第58話 前世の記憶
…………は? いきなり何言ってんだこいつ。泣いてる? 誰がだ。一応目元を確認したが、涙なんて流れてねぇぞ? 幻覚でも見てんのか?
「お前、泣いてる」
「何を見て言ってやがる。よく見てみろ、涙なんて流れてねぇだろ」
前髪を上げて見せても表情一つ変わんねぇ。どういうことだ? こいつの目には、俺の目から涙が流れているように見えているということか? 本当に意味がわかんねぇな。嘘をつき、俺をからかっているようにも見えないし考えていない。
「戸惑ってんのか? 珍しいこともあんだな」
「泣いてねぇのに泣いてると言われたんだぞ。さすがに驚くだろうが」
「俺が言ってんのは、お前から感じる恨みだ」
「…………は?」
俺から感じる、恨み?
「俺は、怨呪の怨みを感じ取ることができる。目の前にいる奴が、なんで人を恨んだのかを感じる事が出来る。それは、人も例外じゃねぇらしいな。お前の怨みも、俺の体にヒシヒシと伝わってんぞ。仲間を殺され、どこにもぶつけられない怒り。発散もできず、心のうちに秘めてる。だが、我慢し過ぎて、泣いている。いや、泣きたいという感情に気づいてねぇ。だから、泣きたくても泣けねぇんだ。その代り、心が泣いてる。悲しい、辛い。そういった感情が流れてて気持ちわりぃよ」
俺が、悲しんでるだと。いや、悲しいのは当然だ。今まで一緒に戦ってきた仲間がいなくなって、悲しくならない奴なんているかよ。そんなもん、いるわけがねぇ。だが、まさか、まさかな。こいつに指摘されるなんて思わなかった。俺もまだまだだな。
人を恨んだどころで意味なんてない。その恨みは身を亡ぼす。持ってはいけない感情。それでも持ってしまったのなら、その恨みを制圧し、操らなければならない。そうしなければ、俺達は怨みによって殺される。
「俺からながれてんのか?」
「あぁ」
「そうか。これは新しい発見だ。面白いもんを持ってんな」
「は? どういうことだ?」
「いや、こっちの話だ」
人の怨み《恨み》を感じ取れる。これは、もしかしたら今後の恨呪退治で使えるかもしれねぇな。ニシシッ、色々試してやるか。
「その感覚は今後、いろんな場面で使えるだろう。それは追々考えてみる」
「俺は使うなんて言ってねぇぞ」
「他にも聞きたいことがある。この話はここまでだ」
「おい」
「お前の過去。前世を教えてくれ」
「…………」
こいつなら、前世の記憶が残ってるはずだ。一体、どんな過去を持っている。その過去が、こいつに異変を与えている可能性がある。
これは俺の経験談に基づいての話になるが、こいつも記憶のどこかで聞いているはず。それを思い出すきっかけになればいい。
死ぬ直前に聞いた、誰かの声を――…………
「なんでそれを聞く」
「今のお前を知る為だ」
「知る必要なんてないだろ」
「お前は、今までに見たことがない異質な存在だ。少しでも情報が欲しい。そのための聞き取りだ」
「意味がわかんねぇ。たしかに、俺は他の奴とは違うが、それってどうしてもだめなことなのかよ」
なんだこいつ、いきなり顔を俯かせて。声がどんどん小さくなってく。怯えてんのか? そんなに、前世で怖い思いをしてきたのか?
俺も思い出したくないからな、今みたいな反応になるのは仕方がない。
「ダメなわけじゃねぇよ。ただ、俺達は今情報がなさ過ぎて受け身になるしかない。そんな中、お前を見つけることができた。異質な存在であるお前なら、この世界について何か知っているか。もしくは、何かを感じているかもしれない。異質であるお前を捕まえるため、何かが動き始めているのかもしれない。お前を中心に、何かが動いている場合、お前を知っておいた方が対処が出来るだろう。現に、お前は一度狙われてっしな」
何がきっかけかはわかんねぇが、大きなものが動き始めているのは確かのはず。それはこいつが関係している、間違いない。
「それと過去は関係ないだろ。どうしても話してほしいならお前が先だ。そしたら話してやるよ」
「なるほど、交換条件ということか。中々慎重だな」
「俺だけがお前の質問に答えてんだ。たまにはお前も答えやがれ」
ほぉ。俺が答えられないと思って、こんなことを言い出したな。あながち間違えてねぇ。俺も、できることなら話したくない。だが、仕方がねぇか。
「…………わかった。話してやるよ」
「はぁ? え、話す?」
「何だよ、お前。聞きたかったんだろ? よかったじゃねぇか」
「…………わかって言ってるだろ、お前。そういや、人の思考を盗み見ることができるんだったな」
「ニシシ、まぁな。だが、今更やっぱなしとかは通じねぇよ? わかってると思うが」
「わかっとるわ」
なら、話してやるか。忘れたくとも忘れられない。俺の、力となる恨みを――……
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