【26】2006年6月6日 19:31・浴室・大雨。本邸からの電話(レン視点)。
「ちょっと!何があったの!!」
怒鳴りながらリビングのドアを勢いよく開けて入ると今にも殴り合いを始めそうなユアルとアイナの間に割って入った。
「チッ、いちいちしゃしゃり出てこなくていーよ。・・・レン」
アイナが厄介者が増えたと言わんばかりにお得意のふくれっ面になる。
《私だってできればそうしたいよ》
これを口にすると余計に問題が発展しそうなのでグッと堪える。
「レン、丁度良い所にッ!ちょっと聞いてください!!」
珍しくユアルが血相を変えて焦っているのが見て取れた。こんな表情のユアルはもしかしたら初めてかもしれない。
「ユアル、教えて」
「実はレンが入浴中に本邸から連絡がありまして」
「うん」
「もっと分かりやすく順を追って話しますと、10分ほど前にルドベキア女学園から本邸に連絡があったとのことで」
「・・・うん」
「それで電話の相手が角刈り、じゃなくて知世田(ちよだ)先生だったらしいんですが」
学園から本邸への連絡とユアルの緊迫した表情。もしかしなくても良い知らせではないことを直感する。
「アイナは今日の放課後、知世田先生に残るように言われていたらしくて、どうやらそれをすっぽかしたみたいなんです・・・」
「はぁぁーーマジかぁぁぁッ」
開いた口が塞がらない。嫌な予感が的中し脱力するあまり私はその場にへたり込んでしまった。
《何てことをしてくれたんだ。私の学園生活始まって以来の大ピンチだ・・・》
「だから知らねぇって言ってんだろ!!」
アイナがムキになって怒鳴っている。その怒り具合から故意ではないことはたぶん間違いない。教師の命令を無視すれば、こういう状況に陥ることをアイナも理解しているはずだし、わざわざ好き好んで自身を窮地に追い込む真似はいくらアイナでもやらないだろう。
では、他に何が原因なのか?
そんなこと考える間もなく私は答えを導き出した。
「・・・たぶん、昼休みの廊下での会話だよ、アイナ」
「あッ!!」
故意か否かはさておき、あのとき角刈りモアイはアイナに放課後残るように伝えていたんだと思う。ただ、私が角刈りモアイとアイナの側を通ったとき、かなり近づいてみたが本当に何も聞こえなかった。
角刈りモアイのことだ、学園から実家に電話を入れることがどういうことか百も承知のはず。しかし、この問題は角刈りモアイの嫌がらせとか故意にアイナ聞こえないように伝えたとかそういう話ではない。
宿題忘れと教師を煽る行為、そして角刈りモアイの話に適当に相槌を打っていたアイナ自身の問題だ。仮に角刈りモアイの嫌がらせだとしてもつけ入る隙をいくつも与えまくったのはやはりアイナだ。アイナの独断的な悪態の結果が3人全員を窮地に立たせる結果をもたらしてくれたのはもはや疑う余地がなかった。
《そう言えば学園に伝えてたっけ?私たち3人は本邸ではなく、この山奥の家で暮らしていること。イヤ、仮に伝えてたとしてもどのみち本邸に連絡がいくか》
ピンチや急を要するときほど私は余計なことを考えてしまう性質らしい。
「いや、だってよー。あんなのほぼ聞き取れなねーし」
「聞こえなかったのなら何度も確認すれば良かったでしょ?例え怒られれてでもッ!」
《ユアル、よく言ってくれた。ありがとう・・・》
先程の角刈りモアイからの電話と帰ってきたときのアイナと丹加部さんのやり取り。約9ヶ月間、結構良い感じでやってこれたと思っていたのに今回ばかりは本邸から何かしらのペナルティがあるのは間違いないと思う。
最悪、同居生活の解消だってあり得る。
『学園生活でトラブルを起こさない』
これは私だけじゃなく3人全員が知っている本邸から出された同居条件の1つだ。アイナも当然覚悟しているはず。今更この条件をアイナに告げたところで、
学園から本邸に電話があった事実は変わらない。そして角刈りモアイが本邸に何をどう告げ口したのか分からない以上、下手に本邸に電話をかけて取り繕うと余計にボロが出る可能性があるため現状どうすることもできない。
《どんなにプラス思考で考えても、角刈りモアイの電話の内容が良いわけがない。ダメだ、ネガティブ思考が止まらない》
「はぁぁぁぁ~~~~」
「おい!レン!!勝手に失望してため息ついてんじゃねーよ!!」
しかし、今はイガミあってる場合じゃない。私は何とか立ち上がり仕切り直しの意味もこめて自分の頬を軽く叩いた。ココはシンドイが冷静かつ効果的な手を打った方が良い。必ず勝機はあると信じて。
・・・神頼みとも言うけど。
「ふぅッ!聞かん坊のアイナちゃんはさておき。ユアル、本邸は他に何か言ってた?」
「本邸というより知世田先生からの伝言らしいのですが、『明日の朝一番で顔を出すように』とのことです」
「早朝、詫びを入れに来いってことかぁ」
「レン、オレみたいに言葉遣いが悪くなってるぞ?」
「はいはい。本邸からの連絡はそれだけ?」
「えぇ、特に説明などは求められませんでした」
「そっか」
《嵐の前の静けさってヤツかな》
「アイナ、明日の朝一番で角刈りモアイに謝罪しに行くからね?明日は午前7時出発ッ!!」
「はッ?馬鹿じゃねーの!?そんなに早く登校してどーすんだよ!!」
「異議・異論、全て却下ッ!!今から私は護衛に明日の出発時刻変更を伝えてくるから文句を垂れる暇があるなら、角刈りモアイへの謝罪文でも作って練習とか宿題とかしっかりやるよーにッ!!」
「ふざけんなよぉ・・・」
「こんなくだらない状況を起こしているのはアイナでしょ?レンもあなたにつき合ってくれてるんだから少しはありがたいと思いなさい。私までつき合わされて、ホント迷惑」
「ケッ!頼んでねぇよ」
アイナは全てが面倒になったのかテレビをつけようとリモコンに手をかけた。さすがに私も頭にきていたので、すかさずリモコンを奪い取る。
「おい、リモコン返せよッ!」
「アイナ、もしかしたら本当にこの生活が強制終了させられちゃうかもしれない。そのことだけは頭に入れておいて、お願いだから・・・」
「チッ!うるせぇッ!」
もうこれ以上は何も聞きたくない様子でアイナはリビングから出ていった。リビングに残された私とユアルは互いに見つめ合いと肩を落としながらため息をもらした。
「極力、穏便に角刈りモアイの件は済ませたいけど、肝心の角刈りモアイの電話の内容を知らないことにはどう動けば良いのか分からないし。さすがにお手上げかも」
「ごめんなさい、レン。迷惑ばかりかけて」
「ううん。ユアルはしっかりやってくれてるし、そもそもアイナの問題はユアルのせいじゃないよ。何とか私もベストを尽くしてみるから。とりあえず明日の登校時間変更を伝えてくるね?」
「えぇ、お願いします」
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