【22】2006年6月6日 18:34・リビング・大雨。夕食のニュース(レン視点)。
1階に降りてリビングに入るとユアルとアイナが既にテーブルについて私を待っているところだった。先に食べていればいいのに律儀に私が来るのを待っていたのだろう、アイナが待てを命令された犬みたいに今か今かと皿に飛びつこうとしている。
「レーーンッ、おせぇよぉ~~」
「アイナ、丹加部(にかべ)さんに怒られたこともう忘れたの?『レンさん、少し遅かったんじゃありませんか?』・・・でしょ?」
「ヘイヘーイ!そーですねー」
「あははは、遅くなってごめんね。うわッ!シチュー美味しそうッ」
「フフフ、今日もバッチリ納得の出来に仕上がりましたよ」
「んなこたぁどうでもイイから、さっさと食べようぜ~~」
「 そ ん な こ と ・ ・ ・ ? 」
「はいはい、ケンカしないケンカしないッ。さ、じゃあ、いただきましょう♪」
「ウィーーー」
「そうですね、いただきます」
「うんうん、美味しいッ!!ユアル自身が納得するのも分かるッ!あ、そういえば昼間の弁当も美味しかったよ。本当に日に日に上達してるよね、ユアルの料理」
「ありがとうございます、レン。そう言って頂けると励みになります、と言いたいところですが・・・」
「ん?何か問題でもあるの?」
「問題と言うか、正直なところ本邸から送られてくる食材が料理の出来の7割以上を占めているので手放しでは喜べないんですよね」
「ううん、そんなの謙遜謙遜ッ。いかに最高級の食材でも調理方法を知らないと価値を半減させちゃうと思うし。なんて、料理をほとんど作ったことない私が言うのもおかしいけど、ヘヘヘ」
「美味きゃなんだってイイよ、美味きゃ。ングングング」
「アイナ、もうちょっと落ち着いて食べなさい。それと何度も言うけどもっと上品な言動を意識しなさい?私たちの失態はレンが背負うことになるんだから・・・」
「チッ!いちいちうるせーなー。目立つようなことしなきゃ良いんだろ?」
「そういう言動が既にあの学園で悪目立ちしてるって言ってるのよ。宿題はやらない、教師にたてつく、物乞いはする。不良の塊じゃない」
「物乞いなんてしてねーからッ!」
「ということは、教師にたてついてはいることは認めるのね?宿題忘れは周知の事実として、今とんでもないことを自白したことになるけど??」
「フン!うるせッ!」
ユアルの誘導にまんまとハマってしまったアイナ・・・。
《まぁ、相手があの角刈りモアイだからアイナの気持ちも分からなくもないけどトラブルだけは避けてほしいかな》
「2人とも今日はもうケンカ禁止。食事くらい静かに食べよ?」
《っと、そうだ。昼休みは保武原さんに絡むアイナを止めるのに必死で忘れてたけど、ちょっと聞かないといけないことがあったんだ》
「そういえばアイナ、昼休みにも少し聞いたけど、机の引き出しから取り出したパンやジュースって誰から貰ったの?本当に心当たりないの?クラスメイトとか教師とか」
アイナの表情がみるみる不貞腐れ(ふてくされ)ていく。
「あ~~?まーたその話かよぉー」
「不貞腐れてないでさっさと答えなさい」
ユアルが叱るようにアイナに促した。
「あ゛ッ?誰に命令してんだよ?」
「まぁまぁ、ユアル。アイナはちゃんと話してくれるから、そうでしょ?」
「っつーか、教師が個人的にパンとかジュースとか生徒に貢いでたらヤバくね?」
「っていうことはつまり生徒に貰っているってこと?」
「まぁそうだなぁ。昼間も言ったけど、別にオレが催促してるわけでも物乞いをしてるわけでもねーからな?購買部の近くを歩いてたら貰っちまうんだよ、たまたま。『割とマジでたまたま』な?」
今の余計な発言でアイナが墓穴を掘ったことは明白だった。ユアルがすかさず指摘する。
「『たまたま』と言いつつ、最近昼休みになるとすぐに教室を出てどこかに行ってるわよね、アイナ?それって自分の意思で購買部に行ってるってことでしょ?」
《そういえば、帰りの送迎車でも聞いたけど昼休みトイレに行こうと教室を出たらアイナが角刈りモアイに止められてたっけ。あれってどこかに向かおうとしてたのかな》
