【31】2006年6月7日 8:36・教室・曇り。不意の指摘(レン視点)。
「きっとユアルがつきそいで一緒に行ってくれたおかげだね。ありがとう、ユアル」
「はッ?おい、レン!それどーゆー意味だよ!?」
「いいえ、ご迷惑をかけてるのはこちらですから当然のことをしたまでです。改めて、ご迷惑とご心配をおかけしてすみませんでした」
「ユアルが謝る必要なんて微塵もないよ。ユアルには家事全般任せちゃってるしむしろ感謝してるくらいなんだからッ」
「おいッ!ヒトの席で喋んなよ!」
私もユアルもアイナの席で本人を無視してまるで近所の主婦同士がわんぱく小僧のイタズラに苦労してます風の井戸端会議を繰り広げてやった。
「ところで、レン。一応、本邸にも事の顛末を伝えておいた方が良いと思います。知世田先生に直接聞きましたが、本邸にはそこまでシリアスな内容を伝えてないとのことでしたから。あらぬ誤解で問題が大きくなるのは避けるべきではありませんか?」
「うーん、あまり気乗りしないけどユアルがそこまで言うのなら連絡入れておこうかな。本邸に学園から電話がいっちゃてる 以上、ごまかしきれないもんね」
「えぇ、是非お願いします」
「いや、気にしすぎだろ?事の顛末っつっても声がカッスカスだったから叱責にすらなってなかったし」
「はぁぁ~~・・・」
どれだけ綱渡りな状況だったのか理解できていないアイナにいちいち説明するのも面倒なので適当にスルーする。
《それにしてもデリカシーのないあの角刈りモアイなら復讐のために話を盛ってお祖父様に告げ口しそうだけど。案外、角刈りモアイもお祖父様を相手にする度胸がないだけだったりして。まぁ、お祖父様が直接電話にでることはないと思うけど》
「あ!イヤ、違う違うッ」
「はい?何がですか、レン?」
「ううん、ごめん。こっちの話、気にしないで」
突然、口から出てしまった独り言がマヌケ過ぎて恥ずかしい。
《そうだ強く言えるわけないんだった。はぁ~》
角刈りモアイが話を盛らなかったんじゃない。盛れない理由があったのだ。凹むことを思い出してしまいテンションが強制的に下がってしまった。
「とりあえず、一件落着って認識で良いんだよね?」
「はい、それは間違いないです」
「了解ッ。あとで本底への電話のシミュレーションするからつき合ってもらっても良い?ユアル?」
「もちろん喜んで」
「ありがと♪」
ユアルをつきそいで行かせて本当に良かった。あのとき強引に止めていたらこの安堵感は今頃絶望感に変わっていたかもしれない。問題がこじれ過ぎて三者面談なんてことになればそれこそゲームオーバーだった。
「それからレン、カバンありがとうございました。重くありませんでしたか?」
「エヘヘ、ユアルの言うとおりメチャクチャ重かった・・・」
「だから言ったんですよ、私。あ、じゃあそろそろ失礼しますね」
ユアルが廊下を指しながら私の視線を誘導する。廊下を見ると他のクラスの担任が歩いていた。気づけばもうホームルームの時間だった。
「うん、続きはまたあとで」
スッ・・・、パンパン!
「イテッ!!」
私とユアルは去り際にアイナのおでこにデコピンを放ち、それぞれ自分の席へと戻る。それからしばらくして担任が入ってきた。
「日直さん、号令お願いします」
「起立ー!」
帰宅してから本邸への連絡という面倒なイベントは残っているが、何はともあれアイナと角刈りモアイの件は無事収まったことに安堵しているのか私の意思とは関係なく口元が緩んでしまう。しかし、何というか学園生活でこんなスリル今まで味わったこと無かったかもしれない。
「礼ー!」
《さて、ホームルームの間に本邸への報告内容でもまとめておきますか》
「着席ー!」
「西冥レンさん、何か良いことでもありましたか?」
「はい?」
椅子に座った瞬間、担任からフルネームで名指しされてしまいクラスメイト全員が私に注目する。
このクラスには『西冥』が3人もいるのでフルネームで呼ばれることが多いのだが、名前をフルネームで呼ばれると何となく晒し者にされているようなこの感じが嫌だった。
「い、いいえ。特に何もありません」
アイナと角刈りモアイの件が収まった喜びがそのまま表情に出ていたのだろう。その笑顔は担任に指摘されるほどマヌケに見えたのかもしれない。
「ブラウスがビショビショになってまで西冥さんがあまりにも楽しそうでしたからつい。今日は雨は降っていませんがそれは汗ですか?」
「はい、ちょっと色々ありまして・・・」
「そうですか。風邪をひかないように気をつけてくださいね?」
「はい」
クスクスクスクスクスクス。
クラス中至る所でいやらしい笑いが起こる。
《全ての元凶はアイナの宿題未提出なのになんて理不尽。デコピン1発じゃ足りなかった・・・》
私は苦笑いを浮かべながら恥ずかしさを必死にごまかしていた。気づけば前方のユアルが申し訳なさそうな表情を『拝み手』とセットでこちらに向けていた。
《日本の地理もそうだけど拝み手なんてどこで覚えてきたんだろ・・・》
私は嘲笑よりもユアルの拝み手の方が気になって仕方なかった。
《今日は朝から散々な目には遭ったけど、トラブルは解決したし角刈りモアイの授業も無い。同居生活にも影響なさそうだし、まぁイイか》
「はーい、それではホームルームを始めまーす」
外を見ると曇ってはいるが所々晴れ間が覗いていた。
《・・・あッ》
そして、いつの間にかシビアな頭痛も収まっていたことに気づいた。
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