第43話 幕間 ユウの戦闘訓練その1 ~青いボール編~



 僕達は港町リヴェールへと向かう道中、

 歩きながらとある問題を話していた。

 それは、カインさんの突拍子もない言葉から始まった。



「なぁ?嬢ちゃんは異常に強ぇよな?

 レベルいくつなんだ?」


 え?僕?

 戦った事一度も無いんだけど?

 なんで僕が強いって思ってるの?


「はぁ?ユウが戦うなんてありえないだろ?

 何言ってるんだ貴様?脳みそあるのか?」


「あぁ!?嬢ちゃんが魔ぞ...

 いや、アレは...(ブツブツ)...」


 んぅ?マゾ?

 カインさんどうしたんだろ?

 ブツブツ考えてるけど、何が言いたかったんだろう?


「流石に害虫の言葉は難しい。

 意味が分からん。なんでここに存在してるんだ?」


「ちょッ!?

 お前、さりげなく存在ごと消そうとすんなよッ!?」


「鬱陶しい...」


 ア、アビゲイルさん?心の声が...


「ゴホンっ。あー、嬢ちゃん?」


「え?あ、はい?なんですか?」


「ちょっと魔物と戦ってみないか?」


「ふぇッ!?ぼ、僕が!?」


 突然なに言い出してんのカインさんッ!?

 僕は戦えないよッ!?戦った事ないんだよッ!?


「安心してくれ、戦うのはアレだ」


 カインさんが指さして言ったのは、

 草原に落ちてる水っぽい青色ボールだった。

 アレと戦うって?

 あのボールなんなの?

 僕、ボールと戦うの?


「まぁ、スライム程度なら...ユウ大丈夫か?

 無理せず、私の傍にいるだけでもいいんだぞ?」


「あぁ、別に無理強いはしないからな?

 ただ、戦えるのか...気になっただけだ」


 う、う~ん?

 アビゲイルさんに頼りっぱなしってのは今後困るかもしれないし...

 スライムってあのスライムだよね?

 HP3くらいのあのスライムだよね?

 見た目が違うけど、同じ...だよね?


「多分、大丈夫、だと思うよ?

 えっと、やってみる!」


 僕は出来る。出来る子なんだ!

 ルナに負けてられないからね!

〈...油断は...禁物だよ?...〉


 分かってるって。


「ユウ、私のナイフを貸す。

 剣は重いからな、怪我しない様に気を付けてくれ」


 アビゲイルさんは僕に腰のナイフを手渡してくれた。

 うん。軽くて便利。

 刺すってのには抵抗あるけど、スライムだからね?

 人には向けれないけど慣れとかなきゃ。


「行ってきますっ!」


 僕は意気揚々とスライムへと向かった。







  ~~~~~~~~~~~~



 「はぁっ、はぁっ、くっ!?」


 何分?何十分経ったんだろ?

 全然歯が立たない。


 スライムの攻撃は痛くない。

 強いわけではないんだ。

 触手?攻撃は大してダメージを感じないし、

 むしろヒンヤリとして気持ちいい。


 一方、僕の攻撃が当たらない。刺さらないんだ。

 グネグネ動いて避けちゃうし、

 刺さったと思ったら無駄に柔らかい弾力に刃が滑る。


 ザコと侮るなかれ。

 ぐぬぬぬぬ...っ


「嬢ちゃん、遊んでないで早くしないとぞ?」


「なッ!?貴様それが狙いでッ!?

 ...いや、アリか(ボソボソ)」


 どうやら2人は見てるだけみたい。

 それにしてもアビゲイルさんの視線が気になる...

 どうにも、違う期待を感じてしまうんだけど?

 危なくなったら助けてくれるよね、2人とも?


「おいっ!よそ見は禁物だぞっ‼」


「ふぇっ?あっ!?」


 不審に思いながら振り向いてたら注意された。


 気付いた時にはもう、スライムが何かを飛ばしていた。

 液体のような何かを。


「ひゃっ!?つべた~っ‼」


 スライムの液は僕の胸から下に掛かった。

 ビチャビチャでヌルヌルしてる。

 ううぇー、気持ち悪いぃー。


「おっ!?おおッ‼」

「害虫は見るなッ‼」


 ブスッ


「ッ!?ぐわああああああああああッッッ!?」


 カインさんの声が気になるけど、

 もうよそ見はしない。

 注意されたんだから集中しないとッ‼


「じ、嬢ちゃん、助けてくれッ‼目が、目がぁぁっ‼」


 ぐぅぅっ!?

 カインさん、なんでそんなに僕によそ見をさせようとッ!?

 ...違う、これは試練なんだっ!

 きっとここで見たらダメな奴なんだっ!


「た、助けてくれぇっ!目が、光が見えねぇんだぁっ‼」


「カインさん、その試練は乗り越えてみせますッ‼」


「ち、違うッ‼本当に目がッ‼」


「はぁ、はぁ...ユ、ユウ、気にせず戦えッ‼

 そのまま、そのままでスライムを倒すんだッ‼」


「はいっ!僕はこのまま戦いますッ‼」



 なんだかスースーするけどさっきのスライムの液体、

 あれはメンソール的な液だったのかな?

 全然、痛くないし。


 えらくスースーするから僕はスライムと対峙しながらも、気になってチラリと身体を確認した。



 ん?


 あれ?


 僕の服...


 溶けてない...?



 よく見たら、僕の服、ほとんどが溶けてた。

 胸とか、お尻とか...結構見えてる。

 むしろ大事なトコ全部見えてる。出てる。

 無駄に肩紐とか残ってるから気になんなかった。

 なんかズボンは履いてるのにチャック全開、みたいなアレ。


 というか、なんで服だけ溶けてるの?


 「え?あの、見えて、る?僕の事、見てる?」


 流石に振り向いて2人を見た。


 アビゲイルさんは腕を組んでガッツリ見て頷いている。

 カインさんは両目を押さえて地面をのたうち回ってる。


 あぁ、そう...

 僕、裸、見られたわけだ。

 戦ってて気付かないうちに見られてたんだ...



「嫌ぁぁぁぁぁッッッ‼」



 僕は男だった筈なのに悲鳴がでた。

 だって、今は、今の身体は女の子だったから...




 僕は初戦敗退。

 1戦0勝1負けというスタートを切った。

 テクニカル?なノックアウト負けだよ。



 最終的にその場に縮こまり、「助けて」と言ったら、

 嬉々としてアビゲイルさんが助けてくれました。

 今の僕ではスライムを倒せない様です。

 だけど、いずれは倒して見せるっ‼

 僕の天敵、打倒スライムだっ!



 ちなみに服は魔法で治りました。

 僕の魔法凄い便利。

 え?カインさん?

 もちろん治したよ?

 1時間ぐらい後に。




 だって、鼻血だしてたんだもん。

 流石に僕でも気持ち悪くて引いた。


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