第5話 5対5③
いよいよ後半が始まる。
俺にとっては高校初試合だ。
これを初試合と言っていいかと言う疑問は頭の奥深くに封印する。
かなりテンションが上がってきた。
コートに出た瞬間、植原先輩ビに叫ばれた。
「ああ!?なんで伊織がビブスなしの方で試合に出るんだよ!!話し合いだろーー!! かーわーだー!!!」
植原先輩ビは相当悔しかったか、かなりの声量で怒鳴っている。
うん、そうなるよね。河田先輩どうするんでしょう?
「ぴー……ぴー」
下手くそな口笛を吹いていた。
だめだこりゃ。
キャプテンにこんなことを思うのはどうかとは思うけど。
「ま、まあ、いいじゃねえか。植原も伊織のプレー見たいだろ?な?」
「まあ、そうだな」
江川先輩に説得されて植原先輩は怒るのをやめた。ありがてぇ。江川先輩様様だよ。河田先輩もホッとしている。
「ホッ」
いや本当にホッとしてるし。
試合の時の姿とは似ても似つかないぞ……?
ビーーーーーー
休憩時間終わりの合図だ。
よし……!!やるぞ!!
俺たちビブスなしチームのボールからゲームが再開する。
スローインは木下先輩。一旦俺がボールを受け取り、木下先輩に返す。
途端、パスしたボールが筒井先輩ビにカットされる。やばい!
「くそ!!」
身を翻し、スピードを上げて筒井先輩ビに猛進する。
俺のせいで点を取られるなんてたまったもんじゃない!!
「うりゃぁ!!」
「うわっ!?」
左レイアップを打とうとした筒井先輩ビの手からボールを弾く。
……やったぜ。
明後日の方向に飛んでいったボールは上島先輩がキャッチした。再びビブスなしチームの攻撃が始まる。
今度こそ……!
そう思いながら走る。
木下先輩が右45度からドライブで攻め込んだ。
カバーに出た夏川先輩ビを躱すように左コーナーにいた俺にパスが飛んでくる。
「うわっ!っと……」
びっくりしてボールを取り落としそうになったが、何とか掴んだ。
カバーに寄っていた谷口先輩がこちらに向かってくる。
振り切るように素早くスリーポイントシュートを放った。
入れっ!
そのボールは、高く舞い上がり、
最高点に到達すると落下を始め、
一直線にリングに飛び込んだ。
スパンッ
や、やった!入った!
「おああああ!! ナイシュウ!!!」
河田先輩が叫びながら寄ってくる。
「やったー!!!」
俺も叫び返しながらハイタッチを交わした。
27−32。
一気に5点差へ。
「やっぱ話し合いさせろー!!!」
植原先輩ビが怒鳴りながらボールを弾ませながらビブスなしチームのリングに走っていく。
よく怒鳴りながらあんなスピードでドリブルしつつ走っていけるな。
妙なことに感心しながらも、
「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
河田先輩と俺とで植原先輩ビを追いかけていく。
気づいたら俺たちも叫んでいた。
この試合、なんか叫ぶ回数多いな。
ああ、何て楽しいんだろう。
中学校の時とは全然違う!
ふと、中学時代の練習を思い出す。
練習のレベルはかなり低かった。
日々の練習はいかに上手くサボるか、何てチームだったし、無断でサボって遊びに行くなんてザラだった。だから試合で負けるんだと、みんな分かっていた筈だが、それでも雰囲気は良くはならなかった。
それに比べてここの高校の練習はどうだ。
自主練で、ゲームをしているここの空気は活気とやる気に包まれ、皆が本気でバスケに取り組んでいる。
ああ、俺はこれが欲しかったんだなあ……。
そして、俺は植原先輩ビに追いつき、ボールをスティールした。
やったぜ!
「おお!!」
周りの先輩たちが少しどよめいた。
俺は体を反転すると、再度攻め始める。
そのままゴールに突っ込み、右レイアップを決めた。
「いよっしゃぁ!!」
29ー32。
「3点差か。いけるぜ!」
河田先輩が言うので、
「いけます!」
と返した。
……勝てちゃうんじゃね!?
逆転じゃん!
