 ボクは緊張と戦いの連続で、心身ともに疲れがピークに達していた。今日は本当に怒涛の一日だ。

 王女のフリして笑顔で手を振るのも、もう限界だった。


 十分がんばったし、大好きな妹と素の自分にもどって過ごしたい。


「えっ、ええぇ!? お、お兄ちゃんとデート!?」


「はぁ!? いや、お待ちください、ルカ姫様! エリザめが護衛として同行いたしますゆえ!」


「お姉様! このあと中央広場で、盛大な戦勝パーティがあるんですよ!」


 エリザとミリアが、大慌てでボクを引き留めようとしてくる。


「夜には戻ってくるよ!」

 

 ボクは馬首を巡らせ、聖騎士の隊列をかき分けて、南区間に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る