第501話 強引な解決策
「いやあ、閉じ込められちゃったねえ」
ダイザーロくんを助けに行ったら、空中に浮かぶ黒い六角柱の魔物によって、球状の結界に閉じ込められていた。助けようと部屋に入れば刃が飛び出る罠が作動し、それをスイッチで止めた隙に、俺たちまで魔物の結界に閉じ込められてしまったのだ。ちなみに六角柱の魔物は当然結界の外にいる。
「工藤、笑っている場合じゃないぞ」
やってしまったものは仕方ない。とへらへらしていたら、武田さんに諌められてしまった。
「ダイザーロが結界で俺たちに何か叫んでいたのに、こちらには全く聞こえていなかったのを覚えているか?」
覚えているか? と言われれば、『記録』があるので鮮明に思い出せる。確かにダイザーロくんの声は聞こえなかった。と言う事は、
「この結界は空気を通さない。って事ですか?」
俺の質問に武田さんが首肯で返してきた。
「つまりこのままだと俺たち窒息死って事かあ」
と俺は体育座りになって天井を仰ぎ見た。
「呑気だな」
三人が呆れて嘆息している。
「まだ時間はあるでしょう。三人寄れば文殊の知恵。こちらは四人だ。良い案が出ますよ」
「どうでしょう?」
そんな俺の発言に否定的なのはダイザーロくんだ。
「俺も最初は、結界に閉じ込められただけだと思っていたのですが……」
ダイザーロくんは言いながら結界の様子を窺っている。それに釣られて俺たちも結界に視線を向けると、少しずつではあるが、結界が縮小してきているのが分かった。これは窒息死の前に圧死しそうだな。
「敵さんも待っていてはくれない訳か。武田さん、最初に『空織』で見た感じだと、あの六角柱の魔物のステータスってどうなっていました?」
「レベル四十八だ」
わ~お。めっちゃ強いな。
「それにしては耐久値が低かったがな。一発当てられれば倒せる」
「いわゆる紙装甲ってやつですか?」
首肯する武田さん。
「その分、MPと精神値にステータスを振っているから、この結界を壊すのは、いくら『逆転(呪)』を持っている工藤でも、難しいと思うぞ」
ありゃ、作戦バレてたか。
「じゃあ、大人しく他の作戦を考えます」
と言ってもな。恐らくはどんなものも弾く結界だろうから、ダイザーロくんのブリッツクリークも、カッテナさんのリペルも使えない。スキル系も弾かれるだろうから、武田さんの『転置』も無理だろうなあ。う〜ん。どうにかして外から一発当てられればこちらの勝ちなんだけど。
「やはり、バヨネッタ様たちを待つ以外に案が思いつきませんね」
カッテナさんの結論はそこだ。
「でもなあ、バヨネッタさんにこんな醜態見られたら、絶対後で馬鹿にされるよなあ」
「あいつだって最初の部屋でヘマをしているんだ。おあいこだろう?」
まあ、あれは確かに財宝の魔女として、かなり恥ずかしい失敗だっただろうけど。
「あ、いえ、確かにバヨネッタ様なら、あんな魔物瞬殺だと思いますけど、他の方々が来ても、罠が作動すれば、その罠であの魔物を倒せると思うんです」
カッテナさんの意見にハッとさせられる。そうか、紙装甲だもんな。俺たちの時は罠が発動してすぐにスイッチで罠を解除してしまったから、六角柱の魔物に一発入らなかったし、ダイザーロくんの時は罠を壊してから宝箱を鍵で開けたから、結界に閉じ込められた訳だし。誰かしら来れば、あの六角柱の魔物が自滅する可能性があるのか。でもなあ、
「カッテナさんとダイザーロくんとの合流を優先したから、バヨネッタさんたちとの合流はまだ先なんだよ。それに一度解除した罠が、もう一度作動するのか不確定だし」
俺の言に、「そうですか」と肩を落とすカッテナさん。ごめんよ。
「いや、その案ありだな」
そう口にしたのは武田さんだ。にやりと口角を上げているので、名案が思い付いたのだろう。
「要はバヨネッタたちが来ようが来まいが、罠さえ作動すれば、あの六角柱の魔物は倒せる訳だ」
と言いながら武田さんは、この部屋の罠を解除したスイッチを取り出した。成程。
「それって、確証あるんですか?」
「ある。前世で試しているからな」
おっと、俺と武田さんの会話が空中戦みたいになっているせいで、カッテナさんとダイザーロくんが不思議そうな顔をしている。
「ようするに、武田さんの案ってのは、スイッチを壊す事によって、もう一度罠を作動させる。って事だよ」
それに納得するカッテナさんと、考え込むダイザーロくん。
「それは確かに名案のように思えますけど、俺が結界に閉じ込められている間、罠は作動しなかったんですけど」
「あ」
ダイザーロくんの指摘に、武田さんが黙り込んでしまった。さてどうしたものか。
「とりあえず、スイッチは壊しておきましょう」
この後何が起きるか分からないから、バヨネッタさんたちが来た時に罠が作動するように、スイッチは壊しておいた。そしてスイッチを壊してもやっぱり何も起こらなかった。
「ダイザーロくんの不安的中か」
「すみません」
「謝る事じゃないよ。こっちが誤っていた事だし」
恐らく罠が作動しないのは、俺たちが空中に浮かぶ球状の結界に封じられているから。そして六角柱の魔物が空中に浮かんでいるからだ。あいつを天井なり壁なり床なりに付けられれば、罠は作動すると思う。
「俺たちの今の状況って、結界によって床との接触が断たれているからですよね?」
「そうだな」
と武田さんに確認する。それならば。
「三人には悪いけど、ちょっとの間我慢していてください」
俺は皆がひしめき合う球状の結界の中で、五閘拳・重拳の準備に入る。
「マジか!?」
これに対して無駄とは分かっていても、三人とも己の身を結界の壁面に貼り付けるようにして、俺が少しでも動きやすいようにしてくれる。そして、俺は重拳で結界内の重力を重くしていく。いくら頑強な結界とは言え、『有頂天』状態で『逆転(呪)』に重拳をプラスすれば!
ガチンッ。
俺の無理を通すような強引なやり方で、結果として結界は徐々に下降していき、罠を作動させる事には成功した。そして刃が部屋のあらゆるところから飛び出し、それを避けきれなかった六角柱の魔物は刃に斬り裂かれて消滅し、しかし罠がそれで止まる事はなく、結界が消えたところを狙うかのように、俺たちに刃が襲い掛かる。
ギインッ!
まあ、『聖結界』があるから大丈夫なんだけど。
「三人とも大丈夫?」
「重力に押し潰されて死ぬかと思った」
武田さんの言に、首肯で同意するカッテナさんとダイザーロくんだった。
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