ちょっと調子に乗った。
再び植原先輩ビがボールを持った。
こちらのディフェンスが始まる。
改めて気を引き締め、ビブスありチームのオフェンスと対峙する。
ゴクリ……。
思わず唾を飲み込んだ。
やっぱ緊張する。全国で3位だよ。緊張しない方がおかしい。
「谷口先輩オッケー!」
マークマンの谷口先輩ビを必死に守る。
しかし、右コーナーの植原先輩ビがドライブで切り込み、ディフェンスをはらりと躱してゴール下のシュートを決めた。
やっぱ植原先輩上手いな……。
29ー34。
また離される。
いやだっ!勝つ!!
「やられっぱなしでたまるか!」
俺含め、ビブスなしチームの心境を表すかのように河田先輩が吼えた。
そして、俺たちの攻撃が始まった。俺は今度は右45度あたりにいた。
木下先輩からパスを受けた。
シュート……は無理か。
谷口先輩ビが距離を詰めてくる。振り切って打つことはできない。
ならば!!
俺は右にドライブをするフェイクをかけた。
谷口先輩ビは少し下がってくれたので、フェイダウェイでスリーポイントシュートを打つ。
スパッ
綺麗な音を残してボールがリングを通る。
「フェイダウェイ……!くそぅ!」
谷口先輩ビは悔しがっている。
やったぜ!
32−34。
差を縮めることができた!
「2点差!」
木下先輩が声を上げた。
「いけるいける!!」
江川先輩も応援してくれている。
やる気がみなぎる。
やったるでぇ!と、なぜか関西弁で気持ちが昂る。
そのままビブスなしチームは勢いに乗り、
「おおおおお!?」
シュパッ
「わああああああ!!! 逆転だあ!!」
「ナイシュウ伊織!!!」
開始5分後、40ー37で逆転を果たした。
「負けねえぞ!!」
今度は植原先輩ビが吼えた。
あっちのチームも気迫がすごい……!
植原先輩ビは凄まじいスピードでビブスなしチームのゴールに走っていく。
俺も必死に走って追いかけるが、
(速すぎて追いつけない……!)
追いつけなかった。
まるで突風。
後から聞いたところ、植原先輩ビは50mを6.2秒ほどで走るらしい。
速すぎ。
そして、植原先輩ビはドライブで上島先輩のディフェンスを抜き、シュートを打つ……のではなく、
同じく走って、左コーナーに到達していた谷口先輩ビにパスをした。
谷口先輩ビも何だかんだ言って速い。何だよそれ。足速いコンビかよふざけんなよ。
植原先輩ビにカバーに出ていた俺は、谷口先輩ビのディフェンスに引き返すが、
「くそっ!」
間に合わない。
そして、谷口先輩ビは落ち着いてスリーポイントシュートを打った。
ボールはゆっくりと宙を舞い、リングに入った。
40−40。
あまりに綺麗な入り方だったので、一瞬ボーッとしてしまった。いかんいかん。負けるわけにはいかない。
「同点!勝てる!」
谷口先輩が拳を上げて宣言した。
「いいや、負けてねえ!!」
木下先輩はそういうと、再び攻め始めた。
そうだ、負けてない!
俺も全力で走り始める。
そして数分間、両チームは点を取ったり取られたりで、結局ラスト1分時点で46−46だった。
「最後1分頑張るぞ!!」
木下先輩が呼びかける。
「おう!!」
俺も河田先輩も返事して、攻撃を開始する。
絶対勝つんだ……!! たとえチーム内のゲームでも!!
よく考えたら俺だって本気でゲームに取り組んでるな……。
そう思いつつ、オフェンスを頑張る。
木下先輩が左ドライブで切り込んでいく。夏川先輩ビと植原先輩ビの2人に阻まれる。木下先輩はトップにいた俺にパスを出してきた。スクリーンにかかって谷口先輩ビはよってこれない。よし……!
(外しちゃならないぞこれは……!)
多少のプレッシャーはある。だが、焦らずゆったりスリーポイントシュートを放つ。
あ、入った。
感触で分かった。自信を持って言える。入った。
スパッ
「は、入った!」
「よくやったぞ伊織!」
「ナイシュウ!」
先輩たちが口々に褒めてくれる。
やっぱ褒められるのは気持ちがいい。
でも、やっぱり過剰に本気だよね先輩たち。俺もだけど。
49−46。
3点差だ。
「さあ、1本止めるぞ!!」
河田先輩が気合を入れてくれる。
「はい!!」
絶対止めてやるんだ……!
