第168話 予想もしていなかった展開

「……その反応は、もう入れ替わったんだな」

「いやいや、何で普通に会話に入って来てるの!? 分けわかんないんだけど!」


 するとルークが私に変装しているマリアの方を見つめる。


「おいマリア、もしかして話してないのか?」


 それを聞いたマリアは、そ~と目線を逸らしていきそっぽで舌を軽く出した。


「どう言う事なのマリア?」

「はぁ~……お前を信じた俺が馬鹿だった」


 ルークは片手で頭を抱えると、マリアが私の方を向いて軽く咳ばらいをした。


「こほぉん。アリスお嬢様、言い忘れましたが、ルーク様には入れ替わってアリスお嬢様が連れて行かれたあの日の直後、出会っているのです」

「え、私がメイナとジェイミに連れて行かれたあの日?」


 マリアが軽く頷くと、ルークも「そうだ」と答えて来た。

 あの日、私が連れて行かれた後にマリアが、クリスとして1日なり変わろうとしてくれた直後にルークがあの場にやって来たらしい。

 そこでマリアは私であると信じ込ませる為に、クリスとして振る舞ったそうだがルークにすぐに見破られてしまったのだとマリアは語る。

 それを語る時のマリアは、どこかルークの方を見ながらニヤついており、ルークは何故か顔をそっぽに向けていたが少し耳が赤くなっていた。

 ん? どうしてそんな反応をするんだ?

 私は少し首を傾げていると、マリアがそっと小声で話し掛けて来た。


「要するにルーク様は、アリスお嬢様の癖が分かると言う事です」

「な、なるほど……ちょっと怖いなルーク……」


 ルークは私の言葉を聞いた直後、硬直した様に全く動かなかった。

 あれ、何か私変な事言った?


「アリスお嬢様、それが普通の反応だと思いますよ。私も同じことを言いましたので」

「そ、そう?」


 するとマリアがルークの方に近付いて行き何か小声で話し掛けた。


「執着し過ぎると嫌われますよ、ルーク様」

「う、うっせ! 分かってるわ! あれはお前が偽者だと言う理由を言えっていうから答えてだけで」

「はいはい。アリスお嬢様には、詳しく言わないであげてるんですから、勝手に墓穴を掘らないで下さいよルーク様」

「お前な!」


 とルークが振り返りながらマリアに何かを言おうとしたが、既にマリアは私の方へと戻って来ていたので、ルークは言いかけた言葉を止めた。


「と、とにかく。もう終わったならここから出たらどうだ? いつまでも茂みにいたら、逆に怪しまれる」

「確かに、ルークの言う通りかも。マリアも一度出るで大丈夫だよね」

「はい。私の方は問題ありません、アリスお嬢様」


 マリアからの言葉も聞いて、私は一度茂みから出る事に決めルークたちと表通りの方へと歩いて行く。

 その中で私はルークにトウマの事を訊ねた。


「ねぇ、ルーク」

「何だ?」

「えっと、その、トウマの事なんだけど……」


 と、私が少し言い出しずらそうに切り出すと、ルークは私が話そうとした時に被せる様に話し出した。


「知ってるぞ。俺も、あのラーウェンって奴から今日の昼に聞かされた」

「えっ」

「だからお前が聞こうとしている事も何となく分かる……と思う。それに関して俺が言えることは、それがなんだっていう事だけだ」

「ルーク」

「お前だって知ってるだろ、俺とトウマは大喧嘩した仲だぞ。今更、そんな過去の事で関係を切る訳ないし、あんなお節介野郎にもそう言う過去があるのだと知って、安心した位だ。ただ普通に過ごして来たら、俺にあんなお節介出来る訳ないからな」


 ルークの答えに、私は小さく笑ってしまう。


「何で笑うんだよ」

「ごめん。ただ、さすが親友だなって思ってさ。安心しただけ。それに私も、トウマの過去がなんだろうが変わるつもりはないから!」

「そんな宣言しなくても、知ってるよ」


 私はそんなルークの返答に「なんだよその言い方」と笑いながら軽く肩に拳を突き出した。

 ルークはと言うと「殴る事はないだろう」と軽く言いつつ、小さく笑っていた。

 そんな事をしていると、茂みから出て表通りへと私たちは戻って来ていた。


「さて、それでは私はそろそろこの辺で失礼します」

「マリ……じゃなくて、姉さん。もう行っちゃうの?」

「はい。トウマの事も伝えましたし、後はお2人がトウマとどう向き合うか、だと思いますので。それに、私は明日の競技もありますし」

「そうか。アリスは明日の代表者だったな。でも、残念だ。本当のアリスの力が他の学院相手に、どれほどの物か見れるいい機会だと思ったんだけどな。いいのか、クリス?」

「いやいや、だって代表者になったのは俺じゃなくて、アリスなんだし。そんな事言われても、実力に見合わない人が出たら、ほら、あれじゃん……申し訳ないじゃん……」

「確かにそう言う面もありますが、実際の所私はクリスの今の実力に合わせた力を出して勝ち取った代表者であるので、問題はないのですよ。それよりも一番は、入れ替わっている事がバレる事ですね。クリスも分かっているとは思いますが」

「……」


 マリアの発言に、私は少し驚きもしたが黙ったまま何もいう事はしなかった。

 確かにマリアの言う通り、入れ替わっている事がバレれば一大事ではあるが、今更私が代表者として出るのは、例え私の実力に合わせた力で勝ち取ったものだとしてもまた違うことだとも思うし、一番は自分にそこまでの自信が持てなかったのである。

 どの学院でも代表者になる為に、何人とも戦い最終的に勝ち残った人が出る舞台に、いきなり私が横から入れ替わって出るのはずるいのではないかと考えてしまい、ならこのままマリアが私として出た方が一番いい選択と思っていたのだ。


「……まぁ、これもクリスなりに考えてだした結論ですので、私はそれに従いますよ。でも、出るからには勝ちに行きますよ。学院を背負っているので」

「あははは……それは当然の事だね。……でも、やり過ぎないでね」


 私の少し乾いた笑いを聞いたルークは、小さくため息をついた。

 そしてそのままマリアと別れてルークと学院へと帰ろうとした時だった。


「あら? もしかしてルーク様? それにクリスに……確かアリスでしたか? クリスの姉の」


 そこへ突然声を掛けて来たのは、ジュリルであった。

 更にジュリルの後ろには、ウィルとマートルも一緒にいた。


「ジュリル!?」

「ルーク様、どうしてこんな茂み近くで3人と一緒に……もしや! 密談ですか?」

「(変にジュリルって勘がいいんだよな……さて、どうするか)」


 と、ルークがチラッとマリアの方を向くと、マリアは何か思いついたのか少し悪い顔をしておりルークの方を見て不敵に微笑む。


「(? おいおい、何するつもりだ?)」


 その直後、私に扮したマリアが突然ルークの腕に掴みかった。


「ごめんなさい。少し込み入った話をルーク様に聞いていたんです。2人きりで。でも、そこにクリスが割って入って来てしまって」

「えっ」

「はぁ?」

「へぇ?」


 ルーク、私、ジュリルがそれぞれ驚いた反応すると、ジュリルの後ろに居たウィルは言葉を失った様に口を開きっぱであった。

 その直後、私はルークとその腕にくっ付くマリアに向かって大きな声を張り上げた。


「はぁーーー!?」

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