首飾り

第48話 相談

 妖裁級の一人が死んだ。それが妖殺隊のほとんどに広がり、最初こそ落ち着きがなかったが、今ではだいぶ落ち着いてきて、いつもの日常になっている。


 今まで妖裁級が死んだことは何度かあったみたい。私が妖殺隊に入ってからhあ今回のが初めてだけど。


 私は前回の戦闘で、幡羅さんや美輝さんのおかげで怪我をしなくて済み、普通に怨呪退治に向かってる。


 そういえば、最近彰一を見ないな。前までは一日一回は必ず会っていたのに。いや、そんなのは今、考える時じゃないか。


 今は、目の前にいる怨呪を浄化する、これに集中しなければならない。今回のは私一人でも十分倒せるほど弱いし、何とかなる。


「今の私でも……。いや、無理だ。もう一人の私に任せた方がいいかな。逃げ遅れた人もいるし。確実さを考えよう」


 お願い、目の前にいるワニのような形をしている怨呪を倒して。一人も、死なないうちに――……


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 ……最近のあいつ、めんどくせぇな。何を考えてやがる。もう一人の俺のはずなのに、わかんねぇ。


「一人も死なないうちに……か」


 それは無理だろ。まだ、逃げ遅れてる奴らが奥にいる。それに、長屋の中からも人の気配、隠れているらしいな。まぁ、隠れたところで適当に振り回されている怨呪の尾からは逃げられねぇけど。逆に外に出て走っていた方が当たらねぇんじゃねぇの。


 やるしかねぇから、やるけどよ。めんどくせぇな。


 ワニ型の怨呪はそこまで大きくない。一般男性が二人くらいの大きさか。無駄に太く長い尾が厄介そうだが、それさえ気を付ければすぐに終わるな。


 右手で刀を抜き、左手には拳銃。これで準備はできた。

 まずは目を潰すところからだな。そこから体を三等分にして、終わりだ。こんな雑魚、一瞬で終わらせてやるよ。


 黒い目が真正面から走ってきている俺に向く、ちょうどいいな。そのまま瞬きすんじゃねぇぞ。


 バン バン


 キシャァァァァアア!!!


 うしっ!! まずは目を潰す事に成功。暴れているが、知ったことじゃねぇ。尾に気を付けながら上から刀で切ってやるよ。


 ダンッ!!


 上に跳び、重力に従い落下。体を独楽のように回し、三等分に。


「怨みは浄化し、恨みは制圧せよ。我々妖殺隊により、安らかに眠るがいい」


 癒白玉ゆはくだまを斬った直後に投げ、今回の任務は終わり。本当に弱かったな、一人も殺さずに終わったわ。


 でも、なんかすっきりしねぇな。いつもはここで満足なんだけど。それに、なんか。暴れたりねぇ。

 俺が輪廻の体に宿った時みたいな感覚だ。気持ちが収まらない、暴れたい。


「っ、はぁ、はぁ……っ」


 体が熱い。最近はこんな感覚が戦闘後必ず襲ってくる。なんだよこれ。


 暴れたい、刀を振るいたい。





 ――――何でもいい、殺したい





「っ!! くそ、まだ。ねてろよぉ……くそが……」


 入れ替わりたくない。まだ、まだだ。俺は、まだ……。やれる。やり、たりねぇ。くそ、瞼が落ちる……。


 だめだ、もう――……


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「――っかは!!! はぁ、はぁ……」


 なんか、最近。入れ替わるの大変になってきた。なんで? まるで、もう一人の私が入れ替わるのを拒んでいるような。

 何でいきなり。今まで素直に入れ替わってくれてたじゃん。これじゃ、最初の頃に戻ったような気がして、心休まらないよ……。


「…………なんか、気持ち悪い」


 首も痛いし、肩も重い。どんどん体がおかしくなっていく。なんでこんなことになるの。

 彰一に相談したいけど、今どこで何をしているのか分からないし。


「…………あの人なら、聞いてくれるかも」


 でも、心身ともにやられているであろうあの人に相談するのも悪い気がする……。いや、でも……。一人で解決は正直難しいし、辛い。もう一人の私を抑え込むのも最近きつくなってきてるし……。