筒井先輩ビが攻め込んでくる。
パスを回して、時間を稼いでくる。
パスは植原先輩に回った。
ドライブで中に切り込んでくるのかと思ったら、スリーポイントを打った。
「何っ!?」
スパンッ
「うわー!!」
今度はビブスありチーム側が盛り上がる。
まずい……。
49−49。
同点だ。
再びビブスなしチームの攻撃だ。だが、
「しまった!!」
時間がなく、走ってビブスありチームのゴールに向かっていた時後ろから声が聞こえ、振り返ると、木下先輩が植原先輩ビにボールを奪われていた。
まずい……!決められるとキツい!
急いで取り返そうとするが間に合わず、
ゴール下のシュートが決まった。
49−51。
逆転を許してしまった。
「やったー!!勝ったぞこれは!!」
一気にビブスありチームの勝利ムードに移行する。
「すまん」
木下先輩が謝っている。
「大丈夫です。取り返しましょう」
俺は言って、走り出した。まだ時間は残っている。
残りはあと20秒ほどだ。ゆっくり攻める。ラスト数秒でシュートできると上出来だ。勝つためにできることをやろう。
パスをカットされないようじっくり攻めていく。
残り10秒。
木下先輩から河田先輩にパスが入った。
8秒
河田先輩はターンをしてシュートを狙うが、夏川先輩ビと相川先輩ビの必死のブロックに阻まれる。
6秒
河田先輩から上島先輩にパスがまわる。
5秒
上島先輩がドライブで切り込む。しかし、植原先輩ビにディフェンスされる。
3秒
右コーナーに走った俺にパスが入ると同時に谷口先輩ビが河田先輩のスクリーンにかかる。
2秒
俺はシュートを構えた。
心臓の音が聞こえるほど緊張している。
1秒
俺は落ち着いてスリーポイントシュートを打った。
ボールは高く舞い上がり、綺麗な弧を描いて、
ビーーーーーーーーーーの音とともにリングを通った。
「……入った?入ったよな……?」
夢見心地でつぶやいていると、
「や、やったぁーーーーーーー!!!」
「ナイスシュートだ伊織ぃ!!」
「勝ったぞぉ!!!」
先輩たちが口々に声をかけてくれる。
「あ、ありがとうございます!!」
やべえ、めっちゃ嬉しい。
結局俺も終始本気だった。
植原先輩と谷口先輩も、
「負けたなー。俺らのチーム入ってくれたらよかったのに。……かーわーだー……」
「よく入ったなぁ。完敗だ」
と言ってくれた。
他の先輩たちにも、いろいろ言われてとても嬉しかった。
そうして俺の高校初試合(?)は勝利で幕を閉じた。
河田先輩は植原先輩と言い争いになってたけど。
◇ ◇ ◇
また遅れそうになった。
試合が終わったあと、急いで制服に着替え、急いで体育館を後にしたのだが、またしても教室に入るのが時間ギリギリになってしまった。
ドアを開け、教室に飛び込んだ。クラスメートの視線を浴びる。
呆れた感じの。
これ以上遅れることが続くと、俺のメンタルが崩壊する。
ちゃんと送れずに来よう。
武田にも声をかけられた。
「またかよお前」
「うっせえ」
「そのうち遅刻するんじゃね?」
「ほっとけよ」
ニヤニヤしながら俺をみている。
ちょっと腹たつ。
「はあ、伊織君またですか。汗だくになるぐらい走らなければならなかったなら、明日からもっと早く起きなさい」
と、呆れ顔の先生に言われた。
クラスメートに笑われた。
はい。すでに俺のメンタルはボロボロです。
だが、笑われても、バスケしたことに後悔はしない。
当たり前だ。バスケに勝る事などなし!
さて、先生は俺が汗だくな理由を勘違いしておられるようだ。
本当のことは絶対に言わないが。
説教ものだからね。
先輩たちは無事に教室に遅れずに着いただろうか。
ちょっと心配しながら、自分の荷物を片付けた。
ちなみに彼らは遅れていた。伊織はそれを知る由もない。
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読んでくださり、ありがとうございます。もっと文章を書くのが上手くなりたいので、アドバイスや感想、質問やご意見などありましたらよろしくお願いします。次話からもよろしくおねがいします。
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