第17話 <スーパースーパー スパスパ>の死闘
プラントさんが仲間に加わった後、少し話をしてプラントさんは自宅に帰っていった。
両親に説明するとのことだったので、ハンターギルドで待ち合わせをすることにし、オレたちも休むことにした。
翌朝、街や海が見下ろせる緩やかな下り坂を、のんびりと歩いていく。
海では無数の船が行き交い、まさに今出港した旅客船も見える。
あの船はこれからどこへ向かうのだろうか。
このままあの船に乗って、どこか遠くに行ってみたい。
まだ見ぬ異国の地に思いを馳せていると、ギルドについた。
ちょうど繁華街の方からやってきたプラントさんもこちらに気づき、嬉しそうに駆け寄ってくるのが見えた。
やっぱり可愛く見えてしまう。
ねぇタック? と思いながらタックと視線を合わせると、苦しそうな顔をしながら首を斜めに振っていた。
肯定したい気持ちと否定したい気持ちがぶつかり合っているんだな。
分かる、分かるぞ、その気持ち。
「おはようございます! お待たせしてすみません!」
「私たちもちょうど今来たところです。しかもまだ約束の5分前ですからそんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
「すみません! 人と待ち合わせなんて何年か振りだったので、楽しみと不安が入り乱れてまして……」
「あら、これから待ち合わせどころか一緒に生活していくんだから、それくらいで入り乱れてたら大変ね」
「徐々に慣れていけばいいのだ! みんな優しいから心配はいらないのだ!」
美しい女性たちが話している様子はいつまでも眺めていたいものだが、流石に入り口で話していると邪魔になってしまう。
「みんな、入り口で通行の邪魔になってしまうからとりあえず中に入ろう」
「あ、皆さんごめんなさいなのだ」
グウェンさんがぺこりと頭を下げ、セラーナたちも頭を下げると、周りにいた男性陣はもうデレデレだ。
誰一人怒っておらず、むしろそのまま見続けていたかったオーラを感じてはいたが、生憎こちらも予定があるのだ。
「まずハンター登録をしないとね。また“スキャン”しないといけないのかな?」
「どうでしょうか……。あの時の紙は無くしちゃいました」
「職員さんに聞いてみましょう」
セラーナが近くの職員さんに尋ねてきてくれた。
記録は残っているが、一応もう一度“スキャン”を受けて紙を提出してほしいとのことだった。
結局、登録申請書も活動予定地域が変更になるので、改めて記入も行うことにした。
本日の“スキャン”担当は以前いたセリシャさんではなく、エルフ族の女性だった。
セリシャさんと同じように手に触れ、優しい光がプラントさんの身体を包み込む。
「体術Lv2、杖術Lv4、隠密術Lv8、魔法Lv7です」
やはり、“スキャン”のレベルが低いのか“召喚術”のスキルが見えなかったり、魔法も細かく分類はされず一番高いレベルだけ見えるようだった。
結果の紙を貰い、登録カウンターに並ぶ。
今でも何人か登録に来ている人もいるようだ。
訓練すれば授かったスキル以外のスキルも使えたりするから、新たに力を得た人などもいるのかもしれないな。
プラントさんの登録は滞りなく終わり、やはりSランクとして登録された。
同時にクラン員登録も済ませたので、今日からプラントさんは“ブルータクティクス”のSランクハンターだ!
