第34話 傷
こ、怖いなぁ。やっぱり幡羅さんに一言言えばよかった……。
殴られてもさぁ、調査とか言えばきっと付いてきてくれたと思うし。
まぁ、後悔しても仕方が無い、行くか。いざとなればもう一人の私に変わればいいしね。うん。
さっきから揺れている扉は、私がドアノブを掴むと簡単に止まった。ただ、なにかの衝撃で動いていただけっぽいな。
扉を潜ると、そこはまた部屋。部屋の隣に部屋。そしてまた部屋。豪邸かと思ったけど、また違うのかな? 今考えても意味が無いから無視するけど……。
部屋の中には何もなしか。いや、何も無いわけじゃない。風が上から吹いている。
「上、吹きさらしになってる?」
天井がない。上から私のいるところまで何故か大穴が空いている。まぁ、そのおかげで暗くなく明るい。それでも、怖いものは怖いけど。
とりあえず、なにか居ないかだけでも確認しておこう。
部屋の中にはもう一つ扉があった。また違う部屋に繋がってるのかな?
「っ、結構重たい。錆びてるのかな」
思いっきり扉を押すと、目の前には細い一本道が奥へと続いていた。
これは、一般的な呼び方だと"廊下"かな。
廊下は吹きさらしになってないから少しくらい。苔とかが壁や地面から出て、地面も歪んでいるから気をつけて歩かないと躓いて転んでしまいそうだ。
────カサカサカサ
「ひゃっ?!?! って、殺気?! ────あれ? 誰も、居ない?」
周りを見回しても誰もいない。おかしい。今、横から殺気の含まれた鋭い視線を感じたような気がした。あんなの間違えるはずがない。まさか、恨呪が居るのか? でも、それならなんで姿を現さない。今は私一人、すぐに襲いかかって来てもいいはず。
「っ、あそこか!!!」
廊下の奥から物音、今回は間違いなく聞こえた。でも、奥に人影などは無い。私から距離を取っているのなら、もっと奥に行けば物音の正体がわかるだろうか。
考えても無駄か、走るしかない。
「――――――走っても走っても、閉じられた扉があるだけ」
同じ景色の繰り返し、何か目印とか変わったものとかは無いのか?!
っ、あ! 一つだけ、半開きの扉を発見! しかも、風なんて吹いていないはずなのに、さっきと同じく揺れている。もしかしたら、殺気を送った人物がすぐそばに!?
「逃がさないよ!!」
近づくにつれてこの空間に私以外の足音が聞こえ始めた。速さ的に走っている。
幡羅さんや美輝さんなら足音はここまで大きくないはずだ。
置いていかれないようにその足音をしっかりと聞いて辿らないと。
いくつもの扉や曲がり角があり迷いそうになるな。でも、足音はどんどん近付いている。どこも曲がらず、どこにも入らず。ただひたすらまっすぐ走っているらしい。
「見えたっ!!」
前方に人影発見!! 絶対に逃がさないよ。
地面を凍らせて滑るように移動出来れば今より早くなるが、残念ながらそんな芸当出来ないからなぁー!!! もう一人の私なら出来るかもしれないけど!!
人影はいきなり曲がり角を曲がった。やばい、このままじゃ見失う!
苦手だけど仕方がない。見失う前にホルスターから拳銃を取りだし、恨力を使用し氷の礫を人影に向けて放つ!!
───パン!!
ちっ! 左頬を掠った程度っぽいな。でも、少しは足止めにはなったでしょ!! 絶対に追いついてやる! そのまま曲がり角を曲がった──って……
「──っぶな」
発砲の音なんて聞こえなかったはず。聞こえたのは私が放った時のみ。なのに、なんで私の頬を、何かが掠った? いや、何かじゃない。弾だ。
咄嗟に顔を引っ込めなければ頬だけではすまなかった……。
いや、待てよ。なんで、拳銃を使ってくるの……。やっぱり、今私が追いかけていたのは恨呪の方。怨呪は動物や虫の姿が主だし、拳銃なんて使わない。
落ち着け、気持ちを落ち着かせろ。慌てたところで意味はない。ひとまず、視界を遮断して気配を感じ取ることに集中。肌に刺さる人の気配だけを感じ取る。
「輪廻?」
え、この声って──
曲がり角から姿を現したのは、私を不思議そうに首を傾げながら見下ろしていた彰一。
…………ん?
「あ、彰一?! なななななななななんでこんな所にいるの!?」
思わず彰一の両肩を掴みガクガクと動かしながら聞いてしまったら、頭に強い衝撃が?! いったい!!! なんで今、頭にげんこつを落とされたの?!
「ごほっ、お前は僕を殺す気なのか? 殺す気なのか……」
「滅相もございません──って、そうじゃなくてさ。なんでここにいるの?」
げんこつを落とされた頭を撫でながら尋ねると、何故か顔を逸らし「任務だよ」と、少し弱々しく答えてくれた。
なんで顔を背けたのか、なぜそんなに弱々しいのか。理解ができない。任務なのなら堂々といつも通りにすればいい。それなのになんでだろうか。
「ねぇ、なん──あれ?」
ん? 彰一の左目から血が少し流れている? 目にかかるくらいの長さで切りそろえられている前髪で隠れてしまっているからよく見えない。額とかを切ってしまったのかな。
「彰一、左目怪我してるの? それか額を切っちゃった?」
「っ!?」
────バチン!!
「……え?」
髪を搔き上げようと手を伸ばした時、なぜか彰一は異常なほど敏感に反応し体を後ろへと逸らしてしまった。
え、なんでそんなに嫌がるの? それに、なんか、焦ってる?? 顔色も悪いし。それ、体調を疑うレベルだよ。いきなり、どうしたの彰一……。
「もしかして、体調悪い? もしそうなら今すぐ帰った方がいいよ。ここは私だけじゃなくて、妖裁級が二人もいるから必ず浄化できると思うし」
「そうか、なら──二人?」
ん? 私、何か間違ったこと言ったかな。まぁ、正確に言えば三人の妖裁級なんだけど、私を頭数に入れてはダメな気がするし……。
それに、私が妖裁級に入ったことなんて彰一は知らないはず。何故そこに目をつけたのか。
「妖裁級って誰が来てるんだ?」
「えっとねぇ。一人は彰一も話したことある人だよ。幡羅京夜さん」
「幡羅さんか。もう一人は?」
「もう一人はみっ──いたたたたたたたたた!!!!!」
私が美輝さんの名前を言おうとしたとき、なぜか後ろから思いっきり髪の毛を引っ張られましたものすごく痛いというか抜ける抜ける抜けるぅぅぅうううう!!!!
一体誰だよくそ!! その顔を涙で歪んでいる視界で見てや──誰もいない?!
「おおおおおおおお化けに髪の毛が引っ張られてるぅぅぅううう!!!」
「誰がお化けだお転婆娘」
…………あ、下から不機嫌丸出しの声が。はい、あの。私、死にました。
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