第45話 知らない人



「お嬢さんここが私の屋敷だ。すまないが、私用の仕事があるからここで少々待っていただきたい。終わり次第必ず手続きの準備をするから安心していてくれ」


「は、はい。が、頑張って、ください」


 僕はゴルディさんに着いて行って、最終的に屋敷に案内された。

 ゴルディさんが言うには、


 拘束された者を開放するにはどんな貴族でも必ず正式な手順によって手続きしなければならない。


 って事らしい。

 僕にはよく分かんなかったけど、分かりやすく説明してくれた。

 今でもそこまでよく分かってないんだけどね?


 で、僕は今屋敷の中にある応接室でくつろいでいるトコ。

 いや、ぶっちゃけくつろげない。

(そもそもココなんなのッ!?)


 ひっろい庭の中に、さらにでっかい家だよッ!?

 屋敷っていうよりは豪邸?

 豪邸っていうか超豪邸?

 基準が分かんないけどすっごいトコに来ちゃった。

 それに入り口に使用人?みたいな人がズラーって20人くらい並んで出迎えてたし。

 当然の様に「おかえりなさいませ、ご主人様」って言ってたし。


 ここドコ?現実の世界なの?

 ファンタジーだよ!?

 見た事ない世界がここにあるんだけど!?

 自分でも興奮してるのか呆れてるのか分かんなくなってきた。


 でもとりあえず、ゴルディさんが便宜べんぎをナントカカントカ言ってたから待ってなきゃ。

 ...待ってたいんだけど2時間かぁ。


 長いなぁ。

 せめてゲームでもあれば。

 トランプでもいいんだけど。


 ヒマだなぁ。

 でもウロウロ出来ないしなぁ。

 なんか高そうな花瓶とかあるし。

 なにかの拍子に割っちゃったら...

 お金ないから、奴隷行き?だよね?

 た、立つのも怖い。


 ど、どうしよう。

 アビゲイルさん達は大丈夫なのかな?

 僕は大丈夫じゃないです。

 早く助けてほしいです。


 

 コンッコンッ



「は、はいぃッ‼」

「失礼します」


 1人でいろいろ考えてたからビックリして声が裏返っちゃった。

 扉の方を見てみたら茶色髪の人間のお兄さんが入ってくるところだった。


「驚かせたようで申し訳ございません。私はエディと申します。旦那様が執務中の為、僭越せんえつながらお世話をさせていただきます」


「は、はい!よろしくお願いいたしますぅッ‼」


 静かな部屋にいきなり来たからビックリした。

 今も心臓バクバクなんだけど。

 エディさんが悪いわけじゃないんだけどね?

 僕、こんな扱いされたこと無いからいろいろ分かんないんだよ?


 でも良かった。

 話し相手が出来た。

 少しは時間潰せそう。


「ねぇ?エディさん?好きな食べ物ってある?」

「特に」


「エディさんの好きな遊びって何かな?」

「特に」


「好きな人は?」

「特に」


 ぐぅぅ。

 なかなか手強い相手みたい。

 もしかしたら相手にされてないのかも?


「好きな物は?」

「特に」


「好きな色ッ!」

「特に」


「好きな数字ッ!」

「特に」


 僕、もうダメかもしれない。

 エディさんの事以外なら、話してくれるのかな?


「あそこの花瓶っていくらなのかな?」

「7億エインです。ちなみに割ってしまわれて弁償出来なければ奴隷落ち確定です。貴女様はお美しいので、性奴隷として高く売られて貴族の玩具おもちゃとなるでしょう。ふふっ」


 7億エイン。

 エインって単位自体初めて聞くけど高そう、だよね?

 それより、


 やっぱりここヤバいよッ!

 すぐそこにある花瓶を割るだけで奴隷だって!

 しかも性?奴隷?って奴になっちゃうらしいし!

 さらに玩具だって玩具!

 なにされるか全然分かんないけど怖いしッ!