ついでに<ワームホール>の情報を聞いてみると、本日はまだ発生していないようだった。
他の国では発生頻度が増加傾向にあり、被害が生じた所もあるようだった。
これからさらに増えていくだろう。
新しい情報が入ったらすぐに連絡が欲しいと職員さんに伝え、ギルドを後にした。
次はプラントさんの実家だ。
プラントさんは両親とお姉さんとの4人暮らしをしており、一家で日用品店を営んでいるそうだ。
地元民向けのお店なので繁華街からは少し外れ、住宅街に近い商業エリアにお店があった。
俺たちがご挨拶をしたがっていると伝えると、わざわざお店をお休みにして待っていてくれているらしい。
正直、挨拶と言っても『あ、どうもよろしくお願いします』くらいの顔合わせと考えていたから、そこまでしなくてもいいんだけどな……。
両親としては息子の門出だし、ちゃんとしておきたいというのもあるのかな。
お店の看板には<
「ス、スーパースパスパ……?」
「お、お父さんがノリで付けちゃって……。うちは普通のスーパーマーケットじゃなくて超スーパーマーケットなんだって……。すみません」
「リ、リズミカルでいい名前だと思うよ、うん」
顔を真っ赤にしながら説明してくれるプラントさん。
でも覚えやすいし、口に出して言いたくなるような語感だ。
ユーモアたっぷりなお父さんなんだろうな。
「文字の上の線はなんなのかしら?」
「あれは……。昔、お店が出来てしばらくした頃に、お客さんの中でイントネーションがどうなのかっていう話になってしまって。それをきっかけにお客さん同士で抗争が起こってしまったんです」
「抗争!? お店の名前の読み方で!?」
「はい。血みどろの抗争の結果、計13人の逮捕者と48人の重軽傷者が出てしまったので、お父さんが公式発表として読み方を発表したんです」
「それは大変な事件だったね……」
「でも未だに公式の読み方じゃない勢力が地下で活動をしており、クーデターを起こそうと企んでいたりするそうです」
「店主が決めた読み方なのに!?」
「はい。いつの間にか看板が<
「一体何が目的なんだ……」
知る由もなかった王国の歴史の1ページを聞きながら、お店の脇を抜けて住居部分に向かっていく。
「ただいまー」
「おかえりプラント。しっかり登録できた?」
プラントさんがドアを開けると、プラントさんから幼さを取り除いたような、物凄くきれいな女性が出て来た。
「うん、皆さんもいてくれたから、ちゃんと登録できたよ! あ、皆さん、こちら僕のお母さんです」
「“ブルータクティクス”の皆さんね。初めまして、プラントの母のリルミアと申します。うちの子がお世話になっております。こんな子だけど、どうか仲良くしてあげてくださいね」
深々とお辞儀をされたので、オレたちも同じように挨拶をして頭を下げる。
「お父さんも待ってるから、皆さん上がって下さいな」
「「「「お邪魔します」」」」
プラントさんに案内されリビングに行くと、そこには椅子に座り腕組みをしながらテーブルに視線を落としているスキンヘッドの筋肉の塊がいた。
「お父さん、ただいま。こちらが“ブルータクティクス”の皆さんだよ」
「お、お邪魔します……」
「おかえり、プラント」
筋肉のお父さんがゆっくりとこちらに顔を向け、重低音を発する。
デカい岩のようで半端ない威圧感だ。
眼光もするどい。
本当にこの人が<スーパースーパー スパスパ>なんてふざけた名前を付けたのか?
とてもそんな冗談を言うような人には見えないんですけど……。
「皆さん、狭くて申し訳ないけど座って下さい」
プラントに促されるままダイニングテーブルの椅子に掛けていく。
「プラントさんのお父さん、初めまして。私は“ブルータクティクス”のマスター、セラーナです。この度、プラントさんが私たちのクランに加入してくださることになりました。今後ティルディスにある私たちの拠点で一緒に生活してゆくことを希望してくれましたので、まずご挨拶に伺いました」
筋肉お父さんは腕組みを解き、セラーナに顔を向けて穏やかにいった。
「ご丁寧にありがとうございます、セラーナさん。私はプラントの父、ファンゲルと申します。プラントがご迷惑をお掛けするかもしれないですが、どうかよろしくお願い致します」
おぉ、怖いのは見た目だけだったのか。
やはり人を外見で判断してはいけないな。
セラーナに続き、ススリー、グウェンさんも自己紹介をしていく。
ファンゲルさんは穏やかな笑顔で『よろしくお願いします』と言っている。
「お父さん初めまして! オレはタックです! よろしくお願いします!」
「……」
あれ?
