第40話 海賊が現れた! らしい。
「海賊!?」
熱があると言うのに、思わず大声で聞き返してしまった。頭がガンガンする。
「ああ。恐らく自走船であろうものが、この船の周りを取り囲んで、うろちょろしているよ」
「なんですか? その『恐らく』とか『あろう』とか」
情報が曖昧過ぎる。
『恐らく『隠形』の魔法陣を船に施し、船自体が見えないのだろう』
とアニンが久しぶりに口を開く。成程、引き波しか見えないからオルさんは『恐らく』とか『あろう』とか言っていたのか。流石は元海賊のアニン。見ていたかのように事情が分かっているな。
「しかし海賊ですか。この船には冒険者も結構な数いるのに、良く襲う気になりましたね」
「ああ、そうだね」
何より、この船には、
ドーンッ!!
そこに甲板から爆発音が響く。
「どうしました?」
「海賊船の一隻が破壊されて沈んだよ」
ああ、バヨネッタさんによる砲撃か。そう、何よりこの船にはバヨネッタさんが乗船しているのだ。海賊たちにはご愁傷さまと伝えたい。きっとバヨネッタさんはこの事態を予測して寝室から出て行ったのだろう。
その後も、甲板から爆発音は鳴り響き、この船を取り囲んでいる海賊船はドンドン沈んでいっているそうだ。
まあ、バヨネッタさんに任せておけば安心かな。と思っていたら、ドンドンドンッと船室の扉が何者かによって叩かれた。
俺、オルさん、アンリさんは「何事か?」と顔を見合わせる。
「お客様! この船の船員をしている者です! 現在本船は海賊の襲撃を受けており、大変危険です!」
船員? 海賊の襲撃なんて分かっているよ。
「そこで我々はお客様の安全を考慮し、食堂にて大型の結界を展開する事を決定しました! お客様! 直ちに食堂へとお集まりください!」
ああ、船員たちもバヨネッタさん任せに、手をこまねいて見ていただけじゃないのか。
アンリさんが「どうしましょう?」と目で俺とオルさんに訴えてくる。
「やめた方が良いです」
『やめた方が良い』
俺とアニンの声が被った。
『我々はハルアキの『聖結界』で護られているんだ。今更、食堂に行く意味がない。病人がいては足手まといでもあるだろう』
アニンの言に、オルさんも首肯する。それを聞いたアンリさんは、「では、お断りいたして参ります」と寝室から出ようとしたので、俺とアニンで慌てて止める。
何故止めるのか、と首を傾げるアンリさんに、ちゃんと説明しなくては、と思っていたところに、バキンッと言う破壊音が船室の扉から聞こえてきた。やっぱりか。
「アンリさん、オルさんも、出来るだけ俺の側に寄っていてください」
アンリさんも流石に異常事態だと感じ取ったのだろう。俺の指示に素直に従って、俺の側に来てくれた。寝室に『聖結界』を張っているとは言え、何があるか分からないからな。
壊した扉から、ガヤガヤと何やら複数人の声が聞こえてくる。その話し方には、明らかに先程までの船員らしさはなく、もっと粗野な口調に変わっていた。
やっぱり先程の船員はブラフだったか。そう思っていると、この寝室の扉も壊され、無理矢理開けられた。
「あれ? 何だよ。誰もいないと思っていたら、こんなところで隠れんぼかあ?」
そう言って剣を片手にゲスな笑みを浮かべる顔は、見覚えがある。初日に甲板でぶつかった冒険者だ。
「なんだ? 誰かいんのか?」
冒険者然とした男の言葉に反応して、船室を漁っていた男の仲間が寝室前に集まってきた。数は十人以上いる。手には武器の他にも、船室の調度品などが握られていた。
「何だよ、女いねえのかよ」
と失礼な事を発する仲間の一人。いや、アンリさんがいるが?
