第381話 呪われた血族

「はい」


「はい、ハルアキ」


 水晶ドームの中に入れて貰った俺たち三人。そして手を上げる俺。指名するバヨネッタさん。


「あの龍はアネカネが召喚したんだよね?」


「そうだけど?」


 とアネカネは首を傾げる。


「なら、その逆パターンで俺たちをこの『絶結界』の外に逆召喚! みたいなの出来ないの?」


「出来ないわね」


 ストレートを打ち込まれた。


「やらなかった訳じゃないのよ。こっちには毒に冒された人たちもいたし。でも結果として出来なかったの」


「出来なかった?」


 今度はこちらが首を傾げる番だ。


「石橋さんって言ったっけ? 自衛隊の隊長さん」


 ああ、そう言えば石橋さんは『転移』のスキルを持っていたな。


「あの人のスキルも、『絶結界』内での転移は可能だったけど、『絶結界』の外へは転移出来なかったわ。どうやらこの『絶結界』、入るのは簡単だけど、出るにはスキル所持者の認証が必要みたい」


 そうだったのか。そう言えばアネカネは龍を召喚陣で戻すのではなく、『空間庫』に入れていたっけ。


 困ったな。と腕組みしながらメンバーを見回す。はたと目に止まったのはサルサルさんだ。あの人骨兵はどこから召喚されたのか。


「あら? 冥界に興味があるのかしら?」


 いや、そう言う訳でわ。思わずサルサルさんから目を逸らしてしまった。


「冗談よ。そもそも私の兵隊さんたちは、骨片を『増殖』と『活性』のスキルで動くようにしたもので、冥界から人霊を喚び出したものじゃないのよ」


「そうなんですね」


 俺が素直に感心していると、バヨネッタさんが嘆息する。


「あなたねえ、カロエルの塔で何を学んだのかしら?」


 カロエルの塔? 言われたので首を傾げて思考を巡らす。そう言えばカロエルの塔でバヨネッタさんが、魂は天に昇って世界に溶けるとか言っていたっけ。そうか。溶けて消えてしまうなら、人霊を喚び出す事は出来ないのか。


「何か、馬鹿丸出しですみません」


 俺がサルサルさんに頭を下げると、サルサルさんは手を振って笑い返してくれた。


「良いのよ。実際、人を殺してその魂を術で封じ込めて使役する輩もいるから」


 笑いながらする発言じゃなかった。いるんだ、そんな輩が。まあ、ドミニクもそんな感じだったか。


「さあ、馬鹿な話はこれくらいにして、ジゲン? だったかしら? ここのボスをどうにか倒さないと」


「いえ、その前に……」


 と俺は先程ゼラン仙者と話した作戦を改めて説明する。



「確かに。ここで力押しで倒して出られなくなっては、向こうの思う壺ね」


 バヨネッタさんの言に全員が首肯する。


「で? どうにか出来るの?」


 そりゃあ具体的に策を練らないと、ですよねえ。


「武田さん、ジゲン仙者の周囲にはあとどのくらい配下の者がいるんですか?」


 困った時の武田さん頼み。みたいに武田さんに話を振った。


「ジゲン仙者も合わせて五十人と言ったところか。厄介なのはさっき龍と戦っていた天狗も残っているところだな」


「え? さっきの爆発で死んでないんですか?」


「残念ながらな。流石はレベル五十オーバーと言うところか。しぶとい」


 天狗だもんな。俺と同等レベルのアネカネが召喚した龍じゃあ、倒し切れんかったか。


「残っている相手の主だったスキルってなんです?」


「まずジゲン仙者は……」


「『毒血』のギフトだな」


 答えたのはゼラン仙者だ。


「ジゲン仙者は有名な毒使いだった。その血は毒であり薬であった。時にその一滴で一万の兵を殺し、時にその一滴で不治の病を癒やしたと言われる。その血を求めて各国の王侯貴族や豪商は、己の財をなげうってまでジゲン仙者に頼み込んだそうだ」


 毒も分量を弁えれば薬になるとは言うが、とんでもない能力だな。


「しかしこの『毒血』の恐ろしさはそれだけではない」


「まだ何かあるんですか?」


 驚く俺の横で、バヨネッタさんが静かに口を開く。


「子に影響を与えたのね」


 首肯するゼラン仙者。どう言う事なのか。これを聞いた俺は意味が分からなくても背筋がぞくりとした。


「つまり、ジゲン仙者はその『毒血』を子に遺伝させる事によって、子をいつでも『毒血』で殺せるようになったのだ」


「へ? ジゲン仙者の子供が『毒血』を使えるようになる訳ではなく、ですか?」


 俺の言葉に頷くゼラン仙者の仕草は重々しい。


「血系統のスキルは、こう言う訳の分からない事象を引き起こすのよ。だからリットーはウルドゥラの『供血』のギフトを恐れて早くから手を打とうと講じたの」


 そうだったのか。確かに、もしもウルドゥラの『供血』が訳分からない遺伝の仕方をしたら、後世において相当厄介になっていたのは肌身で感じる。


 ここで俺はハッとした。


「もしかして、この一族、マリーチの裔は本当にジゲン仙者の血縁って事ですか!?」


「そうでしょうね」


 背中の冷や汗が止まらなくなるのと同時に、頭に熱い血が上る。気持ちがぐるぐるして気分が悪くなる。そうか小太郎くんと百香があんな死に方したのは、ジゲン仙者の、一千五百年も昔の先祖の血、『毒血』のせいだったのか。


「ハルアキ、顔が面白い事になっているわよ」


 バヨネッタさんにそう言われて、自分の顔面に力が入っているのに気付いた。皆が心配そうにこちらを見ていた。


 バチンッ!!


 それを両手で叩いて気を落ち着ける。


「いける?」


「大丈夫です。肚は決まっています」


 俺は天守閣を失った敵城に目をやった。

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