第50話 〈~アビゲイル視点~〉 青い腕輪
チチチチチ...
朝、か。
結局寝れなかったな。
ユウの事を考えていたら寝れなかった。
だが、今日中に探し出して助けてやるぞ、ユウ!
私は気だるい身体に鞭を打ち、部屋を出て宿屋の1階にある食堂へと向かった。
朝早いというのにそこそこの人が既に朝食を食べているようだ。
そこに見覚えのある虫がいた。
「ふぉい、ふぉふぉだふぉふぉ」
こちらに気付いて手招きしている。
朝から鬱陶しいな。口一杯に飯を詰め込んで何が言いたいんだこの害虫は?
私は嫌々ながらも害虫のいるテーブルへと向かった。
もちろん対面ではあるが、なるべく距離をとって端の方へ。
「ゴクン。あー、今日の予定は覚えているな?港地区の捜索だ。もし侯爵の屋敷に嬢ちゃんがいるならいいんだが望みは薄いだろうな。だから、倉庫を中心に探してみてくれ」
「あぁ、そのつもりだ。お前は大丈夫なのか?」
「あ?何?心配してくれるワケ?秘策があるから心配すんな」
「心配してるのはユウだけだ。秘策、とは?」
「秘密の策だから秘策なんだろ?お前には教えない。絶対に。謝るなら、」
「そうか、勝手にしろ。私はもう行く」
私は話を区切り、宿を出た。
害虫ならなんとかするだろ。
それより港地区だけとはいえ、結構広いが見つかるだろうか?
ユウの事を聞いて回る訳にもいかなそうだしな。
どこに賊がいるか分からないからな。
もし間違って賊の仲間にユウの事を聞いたら怪しまれるだろう。
怪しまれてユウの身に何かあっては困る。
それに警戒されて居場所を変えられても困る。
下手な動きも警戒されるだろう。
出来るのは一般人に紛れてユウの匂いを探る事だろう。
見つかるといいのだが...
私は港地区へと歩いて行った。
そして懸命に探し回った。
だが、結局何も分からなかった。
ユウを見つけられなかったんだ。
すまないユウ。私が不甲斐ないばかりに...
私は壁を叩いた。
叩いたところで何も変わらないのだが。
もう夕方も終わろうとしている。
結局2日もユウに会えなかったんだ。
もちろん諦めたつもりはない。
だが、夜中まで探していたら怪しまれる。
賊に限らず、警備兵にまでも、だ。
今日は捜索を中断せざるを得ないんだ。
だから悔しい。
何の役にも立てない。
自分が原因なのに、その自分が何も出来ないんだ。
考えたところで何も進まない。
出来る事が、今は無いんだ。
悔しいが害虫はよく考えて動いている。
アイツの方がユウを助けているのかもしれない。
私は戦う以外は無力なのだな...。父の言っていた通り、か。
私は過去の自分を思い出し、苦笑いした。
いや、過去は過去。今は今、だろ?考える暇があったら動かねば、だな。
今出来る事は害虫の頭を利用して少しでもユウに近付く事だ。
合流してどうするか決めなくてはな。屋敷にユウがいてくれたならいいのだが。
私は泊まっていた宿へと歩いて帰った。
自身の不甲斐なさに唇を噛み締めながら。
「ふぉい、ふぉふぉだふぉふぉ」
む?朝と同じ光景だな。まるで悪夢のようだ。
本来なら無視するところだが、何かの情報を手に入れてるかもしれない。
そう考えながら私も対面に座った。
もちろん出来るだけ離れて。
「ゴクン。うぇー。その様子だとハズレ、か?」
「あぁ。悔しいが見つからなかった。害虫も、か?」
「そうか。コッチは侯爵に会って話出来たぞ。残念ながら憶測通りみたいだ。嬢ちゃんは獣人らしい6人に連れ去られたようだ。あとは侯爵の客人として不審者の疑いを晴らしてもらった。どぉだ?見直したか?」
「そうか。憶測通り、か。それにしてもよく客人扱いになれたな?」
「俺の頭脳が素晴らしいって事だろ?いやぁ、頑張った。褒めてもいいんだぞ?」
なにやら自慢げに言ってくるがどうでもいいだろう?
よく侯爵が一般人の私達の事を客人と認めたな、とは思うのだが、目的はそもそもユウの救出だ。
実際、侯爵の客人だろうが関係ない話なんだ。
「それよりユウだろう?目的を忘れてないか?」
「まぁまぁ、落ち着けって。不審者の疑いが晴れただけでも動きやすくなんだろ?それに、」
害虫が真面目な顔になって身を乗り出してきた。
「相手はこの町の厄介者らしい。どうやら侯爵も手を焼いてるみたいだな。だから手を貸してくれるらしい」
町の権力者が協力してくれるのか。それは好都合だ。
「だが時間が無いかもしれねぇ。海を渡られたらアウトだ。賊がいつ動くか分からねぇから明日は多少強引でも探してくれ。その為にもイイモン貰って来た。これだ」
害虫が出したのは青色の細い腕輪だった。
「なんだ?これは?」
「侯爵が認めた相手に送る友好の証だとか?それを付けてたら多少の無茶でも許されるらしいぞ?」
「なるほどな。常識の範囲なら何でも出来る、と?」
「あぁ、裏技みたいなアイテムだろ?俺は侯爵と協力してユウを探す。お前は怪しい場所があったら遠慮なく突っ込め。その腕輪がお前の罪を消してくれる筈だ。だが、常識の範囲だからな?」
「そうか、これがあれば私の好きに出来るわけだな。住民に迷惑を掛けずに賊を捕えればいいのだろう?願ったり叶ったり、だ」
私は言いながらその青い腕輪を受け取った。
見つけさえすれば私のユウを攫った馬鹿どもに天誅を下せるアイテムだ。
今の私にとっては必要な物だ。
私は大事に腕輪を付けた。
「害虫も役に立つものだな。いや、益虫とでも言っておこうか」
「素直にありがとうって言えねぇのかよ。」
「蟻が問う?虫同士にしか通じぬだろう?」
「はぁ。明日こそは助けるぞ?」
「フッ。当然だ」
全く害虫のクセに役に立つ奴だな。
私はそのまま食事をせずに部屋へと戻った。
ユウもロクにご飯を食べてないかもしれないんだ。
私が呑気に飯など食べている場合か。
明日こそ必ずユウを助ける。
見つけ出して賊を天誅してみせる。
そう誓って私はベッドに横になった。
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