 ってかエディさんが1番怖いしッ‼

 初めて笑ったと思ったら奴隷になるかもよって話だしッ‼



 うぅぅ。

 大人しく座ってよう。

 ここ怖い。早く出たい。




 バリィィッッッンッ




「ひゃッ!?」


 驚いて女の子みたいな声出ちゃった。

 は、恥ずかしいぃ。


 どうしたんだろう?

 ガラスでも割れたのかな?

 んー?エディさんが慌ててないから大したこと無いのかな?

 聞こえたハズなんだけど?


 でもなんかドタドタバタバタ聞こえるんだけど?

 なんか「ここじゃない」とか「情報に間違いないハズ」とか聞こえるんだけど?

 

 もしかしてアビゲイルさんじゃないよね?

 イヤイヤ、ここにいるハズないよね?

 もしかして脱獄してたり?

 イヤイヤ、聞こえる声は男の人っぽいし。

 


 ドォンッ‼



「ひゃぁッ!?」


 やばッ!また変な声出ちゃった。

 え?というか誰?

 6人の知らない獣人の男の人達が入ってきた。

 恰好はなんか汚いけど?この屋敷の人、なの?


「ここに居やがったかぁ!」

「探したぜぇ?真っ白な嬢ちゃん‼」


「貴様ら何者だッ!?この屋敷がどなたのモノか分かって足を踏み入れたのかッ!?」


 え?ここの人じゃないの?


 え?というか僕?

 何?この人達の事僕知らないよ?


「邪魔すんなよ、っと」


「グァッ‼」


 僕に近付く人とは別の人がエディさんを殴って吹っ飛ばした。

(え、エディさんッ!?

 え?な、なに?僕に何するつもり?)


「エ、エディさ、ん、んんん、んんッ‼」


 熊みたいな獣人の男の人が僕の口に布を押し付けてきた。

(え?もしかして誘拐ッ!?

 誰か、助けてッ!?)


「んんんッ‼ん、んッ‼」


「そろそろおねんねの時間だぞ、ってな?」


(なんで?強盗、が...あ、れ?

 意、識が、ぁ........)



「早くヅラかるぞッ‼」

「計画通りぃッ!」

「てめえらも予定通りにしろよッ‼」

「「「おぅッ‼」」」




 ゴルディさんの屋敷で僕は意識が無くなった。

 そこから先はよく覚えていないんだ。








 ~アビゲイル~


 クソッ害虫のせいでッ‼

 あいつが突っかかってくるから!

 いや、それどころではない。

 ユウが、私の義妹が1人なんだ。


 何をやってるんだ私はッ‼

 守ると言ったではないかッ‼

 ユウは私の言葉を信じてくれたんだぞッ!?

 私が何回も裏切ってはいけないだろッ‼

 私はあの害虫の言う通り駄目な奴だ。

 もしユウが殺されたりしてたら...

 

 「あああああッッ‼」


 私はなんて馬鹿な事を。

 あの害虫が視界に入るだけでイラつく。

 何故か無性にイラついて殺してしまいたくなる。

 昔は人間相手にこんな気持ちなどいだかなかったというのに。

 それでもちゃんとユウを見なくてはならなかった。


 「せめて大人しくその場で、いや、エヴリンの所にでもいてくれッ‼」


 変な奴に着いていかないでくれよ?ユウッ‼






 ~カイン~


 なんで俺がこんな目に遭わないといけねぇんだよッ‼

 あの馬鹿が突っかかってきやがって。

 嬢ちゃんの事気にしすぎだろッ!?


 つーか最近なんであんな心にもない事が口から出ちまうんだよ?

 俺どうしちまったんだよ?

 昔はそんなケンカ腰じゃなかっただろ?

 はぁ、なんか最近イラついてんな。


 いつからだっけか?

 覚えてねぇな。


 それより俺にはやらなければいけない事があるんだよ。

 救わなきゃいけねぇだろ?

 あの子1人で大丈夫か?

 勝手に変な奴に着いていくなよ?

 あの方を救ってもらわなきゃいけねぇんだからな?

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