第38話 修行の開始 ミア

 ミアが目覚めたのは次の朝の自室のベッドの中だった。どうしてあの人達がミア達の自室を知っているのだろう。もはや何でもありだと思う。

 ベッドから立ち上がり、背伸びをするとテーブルの脇に手紙と以前先生から貰ったカードが置いてあった。

 

『おっは! 君らあのまま気絶しちゃったから、運ばせて貰いました♪ そんでもって、荷物を物色し、丁度良いカードがあったのでこれを改良♫ いい具合になったから確かめてねぇ♩ 地獄の修行はさっそく本日の午後の17時からでーす。きっと、全部吐いて胃の中空っぽになると思うけど、しっかり食べて来てくださいねー♬

 追伸――女の子たちは根が図太そうなので気にならないとは思うけど、一応ボクチンらの女ゴリラが運んだからご心配なくぅ♪』


 なんとも不快にしかならない文章だ。あのネロという人。本当に大丈夫なのだろうか?

テーブルにあったカードを手に取り、精査する。


――――――――――――――――

ミア・キュロス

★ステータス

 レベル48

・HP:C-(55%)   ・MP:C(18%)

・筋力:C(2%)    ・耐久力:C-(3%)

・魔力:C(78%)   ・魔力耐久力:G-(88%) ・俊敏力:C-(96%)

・運:C-(13%)   ・ドロップ:D(12%)   ・知力:C-(49%)

・成長率:A(33%)

★種族:人間(英雄――魔女公ウィッチクラフト

★称号:――――の弟子(仮)

――――――――――――――


(――っ!?)


ステータスの大幅な増加。そして、種族? 称号? わけのわからない項目が二つも増えている。 

 それにしても種族名が人間(英雄)って、意味不明すぎる。

 

「授業に行く時間なの」


 のろのろと筆記用具を鞄に入れると、教室に向けて歩き出す。


 教室に到着し皆に聞いてみると、やはりあのふざけた書置きとカードが置かれていたようだ。

 あの種族という項目は、プルートが【人間(英雄――聖槍士ロンギヌス】、クリフが【人間(英雄――狂戦士ベルセルク)】、テレサが【人間(英雄――拳闘士グラディウス)】、そしてエイトが【人間(最後の英雄ラストヒーロー)】だった。

 エイトだけ趣が異なるのは、何か意味があるのだろうか。まあ、ネロに聞いてみた方が手っ取り早いかもしれない。



 授業終了後、少し早い夕食を取って現在、指定された公園にいるところだ。


「来たねぇ♬ どうだい英雄ヒーローになった感想わぁ?」


 ネロが妙に芝居がかった仕草で両腕を広げて問を投げかけてくる。


英雄ヒーローなった感想って言われても……」


 クリフが可哀そうなものでも見るような視線をネロに向け、


「ああ、流石に英雄ヒーローごっこで喜ぶ歳じゃねぇしな」


 プルートが嫌悪を滲ませながらクリフの言葉を補足する。


「あのねぇ、僕は生まれ変わりだといったはずだよ♪ 変わった先が英雄ヒーローさぁ♫」

 

 エイトは腕を組んで考え込んでいたが、


「ならネロさんはどんな英雄なんですか?」


 そんなバカみたいな疑問を尋ねる。


「どう見える?」


 空気が数度下がったかのように思えた。ネロは普段通り微笑んでいるだけなのに、ただこのときミアはひたすらネロが怖かったのだ。


「あんたが怖がらせてどうするの?」

 

 金髪の女性に後頭部を叩かれて、慌てて様相を普段通りに戻すネロ。


「なははっ、めんごめんご♫」


 すまなそうなど微塵も感じられない口調で笑っていると、いつもの人畜無害な様相へ回帰する。

ほっと胸を撫でおろしていると、ネロは背後の口に黒色の布を巻いた男性に目配せをした。

 口に黒色の布を巻いたカチューシャの男性がパチンと指を鳴らすと景色が変わる。

 

「さてさてさーて、今からここで君達にはひたすら魔物と戦ってもらいまーす♩ まずは基礎体力からつけなきゃね♪」


 サークル状に伐採された広場。その周囲は密林。そして天井から差し込む太陽。ここは一度来たことがある。


「基礎体力って……ここってあの――」


周囲を確認し、クリフが真っ青に血の気が引いた表情で何やら言いかけるが、


「大丈夫、大丈夫、最悪死ぬだけだからぁ♪」


 地面が盛り上がり、大亀のような形を形成していく。


「死ぬだけって、ちょっと――」

「まずは亀太郎君と対決してもらっちゃいます♬ さあ、どうじょ、皆さん気張っていこう♪」


 プルートの言葉を遮るかのように、地鳴りのような咆哮を上げ突進しくてる岩の大亀。

ミア達は内心で泣きべそをかきつつも最悪な修業の一歩を踏み出したのだった。



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