第36話 縦横無尽
「ぼさっとするなお転婆娘!!!」
「――えっ」
勢いのある声と共に目の前には鮮血が飛び散り、キラキラと赤く輝く。地面が赤く染まり、そこに幡羅さんがむき出しの刀を片手に上から落ちてきた……?
え、何が起きたの?
「お前、死ぬ気か? 何をそんなに脅えてんだよ。いつもと同じく入れ替わればいいだろ」
あ、彰一が隣に来てる。全然気づかなかった。
「そ、うなんだけど。なんか、あの目がどうしても気持ち悪くて……。まるで、私の全てを見ているような気がするの。だから、つい……」
今は幡羅さんが上空を自由に駆け回り怨呪の動きを封じているみたいだ。
あのワイヤー銃は、相手の動きを制限するだけでなく自身の移動手段にも利用できるのか。
小柄だからこそ自由自在に動き回ることができるらしく、今の幡羅さんはもう誰にも止められないだろう。
「凄い……」
「言ってる場合かよ。僕達も加勢しよう」
「わ、わかった!!」
幡羅さんなら大丈夫だと思うけど、少しでも力にならないと。これからはあの人と一緒の立場にならなければならないのだから。
「……ごめん。もう一人の私。今は、お願い」
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…………あ? なんか今、反吐が出る言葉をかけられながら浮上したような気がする。
………今考えてたら死ぬなこれ。俺の目の前には巨大な鳥が気持ちわりぃ翼を広げて、チビっ──もとい京夜と戦闘を行っている光景。
うん、死ぬな。思考を放棄しよう。
「………………めんどくせぇ」
「入れ替わったらしいな、なら遠慮しない。さっさとやれ」
「お前、俺のこと嫌いすぎじゃね? 酷すぎるわ」
俺はお前のことどうでもいいからどんな扱いされても平気だから別にいいけどな。
そんなことより、京夜ってあんな動きもできるのか。すげぇ。
ワイヤー銃を片手に持ち、もう片方の手には自身の身の丈に合わない大きな刀。怨呪の周りを縦横無尽に飛び回り、一気に仕留めることが出来ない代わりに、少しずつ削る。なるほど。
怨呪は傷を回復できない。少しずつでも弱らせて最後に仕留めるのが京夜の戦い方か。
「小さいこと気にしている割に、結構活かしてんじゃねぇかよ」
「みたいだな。それより、さっさと僕達も加勢するぞ」
「了解だ」
うしっ。俺も刀と拳銃を手にし、凍冷の準備も完了。
まずは邪魔で気持ち悪い翼を切り落としてぇな。京夜が撹乱している間に切り落とすか。
凍冷を使いまず足を凍らせ、身動きを封じる。それから、刀を使い怨呪の体に刺しながら上まで登るか。
ダンッ!!
地面を思いっきり蹴り、真上に。一度、怨呪の体に刀を刺し周りを飛び回ってる京夜を見て上へと移動。ぶつかると何言われるかわかんねぇしな。
「つーか、ワイヤー一つでここまで普通動き回れるのか?」
刀を刺しながら後ろで縦横無尽に飛び回っている京夜。何とか目で追いつけるが、このスピード。本当に人間か?
ワイヤーと言っても出したり引いたりと、時間のラグがあるはず……。いや、張り巡らせ足場にしている可能性があるな。京夜なら戦闘中にそれが出来る。
怨呪にも結構傷をつけてる。翼の目っぽいものなんて血の涙を流しているように見えんな……。その目が俺に注がれている気がする。
────いや、気がするじゃねぇ。
「俺の事を、見てねぇか?」
バサッ!!!!
────って?! なんで、いきなり暴れだした?! 翼を大きく広げ飛ぼうとしてんじゃねぇよ?! 地団駄やめろ!!!
落ちるだろうがふざけんな!!!
いやいや、まじまじ!!!! 落ちるぅぅぅううう!!!!
「────っあ。ぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
刀が怨呪の体からスポッと抜けただと?!?! 地面に落ちそうになるというか落ちてるんだけどぉぉぉおおおお!!! 誰か俺の手を掴んでくれぇぇええ!!!
「っ、京夜!!!」
「手間かけさせんな!!!」
京夜が俺の手を掴み引き上げてくれた。マジで死ぬかと思ったぞ今回。
いや、まじ助かる。そんな小さな体のどこに人一人持ち上げられるほどの筋力があるかは知らねぇが。
地面に着地をし、今なお暴れている怨呪を見上げてみるが……。
うわぁ、なんだよ。めっちゃ暴れてんじゃん。傷からは血が流れ、暴れる度上から血の雨が………キモ。
その様子を京夜が無表情のまま怨呪を見上げているのが、なにか考えているのか?
「──んあ? 彰一はどこだ?」
「っ!」
いつの間にかいなくなってる? というか、俺の言葉に京夜、今慌てた様子を見せなかったか?
いや、今は京夜より彰一だ。あんにゃろ、俺に丸投げしてバックれやがったのか? ぜってぇ許さねぇ。今度会ったら俺が訓練相手になってやる。輪廻を相手するよりは苦い顔すること間違いなしだなあいつ。絶対に半殺しにしてやる。
「…………ちっ」
「あ?」
なんだ? 京夜また怨呪を見上げて舌打ち。それに、「しまった」みたいな顔を浮かべてんぞ? どういうことだ?
「なぁ、何があったんだ?」
「今は怨呪に集中しろ。予防線が粉砕しそうだ」
「…………え、あ、壊そうとすんなよ?!」
せっかくの氷が壊れそうにヒビが入ってるし。それ出すのも大変なんだぞ?! タダじゃないんだふざけるな!!
「凍れ!!!」
いや、まぁさ。壊れそうなのなら、また凍らせればいいだけなんだけど。本当に、タダじゃねぇのよ。体力使うのよ。
それより、足元を凍らせている時に翼をどうにかしたい。あれはダメだ。俺自身を見ているようで気持ちが悪い。
「体調悪そうだな。今日は本調子ではないか」
「んな事ねぇとは言いきれねぇ。あの翼が気持ち悪い。吐き気がする。あと、あいつの怨みは読み取りたくねぇ」
「読み取る?」
俺は他の奴らとは違ぇと思っていた。怨呪だと、思っていた。
異世界人という話を聞いてから、俺は人間なんじゃないかと思ってしまう時がある。だが、そうなると、なんで俺は目の前にいる怨呪の恨みを読み取れるんだ。
京夜は読み取れてねぇらしいし、異世界人だからという説明は無理。
まぁ、読み取れようが読み取れなかろうが関係ねぇ。今、こいつの怨みはどっちにしろ読み取りたくない。頭の中に入れたくない。
翼に付いているのは柄ではなく、本物の目なのではないか。本当に俺を見ているんじゃないか。吐き気がする。あの目を見ているだけで、思考が止まる。
「……今回は相手が悪かったな。お前を指導するのは次の機会にする。今回は俺達でやってやる。そこから動くんじゃねぇぞ。ニシシッ」
余裕そうに口角を上げながら京夜はワイヤー銃をホルスターに戻し、刀を両手で持ち始めた?
おいおい、上空に行かなければ退治することなんてできないだろ。なのに、なんでワイヤー銃をしまったんだ?
「俺達の相性は悪くないからな。むしろ良い方だ。ニシシッ」
何を言ってんだこいつ。つーか、相性??
「っ?! おまっ──」
後ろからいきなり突風?! 風で髪が舞い上がって視界が……。くそっ、髪切れよ!! 邪魔くっせぇな!!!
「…………って、京夜??」
京夜、どこ行っ────え。
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