第315話 放課後

「失礼します」


 俺は先生に一礼して、職員室のドアを閉める。


「やっと終わったのか?」


 職員室を出た先では、タカシたちが待っていた。タカシ、祖父江兄妹の兄の小太郎、妹の百香、ミウラ嬢にアネカネだ。


「まったく、ハルアキのお陰で地球が救われ、日本も平和だって言うのに、良くもまあ、そんな貴重な人材の時間を、小一時間も説教に割けるものだわ」


 アネカネが腕を組んで、片足でタンタンと廊下を叩いている。他の面子も同意見なのか、うんうんと頷いていた。


「まあ、仕方ないよ。色々あって、ここ最近勉強に身が入っていなかったのは事実だし」


 三学期に入ってからと言うか、年末にエルルランドに入ってから、デレダ迷宮でウルドゥラやシンヤと戦い、そこからパジャンに行く事になり、パジャンから帰ってきたら、国連理事国との会談が始まり、ミウラ嬢とアネカネが学校に転校してきて、それ関連で武田さんと出会い、博物館で展示会だあ、とオルドランドに来てみれば、今度はアンゲルスタやティカが現れ、そのせいでオルドランドとジャガラガが戦争しそうになり、日本に戻れば、アンゲルスタから世界に対して宣戦布告。ドミニクの野望を阻止する為に、ロケットを飛ばして『聖結界』を世界中に張り巡らせ、アンゲルスタに突入、カロエルの塔でドミニクらを討ち倒したと思ったら、魔王トモノリが現れて、「仲間になれ。でもシンヤは殺す」と発言して退場。その後カロエルによって地球は天賦の塔のある新世界へと生まれ変わり、俺はその対応と、ジャガラガとオルドランドの戦争を止めるべく、その最前線でジャガラガの君主オームロウと会談。そして仕上げに先生に、「無断欠席が多い。仕事をしているのは知っているが、学生の本分は勉強だ。それをおろそかにするな」と説教をされる。もう、身体が一つじゃ足りない。ミデンみたいに分裂したい。



「そう言えば、『狂乱』が使えるグジーノって奴はどうなったんだろう?」


 カロエルの塔にいたっけ? 何かもう覚えていない。


「グジーノがどうかしたのか?」


 俺の横でスーパーのカートを押す小太郎くんが、俺の独り言に反応した。俺たちは現在、駅前の地元密着型スーパーにやって来ている。ここで色々買って、我が家で引っ越し祝いの軽いパーティでもしようと言うことになっているからだ。


「いや、オルドランドからアンゲルスタに加入した者の中に、『狂乱』が使えるグジーノって奴がいたはずなんだけど、あいつ放っておけないから、どうなったんだろうかと。アンゲルスタの戦後処理は国連軍に丸投げで、天賦の塔の方に掛かり切りになっていたから」


「そいつの話は桂木さんと武田さんから聞いているよ。確かミッケル・ジェランと同じく、日本の留置施設に投獄されているはずだ」


「そうなの?」


 知らぬ間の出来事だが、納得は出来る。アンゲルスタに突入した時点で、スキルを使える者を収監出来る施設を持っていたのは、日本だけだったからだ。小太郎くん曰く、ジェランだけでなく、あそこで悪さして生き残った者、また世界中でテロを起こそうとして捕まった者は、ひとまず日本の留置施設に入れられたらしい。


 ただ、天賦の塔が建った現在、スキルを使う犯罪者は右肩上がりに増え続けている訳で、そいつらの収監施設の建設が、世界的に急務となっていた。でなければ、犯罪者はその犯罪の大小に拘らず、発覚した時点で即処刑しなければならなくなるからだ。


「って言うか、入れ過ぎじゃないか?」


「こう言った場所、初めてなもので」


 テレながらも、ミウラ嬢は手に持っていたステーキ用高級牛肉をそっとカートに入れる。


 日本のスーパー初体験だからだろう。ミウラ嬢とアネカネは、余程テンションが上がっているのか、さっきから、目に付いた物を手当たり次第に俺と小太郎くんのカートに放り込んでいた。お付きにタカシを連れ回しているが、タカシはうんうんと頷くばかりで、全く止める気配がない。使えないやつだ。


 対して百香は自身でカートを押し、一つ一つ吟味してカートに入れている。ちょっと意外かも。


「家では百香が料理当番なの?」


「いやいや、日替わりだよ。まあ、料理の腕的には、百香の方が少し上かな」


「そうなんだ」


「少しだけな」


 と親指と人差し指で距離を表す小太郎くん。負けず嫌いかよ。


「はいはい、お菓子とかそのくらいにしてな」


「ええ〜〜!?」


 ドサドサと俺のカートにお菓子を放り込むアネカネが、凄い顔で驚いている。そんなに目をかっ開くなよ。


「つうか、そろそろ買い物を切り上げて、家に行きたいんだけど」


「これ! これだけお願いします!」


 そう言ってミウラ嬢が持ってきたのは、冬の食材の王様カニだ。何でこの人高級な物を直撃して持ってくるんだ?


「はいはい。それで最後にしてください」


「ハルアキ、ミウラに優し過ぎない?」


 とアネカネが詰め寄ってくるが、優しくはない。面倒臭いだけだ。


 さてさて、総額がどうなったのかは、クレジットカード会社から、最近使い過ぎじゃないですか? と本人確認の連絡がきた事で察して欲しい。



「おっじゃましま〜す」


 タカシよ、初めてきた他人の家に、家主より早く入り込むのはどうなのだろう?


「広っ! テレビでか! 眺め良! 良いなあ。こんな家で一人暮らしとかしてみたいわ。ハルアキぃ〜」


「お前にだけは絶対家の鍵を渡さない」


「何でだよ!」


「何に使うか想像がつくからだよ! この家、仕事にも使うんだぞ! 関係者以外立ち入り禁止なの!」


「そんな、一人でのんびりしたいだけなのに、ハルアキは俺の事なんだと思っているんだ?」


「性獣」


「おい!」


 これだけで笑いが起きるのだから、今回タカシを誘ったのは間違いではなかったな。まあ、今回の話はタカシも当事者だけど。


「ちょっとみんな、話してないで料理の手伝いしてよ」


 とキッチンを独占していた百香からの要望で、俺たちは料理の仕度を始めたのだった。

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