「っ、一人は、怖いなぁ」


 ごめんなさい、辛いかもしれないのに、今はhh鳥にしてほしいかもしれないのに。でも、どうか、お許しください。


 ※


「んで、それを相談するためにわざわざなぁ」

「療養中にすいません……。幡羅さん」

「別に構わねぇよ。俺の怪我はもう治ってっし、動いてる。ただ、主様が心配性なだけだ」

「いや、でも本当に……」

「人の心配する余裕があんなら一人で解決するか? 俺は構わねぇぞ? ニシシッ」

「すいませんどうか幡羅さんの頭脳をお貸しくださいお願いします」


 妖裁堂にある寮。一部屋一部屋大きくて、廊下も長くて。正直、迷った。けど、途中で妖裁級の一人である梓忌しきさんに出会って幡羅さんの部屋を教えてもらった。それでやっとたどり着き、相談することが出来たんだけど……。


 幡羅さんは今の服が普段着なのかなぁ、深緑色の着物を着てる。緩く着てるから胸筋が見え隠れしているのですが、ご立派ですね。凄い鍛えているのがわかる。でも、ゴリではなく、いい感じに鍛えられた体。


「あれ、幡羅さん」

「あ?」

「包帯、付けなくてもいいんですか?」


 今は包帯を巻いていないみたいだけど、大丈夫なの? 私が見えている部分は全く怪我はないように見えるけど、心配。絶対に数週間で治る怪我じゃなかったし、簡単に塞がる傷でもない。でも、見た感じ本当に治っているようにも見えるし。


 え、回復能力化け物ですか。


「お前に言われたくねぇんだよ怨呪が」

「そういえば、幡羅さんって人の心を常に読める人だった!! すすすす、すいません!!」

「まぁ、どうでもいいわ。お前の疑問に答えてやるよ」

「あ、ありがとうございます」


 良かった、あまり怒っていないみたい。また横腹を殴られるのかと思ったよ。


「まず、俺達転生者は、この世界に生まれ落ちたものと違う存在だってことは理解してんな?」

「あ、はい」

「違いは様々あるが、わかりやすいところを上げると、異能恨力と回復力」


 異能は前に聞いていたけど、回復力も違うの? あ、でももう一人の私は体が真っ二つになっても大丈夫だったし。納得はできるか。


「もう一人のおめぇと一緒にするな。あんな規格外な回復力はおめぇらだけだわ」

「私は回復しません……。間違えても今の私を斬ろうとしないでくださいね?」

「おめぇの回復力には及ばねぇが、俺達転生者は一般人より傷の治りが早い。前の怪我なら一週間程度で完治している」


 私のお願いは簡単に無視なんですね。まぁ、いいんですけど。


「回復能力が高いのなら、なぜ美輝さんは傷を癒すことができなかったんですか?」

「回復能力が高いという言葉でお前は今、おそらくもう一人のお前を想像していると思うが、それとはまた違う」

「違う?」

「あぁ。俺達の回復能力はお前とは違い、傷を塞ぐ細胞が他の奴らより活発といっただけの事。どんな傷を塞ぐためにも、必ず体の中に流れている細胞が動き出す。表皮の細胞や線維芽細胞せんいがさいぼうとかだな。だから、自然治癒が無理だったり、即死レベルの攻撃を食らえば死ぬ。これが当たり前なんだけどなぁ」


 な、るほど? つまり、深く体を切られたとして、自然治癒が可能なレベルだったら一般人より傷の塞がりが早い。でも、命の危機や重傷を受けた場合は回復能力が高くても間に合わないってことか。


「そんな感じだ」

「当たり前のように人の心を読まないでくださいよ」

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