第7話 スライム
ツルハシを、振りかぶって振り下ろす。ツルハシを振りかぶって振り下ろす。……やはり進み具合が違う気がする。先程よりツルハシが岩壁に深く突き刺さり、岩が砕かれている事を実感する。
いや、単純に俺が穴を掘る事に慣れてきたのかも知れない。う〜ん、どうだろう?
まあいいや、慣れてきたにせよ、レベルアップしたにせよ、それで進み具合がスピードアップするのなら、それはそれで良し。
俺はツルハシを、振りかぶって振り下ろす。ツルハシを、振りかぶって振り下ろす。
単純作業は飽きがくる。俺は一旦穴掘り作業を中断すると、岩に腰掛け持ってきたペットボトルの水を、一気に半分程飲み下した。水が美味い。自分が思っていた以上に喉が渇いていたんだと実感した。
更に残りの半分を飲み干すと、自分が掘った横穴を見遣る。岩壁は七十センチ程凹んでいた。
良くやったなあ。と思う反面、その周りに砕かれ散らばった瓦礫が目に付いた。あれ、どかさないとなあ。ツルハシじゃやりにくいから、スコップかなあ。でも今はまだ岩壁の表面だから良いけど、奥に進んで行ったら瓦礫をスコップで運ぶのは大変そうだ。工事現場なんかで使われる一輪車が必要かも知れない。
でもなあ、スコップやツルハシでも母さん変な顔をしてたのに、これで一輪車なんて買って帰ってきたら、「ハルアキ何やってるの?」なんて聞かれそうだよなあ。一輪車は家族がいない時に買ってこよう。
次に反対側の湖の方を見遣ると、スライムが二体、二匹のカエルの死骸に覆い被さっていた。
(スライムか。あれ倒してもレベルアップするのかな?)
俺は食事中のスライムの一体にそうっと近付くと、食事に夢中のスライム目掛け、ツルハシを振り下ろした。
バシャッ! と言う音とともにゼリーのように弾けるスライム。その破片がつなぎにかかり、頬を掠める。
「ぐわっ!? あっちぃ!」
そう言えばスライムは、体内の酸で獲物を溶かして食事をしているんだった。飛沫を浴びたつなぎも、スライムの酸でボロボロに溶かされてしまった。うげえ、さっきカエルと戦った時のつなぎは、まだ洗濯中だし、もう着替えがないんだけど。
俺がボロボロになったつなぎに目を向けている間に、四散したスライムは、破片たちがまるでそれぞれ意思があるかのように、カエルの死骸に戻ってきて、また一つの物体となってカエルの死骸を溶かしながら吸収し始めていた。
え? スライムってもしかして物理攻撃が効かないタイプなのか? それって魔法が使えない俺には攻略不可能なんじゃ? スライムから攻撃されたら終わりじゃね?
……いやいや、待て待て待て。そうと決まった訳じゃないだろう。こういうタイプは弱点とかあるはずだ。あるよね?
人間で言えば心臓に当たる部分が存在して、そこを潰せば動かなくなるって言うのが定番だ。
え〜と、こう言う場合、心臓に当たる部分は魔石だったりするんだよねえ。う〜ん、宝石のようにキラキラ輝く場所は……、おっ、あった! ああ、でもちっさいなあ。
幅一メートル二十センチはあるだろうに、心臓になる魔石らしきものは、大豆くらいの大きさしかない。
とりあえず、これをスライムから取り出してみよう。と俺はツルハシをスライムに突っ込んで、魔石らしきものを取り出そうする。
が、ツルハシを突っ込んで直ぐに、ツルハシの持ち手から香ばしい匂いがしてきた。ヤバい! ツルハシが酸で溶け始めてきてる!
俺は早く魔石を取り出そうとスライムの体内でツルハシをぐりぐりし始めたが、スライムも流石に魔石を取られるのは嫌なのだろう。ぐにょんぐにょん動いて抵抗してくる。
「くっ、大人しくしろ!」
と俺は更に強引にスライムの中を掻き混ぜ、なんとか魔石を取り出した。するとその直後、スライムは身体を保てなくなったのか、べちゃんと液体になって地面にその体内の酸を染み込ませ、地面からジュージューと言う音が聞こえてくるのだった。
「やべえな」
思わず独り言つ。手に持ったツルハシはスライムの酸で使い物にならない程ボロボロになっており、スライムの下にいて大量の酸を浴びたカエルの死骸はドロドロだ。これを見ると、何もここまでしてスライムの魔石を手に入れる事もなかったかも知れない、と思ってしまう。
しかし何はともあれ、俺は大豆程度の大きさの魔石らしきものを手に入れた。その為につなぎとツルハシを駄目にしてしまったが。……あれ? そう言えば最初にスライムを攻撃した理由は、レベルアップの為じゃなかったか?
俺は手でスライムの破片が掠った頬を撫でるが、痛い。レベルアップはしなかったようだ。
何であれ、こっちに来て初めて手に入れたお宝っぽいものだ。これを手に入れたと言う事で良しとして、今日はもう帰ろう。ツルハシもつなぎもボロボロでこれ以上穴掘り作業が続けられないからな。
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