第32話 戦いの後で
「てめぇ! つえーからって調子に乗ってんじゃねぇ!」
「周りのことも考えて魔法を使え!!」
“爆炎陣の使い手”が周りで戦っていた人たちに囲まれて文句を言われている。
当の本人は不機嫌そうな表情で聞き流しているように見える。
クラン員なのかどうかは分からないが、一緒にいた他の3人はオドオドしている。
オレも“爆炎陣”に関しては非常に頭に来ていた。
“爆炎陣の使い手”の方へ歩いていくと、怒りのオーラを感じ取ったのか、使い手を取り囲んでいた人たちがオレに気付き、道を開けてくれた。
人垣の奥で赤髪の目つきが鋭い男が何人かに責め立てられている。
赤髪の男を真っ直ぐ睨んだまま近づいていくと、向こうもオレに気づき、責め立てていた男たちは赤髪の男から2,3歩離れた。
先程までの怒鳴り声はピタリと止まって静まり返り、オレが土を踏む音だけが聞こえる。
歩みを止めず赤髪の男に近づき、そのまま胸倉をつかんで怒鳴りつけた。
「ふざけるなよお前!! 何を考えているんだ!!」
そこまでされると思っていなかったのか、目を見開いて驚いた表情をする赤髪の男。
周りのハンターも同様に驚いている。
「お前の“爆炎陣”という魔法、あれはどういうつもりだ!!」
赤髪の男はビクッとなるもののまだ言葉を発せず、黙ってオレを見ている。
先程まで責め立てていた男たちがオレの横にきて、再度責め立て始めた。
「ヴィトさんの言うとおりだ! お前が先走ったせいで作戦が失敗するかもしれなかったんだぞ!」
「オレは以前もお前の魔法のせいで死にかけてんだ! 今回で3回目だぞ!!」
それを続き、取り囲む人たちからも同様の声が上がり始めた。
「好き勝手に暴れたいだけなら一人でやってろ!」
「強けりゃ何してもいいって訳じゃねーんだよ!」
「ヴィトさん、そいつには何を言っても無駄です! 一度痛い目に遭わせてやってください!」
ここぞとばかりに言いたい放題だ。
それほどまでに、この人たちは迷惑を掛けられたと感じていたのだろう。
オレに胸倉をつかまれたままの赤髪の男は小刻みに震えている。
良く見たら涙目になっている。
これだけ皆に責められていたら、そりゃショックだろう。
しかし、これではオレが話を出来ない。
一度赤髪の男から手を離し、周囲の方を見渡す。
「うるさい! そんなことはどうでもいいんだ!」
一瞬の静寂のあと、ざわつき始める。
「い、いや、どうでもいいって、ヴィトさん、だってコイツが勝手に魔法を打ち始めたから作戦が伝わる前に戦いが始まってしまったんですよ!?」
「そ、そうですよ! 一歩間違えればこっちがやられる可能性だってあったんですよ!?」
戸惑いながらもオレの横にいたハンターたちが異論を唱えてくる。
まずはそちらから話をしておいた方が良さそうだ。
「確かにあれは一声かける等できればよかったかもしれないね。でも、そんな余裕もなかったんでしょ」
「えっ?」
「魔法を打ち込んだ先には“
「えっ? そんな……、えっ?」
実際その場には居なかったので憶測でしかないが、“
どんな毒か分からないし、強力な毒だと即死することもあり得るから警戒するのは当然だ。
そして赤髪の男はLv5の“スキャン”と“
恐らく振れずにスキャンができ、“
さらに“爆炎陣”が放たれる直前、その魔物たちの魔力が変動する様子があった。
放たれた後はその魔物はきれいさっぱりいなくなっていたから、そこを狙って撃ったのは間違いないだろう。
「で、でもこいつは他の人が戦っているのにお構いなく魔法をぶっ放してくるんですよ! 今回だけじゃなく、何度も同じことをして死にかけた奴が何人もいるんですよ!」
別なハンターが訴えてくる。
「以前のことはわからないけど、今回、魔法を至近距離で発動したのは、そうしないとその人がやられていたからだと思うよ」
“
ハンターが魔物に背後を取られた時や、ハンターと魔物の位置関係が危ない時に“爆炎陣”が放たれてたのを何度か確認している。
