第48話 笑顔

「俺は、毎日母ちゃんを見舞いに行ったよ。でも、いつも母ちゃんは笑顔で迎えてくれたんだ。本当に病気かって疑いたくなるくらいにさ」


 着替え終わった英一が部屋から出てきて、かおりの向かいに座った。


「でも、やっぱりダメだった」


 かおりは、俯いたまま。


「最後の最後まで、母ちゃんは笑ってた。そして言ったんだ。

 おまえも、いつも笑顔でいなさいって。

 そうすれば、なんとかなるって。

 そして、おまえも誰かを笑顔にしてあげなさいって」


 英一は、手を伸ばして・・・かおりの頭を優しく撫でた。


「だから、そんな顔すんなよ。俺はおまえが笑っていて欲しいんだ」


 かおりは、顔をあげ英一の瞳を見つめた。

 ニッカリと笑った英一。

 安心する笑顔。


「もう、泣くんじゃない。今、俺は結構幸せなんだ」


 そう言って、笑う英一。


「うん」


 そう言って、涙を拭うかおり。

 

   幸せなんだ・・・


 その言葉に、嬉しくなり小さく微笑んだ。


「それで、その後英ちゃんはどうしたの?大学は?」

「あ〜・・流石に大学は中退するしかなかった。ラグビーもそこでやめるしかなかったなあ。

 でも、大学を辞めてどうするか途方に暮れていた俺を今の会社の社長が雇ってくれたんだ。嬉しかったね」

「へえ〜、そうなんだ。どう言うきっかけだったの?」

「なんでも、かあちゃんの知り合いだったんだってさ。高卒の人間を、ろくに調べもしないでその場で採用したんだぜ。感謝しても仕切れないね」


「なるほど〜〜」


 かおりは、なんとなく納得した。

 英一は、馬車馬のように働かされているが、そう言う経緯があるので辞めないんだ・・・

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