【6】2006年6月6日 12:28・教室・大雨。ユアル(レン視点)。

《あれ・・・?》


角刈りモアイが教室を出ていってどれくらい経っただろうか?


私は時計を見ようと顔をあげるとユアルが鬼みたいな形相でこちらを見ているのに気づいた。


ユアルの席は私の席から右斜め方向に少し離れたところにあるのだが、顔半分振り向きこちらを睨んでいる。正確には私ではなく2つ後ろの席のアイナを睨んでいるのだろう、ユアルと視線が合わない。


ただ、あまりの迫力に少しだけ心臓の鼓動が早くなった。このユアルというクラスメイトもまたアイナ同様、私の同居人で家では家事全般を担ってくれている。




アイナとは対照的にクラスで1番背が高いユアルは容姿とスタイルの良さから学年1位と言っても過言ではない美貌の持ち主だ。初めてユアルに会った人は必ずと言って良いほどモデルだと思ってしまうらしい。




まぁ、あれだけスラッと伸びた手足と整った顔が目の前に現れたら、そう勘違いするのも無理もない。しかも出るところはしっかり出ているというチートボディ。


ユアルの前に立つと嫉妬すること自体、愚かな行為だと本能的に理解させられてしまう者が多いと思う。私を含めて・・・。



アイナはアイナで背が低いだけでこちらもユアルに負けず劣らずの可愛さだ。・・・喋らなければという条件つきだけど。で、そのお美しいユアルが鬼の形相でアイナを睨んでいる。表情からは『あとで説教してやる!!』という熱い思いが読み取れた。


ユアルは性格もアイナとは相反する所が多く分かりやすく言うと真面目な優等生だ。





個人的な感情からすると角刈りモアイの声飛びはメチャクチャ面白かったが、もしホントにあれがアイナの計画通りならユアルが怒るのも仕方ない。


何故なら変にトラブルを大きくして職員会議なんかにかけられ、アイナの所業がお祖父様(おじいさま)の耳にでも入ろうものならマズイという一言では到底片付けられない状況に陥ってしまうからだ。



それだけは何としても避けたい。


いや、避けなければならない。




《たぶんユアルもそれを理解しているからこそあんなに怒ってるんだろうな・・・》


少しでも喜んでしまった自分の甘さを今になって恥じる。







結局、角刈りモアイが教室に戻ってきたのは残り時間10分くらいになってからだった。


かすれにかすれた声を振り絞った説明を聞いた限りでは、水を飲んだりノド用の薬用スプレーやのど飴を試したらしいが効果はなかったらしい。


そのおかげでだいぶ授業を削ってくれて個人的には嬉しかった。


それに角刈りモアイの声がいつもと違ってかすれているためまったく威圧感がなく、私は初めて倫理を授業として普通に受けることができたと思った。できれば毎回これくらいの声量でお願いしたいほどスムーズだった。


そうすれば紀元前の妄想家たちの話をもう少し楽しく聞けるかもしれない。



・・・ただやはり残念ながら最悪な科目であることに変わりはないけど。


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