第376話 二等賞

 立ち昇る火柱に氷柱、雷が降り注ぎ突風が舞う。それを躱せば先回りした忍者が小銃を構えて待ち伏せしている。白剣を盾にそこへ突っ込み、ハイキックで小銃を持つ忍者をノックアウトすると、すぐにその場を飛び退いた。


 ゴッ!!


 降ってきたのは大きな拳だ。砂で出来た巨人の攻撃は紙一重で躱したが、その巨体の影から影狼たちが十頭現れ、俺に襲い掛かってくる。それを白剣を横薙ぎに振るって消し去り、また駆け出す。一対多ではヒットアンドアウェイは基本だ。足を止めればあっという間に囲まれてジ・エンドである。


 分身なのか本体なのか分からない忍者軍団が、俺の後を追い掛けてくる。その手にあるのは刀などの武器だけでなく、小銃、更に魔導具と、古今に世界を問わない。そしてロケットランチャー、


「ロケットランチャー!?」


 思わず声を上げてしまった。びっくりして一瞬固まった俺目掛けて、発射されるロケラン。


「うわああああっ!?」


 驚いて白剣の盾にアニンの黒盾を重ねて、前面に分厚く展開する。


 ドゴッアアアア…………ッッ!!!!


 二重の盾で防いでも、その衝撃の強さに踏ん張りきれずに足を滑らせ転ぶ。


「あっぶな! 人ひとりにロケランぶっ放すかよ!? って!?」


 更にロケットランチャーを肩に担いだ忍者が何人も現れ、有無を言わさず発射してくる。


「くっ!」


 俺は近場で爆発されてはかなわないと、白剣の先を何又にも別けて、それを鞭のように振るい、空中でロケット弾を打ち落とす。


「はあ……」


 ロケランなんてものを持ち出すとは。提供元は百香の『空間庫』か。あいつのスキル『超空間転移』だろ? いつの間に……って流石は異世界調査隊の運び屋。そりゃあ『空間庫』も取得するか。何でも出てきそうだな。ちらりと見るが、まだまだ武器の提供は途絶えそうにない。


 ビッと白剣を百香に向かって伸長させるも、それを庇うように忍者たちが自らを盾にした。


『あの動き、『空間庫』の中にはまだやばい武器兵器が隠されていそうだな』


 アニンの言葉に頷きながら、死角から襲い来る影狼たちを白剣で斬り伏せ、その影から更に急襲してくる忍者たちをアニンの黒槍で貫く。


 ギンッ!!


 振り向き様に、上段から振り下ろされる小太郎くんの村正を白剣で受け止める。


「何をした?」


「何の事かな?」


 言葉とともに剣を斬り結ぶ俺たち。


「俺たちは『狂宴』でバフが掛かっているんだぞ? それにお前が付いてこれる訳がない。それに、明らかにここに入ってきた時よりも全能力が強化されているじゃないか」


「良く見ているな」


 言って互いの剣を弾き、俺と小太郎くんは距離を置く。そして、それを待ってました。とばかりに降り注ぐ魔法に銃弾にロケット弾。


 爆音が轟き、地が揺れ、視界が赤と黒に染まるも、俺の白剣の結界に綻びはなかった。


「その剣も強化されているな」


 その視界に俺を捉えるや否や、小太郎くんが俺に向かって飛び込んできて村正を突き立てる。流石の白剣の結界も一点突破には叶わず瓦解し、俺は小太郎くんの突きをアニンの黒剣で受け止めた。


「その化神族も強化されている」


 小太郎くんの右ミドルキックが俺の左脇腹にヒットして、軽くふっ飛ばされてしまった。


 すぐに起きようとするが、眼前に村正を突き付けられ、俺は動きを止めた。


「『強化』か。単純なスキルだが強いな。いや、『強化』にしてはバフが強過ぎる」


「そんなに単純だったら、もっと使い勝手が良かったんだけどねえ」


 俺は全身から無数の黒槍を出現させて小太郎くんを急襲するが、当然のように避けられてしまった。こっちもバフが掛かっているのに、まだ小太郎くんの方が速いのか。それでも他の忍者たち相手ならやっていけそうだ。ならば他の忍者たちを先に倒すべきか。色々考えながら立ち上がれば、距離を置いた小太郎くんがこちらの様子を窺っている。はあ。


「俺はこれでも運が悪くないんだろうねえ。あの事故でも俺は軽症だったし、異世界の旅でも良縁を築けてきたと思う。この間商店街の福引きをやったら二等賞の冬の鍋セットだったしね」


「何の話だ?」


 警戒してか、更に一歩後退る小太郎くん。


「でもさあ、二等なんだよねえ。一等とか特賞とかじゃないんだ。本当に欲しいものには手が届かない。そんな感じ。もしくは欲しかったものと少しズレたものが手に入る感じかな」


 オレを取り囲むように忍者軍団が輪を作る。


「俺が手に入れたスキルは『代償』。その能力はレベルを代価に、スキル所持者に一定時間強力なバフを掛けると言うものだ」


「レベルを代価に……」


 その意味を理解して、小太郎くんは歯ぎしりした。


「せっかく愛知の天賦の塔でレベルが一つ上がったのに、すぐに逆戻りだよ。それでも倒し切れないとなると……、もう一回バフを重ね掛けしないといけないな」


 俺は口角を上げていた。このギリギリの戦いに脳内でアドレナリンが出まくっているのかも知れない。その暴走を抑えるつもりで一つ長く息を吐くと、俺はレベルを一つ犠牲にして、自分を強化した。


『代償』を使った瞬間から、全身を強い力が駆け巡っているのが分かる。重ね掛けのせいか、自分でも制御し切れないような強い力の奔流。それが暴走しないように気を配りながら、俺は両の手の平を上に向ける。


 右手の上には白い球体。左手の上には黒い球体。それら二つが俺の周囲を回り始めたところで、俺は『空間庫』から改造ガバメントを取り出して無限弾帯をセットする。


「さあ、これが俺に今出来る最強武装だ。もう加減は出来ない。小太郎くんも百香も、名も知らない忍者さんたちも……、死んでくれ」


 言って俺は改造ガバメントを小太郎くんへ向けて構えた。

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