第28話 苦手
やっと解放された。ひとまず俺のまま妖雲堂に帰っているんだが。何で隣にポケットに両手を入れて、ヤンキーみたく歩いている餓鬼、京夜がいんだよ。一人でも俺は大丈夫だっての。
「一人で帰れんだけど」
「見張りだ」
「へいへい」
なんか、京夜と歩いていると………
「弟──って!!! 殴んじゃねぇわ!!!」
「うぜぇ言葉が聞こえたからだ。つーか、俺の方が年上だからな」
俺が「弟みたい」と言おうとしたら、脛を蹴りやがった!!
めちゃくそいてぇんだけど。いや、痛くはないが痛みを感じるような衝撃だった、よし殺す。威勢だけは負けねぇぞ。
「お前、いくつだよ……」
「言葉に気をつけろ。ちなみに俺は二十七だ」
にじゅう、なな??
「すぐ分かる嘘は意味ねぇと思うが──ごふ」
「今すぐ殺されてぇらしいなてめぇ」
いや、言葉の前にまず刀が俺の横腹貫通してんだけど。
周りに人がいなくて良かったなてめぇ……。
って、ツッコミが激しすぎるだろ!!!! 俺じゃなかったら死んで──俺だからやったのか。当たり前か、糞が。
「アグレッシブすぎる……」
「つーか。お前、言葉に気を付けろよ。この異世界は、俺達が元居た世界で言うと、おそらく江戸時代に近い。まぁ、異世界だからあまり関係ないと思うが」
俺の横腹に刺さった刀を抜き取りながら説明すんなよ。頭に入ってこねぇわ。何事も無かったかのように、歩き出すな。こっちは傷を治すのに体力を使ってんのによ。
ん? あぁ、そうか。時々言葉が通じなかったのはそういう事か。
彰一や他の奴らは異世界人だから、俺の言葉が分からない時があったってことか。納得だわ。
────ん? 待てよ。
「彰一は転生者じゃねぇの?」
「あいつはグレーだな」
「なんだそれ」
グレーって、中途半端ってことか? 転生に中途半端ってあるのか?
「あいつについては話し合っている途中だ、お前が気にすることじゃねぇ。あと、今日のことは誰にも言うな。内密にしろ、いいな」
「言わねぇわ。それより、なんて言う気だよ。俺の階級について」
俺は今日から中級から妖裁級に昇格したぜすごいだろ、とか言えばいいのか? いや、これを昇格と言っていいのか謎だがな。
「そうだな。実力が糞のお前が妖裁級に飛び級だから、なにか考えねぇとならんな」
はっきり言いすぎだろ。さすがの俺も心にぐさって何かが刺さったんだが……。
あ? 後ろから甘ったるい匂い……。胸焼けしそうになる気持ち悪い声。もう、誰だかわかるなキモイ。
「京夜ぁ〜。ここからは私が変わるよぉ〜。主様と話し合いがあるでしょぉ〜。早く戻ってぇ〜」
後ろから来ていたのは妖裁級の一人、
あ、そういえば。
「お前らも転生者なら、恨力があるってことだよな。何できるんだ?」
…………ん? いや。おい、すぐに答えられるだろ。なぜお互い顔を見合わせる。
「それは多分すぐ分かると思うよぉ〜? それよりぃ〜、京夜、戻ってねぇ〜。あとは任せてぇ〜」
微笑みながら言う和音に、京夜は小さく頷き来た道を何も言わずに戻っていきやがった。一言もなしかい。いや、いいんだけどよ……。
「話し合いって、お前じゃダメなんか?」
話し合いなら誰でもいいような気がするけどな。って、ヘラヘラした笑みを俺に向けんなや。気持ち悪い顔を晒すな。
「私は考えるの苦手だしぃ〜。妖裁級の中でぇ〜、京夜が一番頭がいいからねぇ〜。あぁ、でもぉ〜。静夜も居るからぁ〜、一番ではないかなぁ〜」
もう少し普通に話せねぇのかよ、ウザイ。
「頭いいのか、あのチビ」
「すごく頭いいよぉ〜」
そのまま俺の隣を通り過ぎ、歩きだしてしまった。とりあえずついていくしかないな。
「つーか、静夜って……聞いたことあんな。誰だったっけ」
「覚えてなぁい? 貴方が京夜と初めてやりあった時ぃ~、最後止めてくれたでしょぉ~??」
…………あ、あの時の優男か。へぇ、あいつも頭いいのか。あいつの場合は納得できるな。京夜よりは……。
あいつが頭がいいなんて、思えねぇよ。直ぐに暴力振るうし、刀を刺すし。頭が良いなら使えよ。その自慢の頭脳をよ。
「信じられねぇ」
「京夜は普段頭を使わないからねぇ〜。でもぉ〜、本当に頭いいよぉ〜?」
「ふーん」
あいつが頭良かろうと悪かろうと、俺には関係ねぇけどな。
「──おい、この気配。もしかしてどこかに怨呪が現れたんじゃ……」
「あ、やっと気付いたぁ〜? 遅いねぇ〜」
はぁ? え、まさかこの女。
「気付いてたのか?」
「うん。京夜に会ってすぐかなぁ〜。でもぉ〜、小さかったしぃ〜、すぐに行かなくても大丈夫かなぁ〜って思ってぇ〜」
このクズ女!!! せっかく気持ちよく戦えるほどの怨呪が現れたというのに無視するつもりだったのか!? 思いっきり暴れさせろよ俺に!!
「ふざけてんのかよ!! さっさと行くぞ!!」
怨配は俺達の後ろからか。来た道を戻る必要があるな。ちっ、めんどくせぇ!!
京夜に刺された腹は治ったし、全速力で走るか。
……いや、なんで和音はヘラヘラと笑いながら俺の隣を付いてくるんだよ。余裕かよ、くそ。
「おめぇの恨力はなんだよ」
「この戦闘で見せてあげるよぉ〜」
戦闘で見せるという事は、それに向いた恨力って事か。それは、少し楽しみでもあるな。
おっ、遠くの方に大きな化け物が暴れているのが見えてきた。
「今回は虫らしいな」
しかも、あの虫ってムカ──
「ムムムムムムムムカデェェエエエ?????」
えっ、いきなり叫ぶなよ。いつもの余裕はどしたん? どこいった?
「あ……。何してんだおまえ」
何後ろで顔を青くして怨呪を見てやがる。顔面蒼白だぞ。もう一回怨呪を見るが、そんなに怖くないぞ?
大きな蛇に何百本の足が生えている。頭の方には目は見えないが大きな口があり、そこからは鋭い牙が見え狙いを定めている。
「でも、まだ生まれたばかりっぽいから、お前だったら一瞬で──」
再度後ろを向くが、さっきと変わらず顔を青くしてその場に立ち尽くしている和音。いや、なにやってんだよ。
「………何してんだ?」
俺の質問でようやく意識が戻ったか。冷や汗を流しながら引きつった顔を浮かべるなよ。何かを誤魔化すように咳払いって、なんなんだよ。
「コホン。えっと、今回は貴方に譲るわぁ〜。頑張ってねぇ〜」
「────は?」
え、なんだそれ。どういうことだ。
……ムカデ?
「虫、ダメなのかお前?」
────ビクッ
あ、今肩を震わせたな。
「今までどうしてたんだよ」
「鈴里……が、タオシテクレタ」
あの女は虫大丈夫なのか。ちっ、仕方がねぇな。
「倒せるなんて言ってねぇからな」
とりあえず。今回は俺が倒さねえとならんらしいな。よし、準備はできてる。行くか。
ムカデ――じゃなくて、怨呪の元に。
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