ただのしかばねのように返事がない。
「初めましてお父さん、オレはヴィトと申します。よろしくお願いします」
「……お」
「「お?」」
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはないわ!!!」
突然怒りだし、拳をテーブルに叩きつけるファンゲルさん。
厚さ5㎝はあろう木製の重厚なテーブルが真っ二つになった。
「えっ……? いや、あの……」
「お前がヴィトか!! うちのプラントを誑かしたのはお前か!!」
「えっ? えっ?」
「昨夜プラントが嬉しそうに帰ってきたと思ったら、ヴィトくんが、ヴィトくんが、と延々とお前の話を聞かされたわ!! その上、会った翌日に『ご挨拶に来たい』だと!? ふざけるな!!」
「いや、ちょっ」
「ちょっとお父さん! やめてよ! もー!!」
「お前は黙ってなさい!! 大体、出会った翌日に結婚の申し込みにくるなんて非常識にもほどがある!!」
「まだそこまでじゃないんだってばー!! もー! おかあさんなんとかしてよー!」
「あらあら、やっぱりこうなったわねぇ。うふふ」
なんだなんだ?
娘さんを下さい的な結婚のご挨拶をしに来たと思っていたのか?
それでお店も臨時休業にしたのだろうか?
プラントさんは昨日どんな説明をしたんだ……?
そもそも息子さんじゃないのか?
それに、プラントさんの『まだそこまでじゃない』という発言も気になって仕方がない。
「ヴィト、どういうことなのだ……」
「えっ? いやオレもわから」
「ヴィトは私と結婚するのだ! 私の方が先なのだ!」
「違います! 私です!」
「やめてぇ! ややこしくなるから今は変な事言わないでぇ!!」
「なぁにぃぃぃ!!! うちのプラントは遊びのつもりかああああ!!」
「あらあら、うふふ」
笑ってないでお母さん止めてえええ!!
◆
バーサーカー状態になったファンゲルさんと4時間にも及ぶ死闘を繰り広げたが、なんと倒しきれなかった。
こちらは体術Lv9で途中から補助魔法や魔法も使ったのに、体術Lv5のみのファンゲルさんに勝てなかった。
というか、怪我をさせるわけにもいかないので、動けないように土魔法で手足に重りを付けていったけど、それぞれ2トン位まで増やしたのに何の効果もなかった。
もうこの人がいれば世界は安全なんじゃないだろうか?
結局、リルミアさんの『いい加減にしなさい!』の一言でバーサクが解除され、誤解であることを一から説明したら、少し落ち着いてくれた。
しかし、まだ7割くらいは疑っている目で、全然誤解が解けていなそうだった。
ティルディスではオレの家に、王都では滞在用の家にみんなで住んでいるので、いつでも遊びに来たり様子を見に来てくれていいと伝えて、ようやく納得してもらった。
激戦の後片付けや補修を手伝い、明日また迎えに来ると伝えて、オレたちも家に帰ることにした。
とっても疲れた。
ただの挨拶がこんなことになるなんて思いもしなかった。
「明日のセラーナの叔父さんの方は大丈夫だよね……?」
「だ、大丈夫……じゃない……かな?」
「えっ!? 『大丈夫だろう』なのか『大丈夫ではない』なのかどっち!?」
「大丈夫だと思いますよ! たぶん……。お父さんとお母さんも来るって言ってたけど……」
「ご両親が来るのは構わないけど、ただの挨拶だって伝えたよね? なんて言ったの?」
「えっと、『ヴィトが、一緒に住んでいるんだしご両親にご挨拶しなきゃって言ってる』って」
なんか微妙な気がするけど、意味としてはおかしな感じではないかな?
「うん? うん、まぁ普通かな? そしたらなんて?」
「どんな男だとか、出身は、ご家族は、収入は安定しているのかとか、こ、子どもはまだ出来てないだろうなとか……」
「やべぇ、それ完全に結婚相手を見極めるための尋問じゃないの……」
「大丈夫、安心して! ヴィトはかっこよくて優しいし、ご両親が亡くなった後、自分で働いて生活してきたのよって、しかもきちんと学院も卒業したのよって言ったら、それは立派な男だって言ってたわ」
「あ、うん、ありがとう。 皆が気に掛けてくれたから一人で頑張った訳ではないけどね」
「だから賑やかな家庭にするために、3人は子どもが欲しいわって言っておいたわ」
「あぁ、そうですか……。最後に余計な事言ってくれたね……」
「お父さんお母さんも、早く孫が見たいって言っていたわ」
「お父さんお母さんも受け入れちゃダメだよ……」
「ヴィト」
「ん?」
「私は4人欲しいのだ」
「張り合わなくていいの!」
結局、翌日のセラーナご両親との対面もややこしいことになってしまった。
もう、挨拶なんてやめておこう……。
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