「もし仮にわざと購買部に向かっているとして、だったら何か問題あるのかよ?知らねー生徒が勝手にくれてるだけだろ?別に購買部の品物盗んでるわけじゃないんだぜ?」
「当たり前でしょッ!もうッ何を物騒なこと口走ってんのよ。それにアイナ、学園の他の生徒とは必要以上に仲良くして変な借りをつくらないでって言ったでしょ?」
「商売敵とかからの貢ぎ物はレンの爺さんのビジネスに影響するとかなんとかだっけ?でもよぉ、パンとかジュースくらいでそこまで影響を及ぼすもんかね??」
「それは少し認識が甘いかも。噂レベルではあるけど、生徒の親の中には限りなく違法に近いスレスレな商売をしている人だっているの。『たかがパン、されどパン』だよ。例え子供同士であっても受けた恩の大小に関わらず、子供が未成年の場合は親がお返しをするのがこの国の一般的な常識になってるの。もちろん、日本国民全員がそうかと言われると例外もいると思うけど・・・。大昔からこの小さい島国に住む者たちはそうやって結束を強め、色んな危機を乗り越えてきた歴史と風習があってそれが国民性となっているの」
「・・・くだらねぇ国民性だな」
「アイナ、レンの話を真剣に聞きなさい?貸し借りのトラブルは下手をすると怨恨へと発展するケースがあること、あなたも知らないわけじゃないでしょ?あと、弁当の量が足りないのなら明日から増やしてあげるけど?」
「あ、それ良いね!アイナ、そうしてもらったら?」
「う~ん、べつに量を増やしても2時間目くらいに全部食べちまうからなぁ~。あんまり意味無いと思うぜ?」
「足りるように食べなよ・・・」
「それにさっきも言ったけどよぉ、やっぱりパンやジュースごときでそこまでピリつくような問題じゃないと思うんだよなぁ~。礼だって一応言ってんだぜ?」
「お礼を言うのは当然として、今はそういうレベルの話をしてるわけじゃないの。学園の生徒の中にはお祖父様のライバル企業の子供も数名いるって噂だし、難癖のつけ方なんていくらでもある。だからこそ関わるなって言ってんのッ!」
「そんな奴ら軽くぶん殴って黙らせてやればイイじゃん・・・」
「それは一番のご法度ってアイナも分かってるでしょ?お願いだから軽率に思ったことを口にするのはやめて。注意されて冗談で済んでる内が華だからね?」
「ウィ~~、りょーかーい。ハムグムッモグモグッ」
「ちょっとアイナ、話はまだ終わってないよ??」
アイナは適当に返事をすると食事を続けながらテレビつけた。テレビからニュースキャスターの声が流れてくる。
「ハシウエ商事の役員である門照マサキさん(50歳)が4ヶ月前から行方不明になっている事件の続報です。本日、惺璃(さとるり)警察署は最後に門照さんの姿が
映っていた惺璃駅に設置されている防犯カメラの映像と顔写真を公開しました」
「あッ」
ドクン!ドクンドクン・・・!!
テレビにとある男の顔写真が映し出されて心臓の鼓動が少しだけ早くなった。
《この男、あぁそうだ・・・。間違いない。忘れるはずもない》
「はぁはぁ・・・ふぅふぅ・・・」
あのときを思い出して自然と呼吸が荒くなってくる。
「前から思ってたけど、この国ってたかが行方不明でも報道すんのな?しかも、数ヶ月前の事件だろ?」
アイナはまったく気づいていないらしい。呑気にこの国の報道のあり方についてダメ出しをしている。
「アイナ、テレビの男に見覚えはないかしら?」
《さすがユアル》
「は?う~ん、オッサンの顔なんてあんまり区別つかない、・・・あぁ!!」
どうやらアイナも気づいたらしい。
「おい、レン。こいつってたしか」
「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
《ヤバイどうしよう。身体が急に火照ってきた。熱い》
「大丈夫ですか?レン」
「だ、大丈夫。ちょっと、お手洗い行ってくるね」
《今、誰かに触られたら絶対ヤバイ》
ユアルが心配して立ち上がるのと同時に私も席を立ち、急いでリビングを出てトイレへと向かった。
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