第23話 リプルとラプル2.
トレニィは篭を持って辺りの山菜を取っているようだ。カテリアはセリフの内容から動物を狩りに行ったに違いない。
トレニィのトレント族で出された食事は野菜が主体で肉は彩り程度に添えられて感じであった。対してカテリアのドラゴ族は肉が主体で野菜はあまり出てこない。
俺は肉が大好きではあるが、さすがに毎日脂ぎった肉料理ばかりだされては胃が持たない。トレント族の料理は飽きがなくいただけるがたまに肉が恋しくなる。料理で優劣はつけがたそうだ。
俺は適当にブラブラとして彼女たちの様子を適度に見て回っている。そして気が早いが宇宙へ戻れるようになったらどうするか考えておかなければならなかった。ジャミング発生源は近いのだ彼女の達の別れも近い。
『別れる? 本当に?』
もう一人の俺が自分にそう囁く。どんな別れ方をしても行き着く先は彼女たちの泣き顔だった。心が締め付けられるように痛い。
別れないという手も考えてみた。だが彼女たちがいきなり宇宙文化についてゆけるとは思えず精神的に病む可能性が考えられる。
加えて俺の所属する国は重婚を許可していない。さらに彼女たちを連れてサクラさんに再アタックするのもおかしな話だ。
色々と考えているとカテリアが帰ってきた。どうやら材料集めの一番手は彼女のようだ。
「おーい。クリフー」
彼女は森の奥から小動物を木の棒にくくりつけて担いでいる。獲物をしとめたことで彼女は上機嫌のようだ。彼女が飛び出してからまだそんなに多くの時間を要していない。にも関わらず彼女はしっかり獲物を捕らえていた。大した才能だと心の中で称賛した。
「わざわざ捕まえなくともトレーラーに飯はあるのに……」
「まぁアレはアレでうまかったけど。やっぱり新鮮な肉が食いたいではないか」
カテリアがいっているアレとは道中に出したお菓子のことだ。
彼女は捕まえた獲物を平手でパンパンと叩く。仕留めた獲物はカピバラを一回り小さくしたような獣だ。
カテリアは獲物を木に立てかけて、その辺りに落ちている石や枝を集めだした。どうやらかまどを作るつもりらしい。
俺もその肉が欲しいのでカテリアを手伝うことにした。
「クリフ―見て見て。こんなに山菜取れたよー」
今度はトリニィが籠一杯を山菜俺に見せてくれた。彼女は山菜や野菜に関する知識が豊富で地形や生えている雑草などからどこに山菜がありそうか見抜くのが上手のようだ。
カテリアの肉とトリニィの山菜で山菜鍋などもいいかも知れない。きっと旨いだろう。何しろトリニィの集落の食べ物もカテリアの集落の食べ物もどちらも非常にうまかったのだから。
俺は思い出してしまうと堪らずよだれを流しそうになってしまった。期待をするなというほうが無理である。
「カテリアは何をしているの?」
トリニィはカテリアの作業を不思議そうに見て尋ねた。カテリアは石を積み上げてコの字型のかまどを作っているところである。中央に薪をくべて周りからの風を遮断、上で調理をする最もオーソドックスなかまどである。
今はなんでも機械でやってしまうので俺自身も実物を見るのは初めてではあるが知識としては知っている。
「見てわからんのか? 肉を焼くためのかまど作りに決まっておろう。お主はかまども知らんのか?」
「失礼ね。かまどぐらい分かるわ。でも肝心の食材はどこなのよ?」
トリニィは自分の採取した山菜の籠をカテリアに取られると思ったのか体を捻って横に隠した。いかにもあげないわよとアピールしている。だがカテリアは獣を捕まえていたはずだ。
「何を言っておるのじゃ。肉ならホレそこに――」
カテリアは振り返って後ろの獣を立てかけていた木を指さした。成りは小さいがそれでもしっかりと肉付きのよい獲物であったはずだ。そう……はずだった。だがカテリアが指さすそこには肉は無い。くくりつけていた木の棒ごと無くなっているではないか。
「な、無い!!」
「ないわよ」
焦るカテリアを他所に『何を言っているの』といった感じでトリニィは返事を返した。まるで最初からそこに肉などなかったかのように。
「お、お主、肉をどこに隠した」
「ちょっと、なんであたしなのよ!」
カテリアがトリニィに詰め寄った。だがトリニィは否定する。そうだ彼女は肉を盗んでなどいない。先ほど戻ってきて俺に山菜を見せたばかりである。それに加え彼女はそんなことをする性格ではない。少なくとも俺の知る限りでは。
「こんな嫌がらせするのはお主しかおらんじゃろが!!」
「失礼ね! クリフも食べる食材をわたしが隠すわけないじゃない!!」
「むっ……な、なるほどそれはそうだな……」
「分かってくれた?」
「――すまん」