「何なんですかあなたたちは?」
そんな男たちに、アンリさんが果敢に尋ねる。その何がおかしいのか、男たちは顔を見合わせ互いに笑い合った。
「アンリさん、こいつら海賊の仲間だよ」
俺の言葉に、「え!?」とアンリさんが驚き後退り、笑い合っていた男たちは真顔になる。
恐らくはこの男たちが海賊たちと連絡を取り合って、この船を襲撃させたのだろう。先程の船員の真似にしても、素直に扉を開けていたら、どんな目に遭っていたか分からない。危機一髪だったな。
「へえ、何か事情通っぽいねえ君ぃ」
男は
「分かっている。俺たちの事を知っている奴らは生かしちゃおけねえからな!」
そう言って男は寝室に無粋に入ってこようとして弾き飛ばされた。『聖結界』に。驚愕する男と仲間たち。
「何してくれてんだ!」
怒った仲間の一人が寝室に突入してこようとするが、男同様に『聖結界』に弾かれた。あ、こいつらあんまり頭良くないな。
多分こいつらは下っ端で、海賊たちが本隊なんだ。そうでなければ、今、海賊船がバヨネッタさんによってバンバン撃ち落とされていっているのに、ここで呑気に火事場泥棒みたいな事はしていない。俺なら逃げている。こいつら、自分が捨て駒って自覚もないんだな。
「くそったれ!」
男たちはそう言いながら、何が男たちを駆り立てるのか、次々と寝室に突撃をかましてくる。こんな奴らに付き合いたくはない。が、ブンマオ病で動けそうもない。
「凄いなハルアキくんの『聖結界』は」
俺の横に身構えるオルさんがちょっと興奮している。手にはいつの間にか三十センチ程の魔法の杖を持っていた。いざと言う時、これで攻撃する為だろう。そうならなければ良いが、恐らくそうも言っていられない。
「オルさん、アンリさん、もうすぐ『聖結界』は破られます」
二人は俺の言に驚いて、俺の顔を覗き込む。
「普段であれば大丈夫なんですか、現在進行形でブンマオ病の回復の為、『回復』のスキルを併用していますから。今、俺の魔力がガンガン減っていってるんです。覚悟を決めておいてください」
二人のつばが鳴る音が聞こえた。
そして男たちのその後の数度の突撃により、俺の『聖結界』は壊されてしまった。
「よっしゃあ! 結界は壊れたぞ!」
「雷よ!」
壊れた事に喜ぶ男たちに、オルさんが魔法の雷で攻撃する。これによって一人が倒れた。
「てめえ! 良くもやってくれたなあ!」
怒る男たちが、一斉にこちらに襲い掛かってきた。
「アニン!」
『ああ!』
俺はアニンを巨大な盾にして、その一度目の攻撃を防いだが、そこまでが限界だった。アニンを盾の姿に維持する事も出来ず、破綻した盾の隙間から男たちが再び襲い掛かってくる。
オルさんが応戦するが多勢に無勢だ。アンリさんが俺の服を掴んで震えている。ここまでか。と天を仰ぐ。
ダァンッ!
そこに炸裂音が鳴り響いた。直後、襲って来た男の一人が俺のベッドに突っ伏す。そして男が倒れた事で寝室の向こう覗けた。そこには、金と銀の二丁拳銃を持ったバヨネッタさんが立っていた。
ダァンダァンダァンダァン…………!!
バヨネッタさんの二丁拳銃が火を吹き、そして男たちが倒されていく。俺たちの苦戦が嘘のように、バヨネッタさんはあっという間に男たちを退治して見せたのだった。
「まったく。ハルアキ! 『聖結界』はどうしたの?」
「破られました」
「やぶ……!?」
そんな馬鹿な、とバヨネッタさんの顔が語っている。そこをオルさんが補うように説明してくれるが、何を言っているのか聞き取れない。視界はそこで暗転し、俺は気絶したのだった。
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