第160話 入れ替わりそして元に戻る

 あっ……しまった。

 今私、素の状態のままだったんだ……

 私は勝手に頭の中で、マリアが私であると思い込んでいた為、メイナが腕を掴んで来た事に驚いてしまったが、それはメイナからすれば普通の事であると理解していた。


「それでアリス、隣の人は?」

「えっ……あ~こっちはマリア。私の執事」


 メイナにマリアを紹介すると、マリアは礼儀正しくお辞儀をし挨拶をする。

 それを聞くとメイナは一度私の腕を離して、自分も礼儀正しく挨拶をするのだった。


「と言うか、何でこんな所にメイナがいるの?」

「それはこっちのセリフ何だけど、アリス」


 メイナはそう言って、呆れた様なため息をつく。

 今更だが、彼女の名前はメイナ・ジュナー。

 私が元? いや今はマリアが私として通っているクレイス魔法学院での同級生で数少ない友達と言える相手である。

 髪型はショートカットヘアーで、学院生服の襟元裏に猫のバッチを密かに付けているのが特徴である。

 言いたい事ははっきりと言うタイプであり、たまに本の虫になりがちな私に対して強引に外へと出そうとする所があるが、動物好きで特に猫が好きな女の子だ。


「いや~久しぶりに会ったけど、全然変わってないねメイナは」

「? 何言ってるのあんた? いつも学院で会ってるのに、何でそんな事言うの? 何か今日変じゃないアリス?」

「えっ……あはははは……ジョークだよジョーク、こんな所で会うとは思ってなかったからビックリしてるんだよ~」


 私は引きつった笑顔で、自分の墓穴を何とかカバーしメイナからの疑いの視線をかわす。

 あっぶな~い……普通に接するだけでボロが出て私がこの半年間一緒にいなかった事が普通にバレる。

 いや正確にはマリアが私として居たんだけど、マリア自身が私としてどう振る舞っていたかまでは正確には知らないからな……

 とりあえず、ここは一旦マリアと一緒に離れてマリアに私に変装してもらうのが安全だな。

 私はすぐさまそう思い付き、マリアの方を向くとそれにマリアも既にそう思っていたのか軽く頷いて来た。

 流石マリア! 分かってる! そうとなれば、とりあえずメイナをどうまくかだね。


「ねぇ、メイナ。私もう少しマリアと――」


 と私がメイナに話し掛けた直後だった。


「おいメイナ、勝手にどこかに行くなよ。私までサボってる様に見られるだろ」

「えっ……ジェイミ」

「ん? あー居た、アリス。探してたんだぞ」


 そこに続いて現れたのは、メイナと同じ学院生服を着たジェイミであった。

 彼女もメイナ同様、クレイス魔法学院での数少ない友達である。

 ジェイミ・スアンは、すらっとした体系で身長も私より少し高く、髪はセミロングの長さで後ろで少し目が細かくなっている三つ編みで1本にして、いつも左肩から前に出している。

 また眼鏡をしているのも特徴で、レンズが横長の長方形になっており知的に見えるシャープな物を使っているので、雰囲気から少しきつそうな事を言いそうと思われているが、そんな事は滅多に言わない。

 普通に小さいぬいぐるみ好きや私やメイナとも話が合うので、外見で少し損をしているタイプである。


「ジェイミ、アリスってばこんな所に居たんだよ。あっ、お隣の人はアリスの執事さんだよ」

「どうも初めまして、ジェイミと言います」

「アリスお嬢様の執事で、マリアと申します」


 2人が挨拶をしている間、私は頭をフル回転させこの状況からどうやって切り抜けるかを考えていた。

 まさか、ジェイミまで来るなんて予想外過ぎる。

 さすがに適当な嘘を言って2人をまくのは厳しいよな……いや待てよ、冷静に考えて見れば別に嘘付かなくても、マリアと2人きりになりたいからと言えば2人も分かってくれるじゃん! そうじゃん! 何だ、私少し難しく考え過ぎていたんだ。

 何かこの半年間、どうやって自分の正体を隠す事ばかり考えていたから、思考がそっちよりになっていたのかもな。

 よし、そうと決まれば気は楽なもんだな。

 私は安心しきって緩んだ表情で、メイナとジェイミに話し掛けようとすると、何故か思い出したかの様に2人は腕に付けて時計を見て2人して顔を見合わせていた。


「? どうしたの2人共? 時計なんて見て」

「アリスこそ、どうしてそんなに緩んだ表情でいられるのよ! あんた今日何をするか覚えてるの?」

「今日?」

「メイナ、アリスへの文句は後だ! まだこっから全力で戻れば、時間には間に合うはずだ。執事のマリアさんには申し訳ないですが、アリスを連れて行かせてもらいますね」


 すると2人が一斉に私の両腕を掴んだ。


「ちょ、ちょっと待って2人共! 何があるのよ?」

「何で覚えてないのよアリス! 今日は夕方からマーガレット先輩主催の決起集会をするって、言われたでしょ!」

「えっ!? マーガレット先輩の!?」


 私は咄嗟にマリアの方を向くと、マリアは今思い出したかの様な表情をしていた。

 う、嘘でしょー……

 私はその人の名前を聞いただけで、一気に血の気が引いた。

 マーガレットと言うのは、王都メルト魔法学院で言う所のエリスの様な立場の人で約束を破る人にはきついお叱りをする事で有名な先輩であるのだ。


「分かるでしょ、遅れたらどんな目に遭うか……想像しただけで、面倒臭いんだからさっさと行くよ!」

「いや、でも、ちょっとまっ――」


 私の事は耳を傾けず2人は私を勢いよく引っ張って走り出し、私は掴まれている為ほとんど抵抗できずに連れて行かれてしまう。


「マリアー!」

「話していた所すいません! アリス借りて行きまーす!」

「アリスが居ないと、私たちまで大変な目に遭ってしまうので!」


 そう去り際にマリアに対して言葉を残し、その場から立ち去って行くのだった。

 そしてマリアは、それをただ見つめているだけで完全にいなくなってからマリアは口を開く。


「そう言えば、そんな事言っていましたね。アリスお嬢様の事が気になって、聞き逃していました。でも、困った事になりましたね。アリスお嬢様事クリスがこのまま帰らないとなると、オービン様たちが騒ぎ立てませんね。さて、どうしたものか……」


 そう淡々とマリアは口に出し、暫く考えた後答えを出す。


「……今日だけは私がクリスを演じ、明日アリスお嬢様と再度入れ替われば問題ないですね。たまにはアリスお嬢様も、昔のご友人たちと過ごすのも悪くないと思いますし、大丈夫でしょう……たぶん」


 するとマリアは一瞬で、クリスへと変装し終えた。


「ふむ、意外と男装も悪くありませんね。いや、悪くないな。口調も気をつけないとな」

「ん? クリス?」


 そう突然背後から呼ばれたので、マリア事クリスが振り返るとそこに居たのはルークであった。

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