第28話 希望の光



「...だから俺に力を貸してくれないか!?白髪の聖女様ッ‼」




「ふぇッ!?せ、聖女様ぁッ!?」


(僕はそんな大層な人間じゃないよッ!?

 なんで?僕は出来る事しかしてないんだよ?)


「無理にとは言わない。嬢ちゃんが怖いのも分かる」


 怖い。確かに怖い。

 僕は妹に会えるなら無難に生きていたい。


「だが、人々に癒しを、

 を与えてくれないか?」


(希望の、光?何それ?

 僕にしか出来ない事なの?)


 でも僕には妹を救いたいという気持ちがあるんだ。


「...すいませんちょっと外で考えてもいいですか?」


「あぁ、俺はここで待ってる」


 僕は震える身体で立ち上がった。

 そこにアビゲイルさんが手を貸してくれる。


「ユウ、私がいる。行きたいところがあれば何でも言え」


「ありがとうございます。アビゲイルさん」


 僕は礼を言い、アビゲイルさんと外へと出た。






 ここは僕の知らない村。

 獣人の子供達や老人、若い夫婦が楽しそうにしている。

 それは生前に見ていた当たり前だった風景に似ている。


 当たり前。

 みんな仲良く、争いのない世界。


 それがよく分からない存在によって壊される。


 僕は見た。

 アビゲイルさんの村を...。

 残されていたのは、悲しみと十字架だけだった。


 「ここは平和、だな」

 

 「うん。...そうだね」


 アビゲイルさんの言葉にロクな返事が出来ない。

 そんな僕へ遠くから呼び声が聞こえた。



「綺麗なお姉ちゃぁーん!」


(あの子はパツール村にいたリスの女の子?)


「お姉ちゃん元気になったの?良かったぁー」


 僕の事を心配してくれてたみたい。


「ありがとう。僕は元気だよ?」


 僕は今の不安な気持ちを悟られないように笑顔でお礼を言った。


「...?お姉ちゃんちょっと元気ないよ?どうしたの?あ、コレ!もう無くなっちゃったけど私がいた村の自慢の白リンゴッ!お姉ちゃんみたいに綺麗な色でしょッ‼コレ食べて元気になってね!あ、私仕事があるんだった!またね!綺麗なお姉ちゃんッ!」



 リスの女の子はリンゴを僕に渡して嵐の様にどっかへ行ってしまった。

 受け取ったリンゴは綺麗な白だった。

(僕はこんなに綺麗な色なのかな?)




「ユウ、あのリスの子は両親をオークに殺された」


「えッ!?」


「それでも前を向いて懸命に生きている。何でだと思う?」


「...僕には、分かりません」


「あの子はユウに助けられた。他の誰でもないユウにんだ。だからあの子はユウみたいになりたい、ユウみたいに誰かの為に笑顔で色んな人を助けたいと言っていた」


「でもオークから助けたのはあのお兄さんで...」


「確かにアイツがオークから助けたのかもしれない。だがユウの近くにいてあの子は希望を見つけた。他人の為に懸命に走るユウを見て自身がやるべき事を見つけたんだ」


「そんな、僕は出来る事しか...」


「そうだ、ユウにしか出来ない事だろう」



(僕があの子の、希望?

 一体僕があの子に何の希望を与えたんだろう?)



 僕は目の前の人達を見た。

 この村は明るい。

 太陽のおかげだけじゃないと思う。

 村が、人々が生きている感じがする。



「どんなに辛い事があっても、生きてさえいれば喜びや楽みがある。子供も大人も関係ない。あの子に、いや私にもユウは希望を与えてくれた。それはということだ」


「自身と他人の為に生きるという...希望?」


「私が今生きているのはユウのおかげだ。だから希望を与えてくれたユウの為なら何でもしよう」


「僕は自分に出来ることをしただけ、です」


「それでいい。だから好きなように生きろ」


「好きなように、ですか?」


「私がユウを必ず守ってやるからやりたい事をやれ。誰にも文句は言わせん」



 僕のやりたい事?


(僕は妹を助けてあげたい。

 でも、もう誰の涙も見たくない。だから...)


「僕は争いのない平和な世界で、妹と、笑顔で生きたいッ‼」


 アビゲイルさんは僕を見て微笑んでいた。

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