「でも、俺たちはそれで死にかけて……」
「確かに危なかったかもしれないけど、死んでいないし怪我もしていないでしょ?」
「えっ、あぁ、確かに……」
さっきまで赤髪の男を責め立てていたハンターたちが再びざわつき始める。
「嘘だろ……? むしろ俺たちは助けられていたっていうのか?」
「でも、前は……、いや、あの時も、というか今まで“爆炎陣”では誰も怪我1つしていなかったな……」
「あそこに対峙していたのはうちのクランだ。もしあの時“
各々が今の話からこれまでのことを振り返り、何が正しいのか考えている。
チラッと赤髪の方を見ると、いつの間にかその場にへたり込み、涙目でこちらを見上げて口を震わせている。
「じゃあ……、今までコイツが俺たちに雑魚だとか強くなってから言えとかいっていたのは、もしかして全部俺たちのために……?」
赤髪に最も詰め寄っていたハンター尋ねてきた。
「さぁ?」
「えっ?」
「さすがにそこまではわかんないよ。そういう性格なのかコミュニケーションが苦手なだけなのか」
スキルと状況から行動の意図は何となくわかるけど、言葉の本当の意味まではわからない。
そのへんどうなの、と聞こうと思ったら、赤髪は項垂れて肩を震わせている。
泣いているようだ。
すると、意を決したように赤髪の仲間たちが前に出て来た。
「す、すみません! ヴィトさんが今仰っていた通りなんです!」
「でも、この人本当に人と話すのが苦手で……、でも私たちも得意じゃなくて……」
「いつもちゃんと説明しなきゃって思うんですけど、毎回すごい剣幕で怒られて直ぐに帰られてしまうので何も言えず……、すみませんでした!」
「僕たちがもっとしっかりしていれば、誤解されることもなかったんですが……。でも、皆さんの邪魔をしようとか、傷つけようとかは本当に思ってないんです!」
またまたざわつき始めるハンターたち。
今まで散々迷惑を掛けられ邪魔されてきたと思っていたら、実は助けてくれていたんだからそれは驚きだ。
「なんてこった、マジでか……。いや、なんかこちらこそ申し訳ねぇ……」
「命の恩人に対してあんなに文句いっちまってたなんて……」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。もっと早く説明できていればよかったんですが、ネイルズは『みんなが無事ならそれでいい』っていっていたので……」
傍若無人に見える青年は、実は誰よりも優しく、他者の命を守っていた。
真実が伝わり誤解が解け、互いにこれまでのことを謝っている。
仲間が赤髪の男に肩を貸して立ち上がらせながら、俺にも謝罪してきた。
「ヴィトさん、ありがとうございました。ネイルズのことをこんなに理解してくれたのは、ヴィトさんが初めてです。お陰様で誤解が解けました。本当に感謝しています!」
「いや、たまたまだから別にいいよ。気にしないで」
「うぐっ……、ありがどぅ、うぅぅ」
赤髪の男はネイルズというらしい。
ネイルズも涙を拭って目を真っ赤にしながらオレに礼を言ってきた。
「オレは何か理由があるんだろうなと最初から思っていたんだよ」
「オレも言い出せなかったけど、ヴィトさんと同じこと思ってた」
「嘘つけ。お前らもヴィトさんの話聞くまで『ぜってぇ許さえ』とか言ってただろ」
周囲からはそんな冗談と笑い声が聞こえてくるほど、和やかな雰囲気となってきた。
これにて一件落着だ。
よかったよかったと思っていると、また隣にいたハンターが問いかけてきた。
「あれ? ヴィトさんは最初からアイツの行動には理由があるってわかっていたんですよね?」
「うん」
「じゃあ何にあんなに怒っていたんです?」
「あ」
そうだった。
本来の目的を忘れていた。
もう一度ネイルズと向かい合う。
「お前ふざけるなよ!!!」
「「「えっ???」」」
ネイルズからも周囲からも戸惑いの声が上がった。
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