第50話 マッドサイエンティスト

 一つの部屋に幡羅さんと共に到着。


 ここは、誰の部屋なんだろう。見た目だけじゃ全然わかんない。標識とかがあるわけじゃないし。


「ここは誰の部屋ですか?」

「マッドサイエンティストの部屋」

「…………ん?」

「マッドサイエンティストの部屋」

「二回言わなくてもいいです」


 え、どういうこと!? マッドサイエンティストってたしか、狂ってる人だよね。狂ったような研究をしている人。


 え、な、何でそんな人の所に!?


蘭花らんか、いるか?」

『京夜さんと、もう一人は誰ですか?』

「入るぞー」


 え、入っていいんですか?!   


 ガラッ


 開けちゃったよ!! いいい、一体、中でどんな研究が!!??


「入ってもいいとは言っていないはずなんですが……」

「俺を待たせんな」

「京夜さんって、私に厳しくないですか? もっと優しくしてほしいです」

「無理だな」

「いじわる……」


 あ、あれ? 普通の部屋だ。普通の畳部屋。死体とか血痕とかがあるわけじゃない。

 よ、良かった。もう、京夜さんが変なことを言うか……ら……。


 い、や、あの。女である私がいるんですが!? 何半裸で話しているんですか!! 着替え途中なのに堂々と!! 早く服を着てください!! 筋肉質な逞しい上半身が丸見えです!!!


「ん? この人……。確か、妖裁級に飛び級した……」

「そうだ。今少し厄介なことになっていてな。お前に協力を願いたい」

「京夜さんのお願いでしたら……」


 あの、私は空気ですか? 


 この人、一体誰だっけ。名前は聞いたことあるような気がするんだけど。なんて声をかけていいのか分からないんですが……。


「お前、すぐ顔に出る癖どうにかならねぇのか。これが戦闘なら一発で敵に思考がバレてるぞ」

「と、言われましても……」


 なら、自己紹介を願いします。


「ひとまず、着替え中に来たのは謝る。すぐに服を着ろ」

「あ、はい」


 あ、良かった。着替えはしっかりしっ──って!!! なんで下も脱ぐんですかぁぁぁぁあああああ!!!!


 ※


「ひどい目にあった……」

「こっちの台詞です!!!」


 いきなりこの人がズボンまで脱ぎ始めたから、思わず下に落ちてた多分この人の上着を投げつけてしまった。簡単に避けられると思ったんだけど、意外と命中してしまったんだよね。この人、妖裁級だよね? なんで避けなかったんだろう。


「おい、輪廻」

「あ、はい」

「こいつのことはサドと呼んどけ」

「あ、はい。わかりました」

「え? いや、わからないで?」


 サドさんは京夜さんとそんなに仲がいいわけじゃないのかな。二人の関係性がわからない。美輝さんとは親しいってすぐに分かったけど。


「えっと。私の名前は実虹蘭花みにらんか。一応研究員を名乗らせてもらっているよ。君の血を抜いて浄化したかったんだけど、周りにすごい止められてね。仕方がないと諦めていたところに、カモがねぎを持ってやってきてくれたと喜んでいる者さ」

「よろこ……ネギ……あ!!!!」


 そうだ!! この人。私が初めて妖裁堂に入った時、一番優しい微笑みを浮かばせといて、血を抜くとか怖いこと言っていた人だ!


 え、普段こんな人なの? なんか、え?


「お前の言いたいことはわかるが、普段からこいつはこんな感じだぞ。戦闘以外なら自分に興味ないことに関して適当で阿呆で馬鹿でくずだ」

「そ、そこまで言わないでくださいよ京夜さん……。悲しいです」

「自業自得だ」

「心当たりがまるっきりないんですが……」


 仲が悪いというより、幡羅さんが一方的に嫌っているみたいな感じか。過去に何かあったのかな。


「京夜さん、私に何かあったんですか?」

「用もねぇのに来る訳ねぇだろうが。少しは頭を使え」

「すいません……」


 えっと、あの。怒ってもいいんですよ、実虹さん。いや、怒るべきところだ。同じ立場の貴方なら怒っても問題ありませんよ!!


「これについて調べて――……」

「喜んで!!」

「ちけぇ!!!!!」

「ごふ!!」


 …………何が起きたの?


 今、幡羅さんが首飾りを出してお願いしている途中で、実虹さんが幡羅さんの手を掴みかかるように握ったように見えたな。しかも、目を思いっきり輝かせながら……。

 幡羅さんは、目を輝かせている美虹さんを何のためらいもなく横腹に一蹴り。こんなこと、もしかして日常的に繰り広げられていたりする? 


「まったく……。この首飾り、なんか嫌な感じするんだよな。まるで、近くに怨呪がいるような感覚」

「いてて……。たしかに、そんな感じがしますねぇ……」

「だから、何が起きても対処できるようにしておけよ」

「そこはぬかりありませんよ。研究に関しては私、一切手を抜いたりしませんので」


 ――――ゾク


 な、なんか。悪寒が走った。今の、今までの優しい微笑みとは比べ物にならない笑顔。背筋が凍るような感覚。

 やっぱり、この人も妖裁級なんだ。怒らせないようにしないと切られる。


「では、私はこれで失礼しますね。楽しいものをありがとうございます」

「楽しいものねぇ……」


 楽しいものになるのか……。壊されないか心配なんだけど。まじで、壊さないでね?

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