トリニィの見事な切り返しに納得せざるを得なかったのか、カテリアは以外とあっさり誤解だと認めて謝ったことに俺は感心する。彼女の性格からしてもっと突っかかるのかと思っていた。そういう意味では俺はカテリアのこともまだまだ分かっていないようだ。
しかしカテリアの取った獲物はどこへ行ったというのだろうか、俺は辺りを見回してみる。
「なぁカテリア。お前の肉ってアレじゃないのか?」
俺が指を指した方向は鬱蒼とした背の高い草が生い茂っていて、獲物の一部がひょこひょこを顔を出しては奥へと進んでいた。それはまるで踊っているかのようであり挑発してるかのようであった。
「バカな……きっちりしとめたはずなに肉が勝手に動いている」
カテリアはその様子に青ざめている。いやいや、それではまるでゾンビみたいではないか。それはそれで怖いが木にくくられたまま歩いていたら吹き出してしまいそうだ。しとめた獲物が勝手に歩くわけない。であれば結論は一つしかないだろう。
「いや、どう見ても盗まれているんじゃないのか?」
「にゃにぃぃぃ! このあたしから獲物を奪うとはいい度胸だ! 捕まえて生皮剥いでやる!!」
さらっと怖いことを言う。俺は思わず盗んだ奴に同情しそうになった。とは言え、俺も楽しみにしていた肉だお仕置きぐらいはしてもいいだろう。
激怒したカテリアが獲物めがけて走ってゆくと俺も後を追った。トリニィも山菜の入った籠を置いて俺の後を追いかけてくる。
カテリアは相当怒っているようで雑草ななどものともせず怒涛の勢いで一直線に向かていった。相手を殺さなければ良いのだが。
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁーッ」
カテリアは鬼のような顔で盗んだ相手に追いついた。盗んだ相手は驚いて振り向いた。背丈は低く、うちのテレッサといい勝負で見た目は小学生ぐらいだ。丸顔で少々ふくよかな体形だがデブではない。
カテリアと同様短いタンクトップ姿でおへそは丸見えだ。腹だし衣装はここで流行っているのだろうか、トレニィもカテリアも同じである。下は逆にトレニィのようにダボダボのズボンを履いて、よさこいで着るようなカラフルで派手なハッピのような上着を着ている。
茶色のショートボブに丸い顔、頭の上にはちっちゃくて丸い獣耳。お尻から生えているフッサフサの尻尾は触ったらモフモフしてそうでケモナーと呼ばれる人種に喜ばれそうだ。俺にそんな趣味はないが。
カテリアが相当怖かったのか円らな瞳が恐怖に染まって走る速度を上げた。
「またんかいゴラーッ!!」
もはやカテリアは怪獣のようだ。今にも口から火炎放射を吐きそうな勢いで追いかけている。
「あれはラグーン族!?」
追い付いたトレニィが盗人の種族を教えてくれた。ラグーン族、直訳すればアライグマだ。彼女も人工的に作られた亜人なのだろうか。いやきっとそうなのだろう。ベースは完全に人間で耳や尻尾がなければ人間の子供と見分けがつかないだろう。
カテリアに追いつかれそうになるとアライグマの彼女は草むらの中へと逃げた。完全に視界から消えた。だがこの調子ならすぐに捕まるだろう。そう思っていた。だが彼女が再び姿を現したのは俺たちの後ろだった。
「こっちなのだぁ」
彼女の声に「えっ」とした顔で皆が振り向く。彼女はしっかりと距離をとって掲げているその手にはいつの間にか肉からトリニィの籠に代わっていた。
「ええっ!」
トリニィが驚く。俺も驚いた。彼女はさっきまで前にいたはずである。足が速いなどそんなレベルではない。まるで瞬間移動、縮地、ワープである。重力振動は検知していない。
「それはクリフと一緒に食べようとしたの。お願いだから返してぇー」
トリニィは半泣きで彼女を追いかけだした。どうやら俺と驚いた理由とは別だったらしい。俺もカテリアも慌ててアライグマを追う。トリニィが捕まえようとすると再び草葉の陰に隠れて消えた。
「こっちなのだぁ」
そして今度はさっき消えた場所に再び現れた。今度は肉に変えて……
「おれのれぇぇぇ、猪口才な技を使いやがってぇこの私を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁっ」
カテリアは叫びながら全力で彼女を追いかけだした。さすが戦闘民族、底なしの体力だ。だがしかし……
「なぁ、さすがにこれはアレだよなぁ……」
「ええ、わたしもそうもいます」
必死に追いかけるカテリアを見送りつつ俺とトリニィは互いの視線で合図を送ると頷いた。そして俺は大きな声をあげてカテリアを追ってゆくとトリニィはその場でしゃがんで隠れた。カテリアが再び捕まえようとするとまた彼女は隠れてしまった。
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