第149話 雷獣

「俺を誰かと勘違いしてるんじゃないのか?」

「……」


 ルークからのまさかの返答にレオンは愕然とし言葉を失っていた。


「俺は昔お前にあった事はないし、そんな記憶はないぞ。そもそも7年前なんて、ほとんど城にいた記憶しかないな」

「……るな」

「?」

「ふざけるな! あの日あの時あの場所に居たのは、お前だろうがルーク! それを白々しくも覚えてないだと? もくもそんな事が言えるな!」

「言えるもなにも、俺にはそんな記憶がないと言ってるんだ」

「とぼけやがって……僕の両親を殺しておいて何もなかった事にしてたなんて、お前は外道だな」

「はぁ? 外道? おいレオン、俺は記憶にないと言ってるだろ。俺の話も聞かずにお前が勝手に話を進めているだけだろ」

「もういい、十分だ!」


 レオンは俯きながら片腕を真横に振り、ルークとの会話を一方的に拒絶した。

 この時レオンは既にルークに対しての怒りが抑えきれなくなっていた。


「(ルーク・クリバンス。お前がそんな答えをするとは思ってなかったよ……僕はただ真実が聞きたかっただけなのに、記憶がないだと? ふざけるなよ、そんなわけないだろうが!)」


 力強く歯を食いしばり、爪が食い込むくらいの力で両手を握り締めるレオン。

 そしてゆっくりと俯いていた顔を上げ、ルークを睨みつける。

 その顔は憎悪に満ちた顔で、ルークもそんな気持ちをレオンから向けられている事に驚く。


「(何なんだよ、勝手に話を進めて勝手に思い込んで、最終的に俺が人殺しで復讐する対象ってか? 分けわからん……それにもうあの感じは、俺が何言っても無駄なんだろうな)」


 ルークはレオンから向けられる感情から弁明する意味はなく、このまま戦わなければならないと悟り、戦闘態勢をとる。

 するとレオンの両手から魔力があふれ出し、魔力を炎が揺らめく様に纏った。


「ルーク、僕はお前を許さない。覚えていないと白を切るなら、それを思い出せてやる……力尽くで! そしてお前の口からあの日の真実を聞くまでだ! どうしてあんな事をしたのか、どうして僕の両親まで殺す必要があったのかを!」


 そしてレオンはルークへと突っ込んで行くような態勢をとったので、ルークは身構えた直後レオンは勢いよく両手を地面に付けた。


「っ!?」

「飛べ」


 次の瞬間、ルークの足元の地面が勢いよくせり上がりルークは宙へと放り投げられてしまう。


「(しまった、あの動作はフェイクか……)」


 観客たちは今まで見ていた所とは別の所から突然ルークが飛び上がって来たので、驚いていた。

 そして同時に観客たちが今まで見ていたルークとレオンの戦いは煙の様に消え、本当のルークとレオンの姿が観客たちの目にさらされた。

 だが2人には全く関係のない事であり、ルークは放りだされた宙で地面にいるレオン目掛けて両手を突き出し構えた。


「『サンダーストライク』!」


 ルークが放った魔法は一直線にレオンに向かい直撃したと思われたが、そのレオンは煙の様に消えてなくなった。


「あれは蜃気楼で作った僕だよ」

「!?」


 そこ声はルークの背後から聞こえ、すぐさま振り返るルークであったが背後からレオンの『バースト』で地面へと吹き飛ばされてしまう。

 勢いよく地面へと叩きつけられたルークであったが、寸前に風をクッションにした事で衝撃を少し和らげていた。

 だが、完全に防げたわけではなかった。


「(大運動会の時に見せた蜃気楼を俺を宙へと放った後に展開し、そのまま同時に宙へと自分を投げ飛ばしたって所か……)」


 ルークは片膝を付きつつ、立ち上がりながらレオンの行動を推測していた。


「そんな考えている暇があるんなんて、まだまだ余裕そうだな」


 再びレオンの声がルークの背後から聞こえたが、既にレオンはルーク目掛け右手を振りかぶり殴り掛かっていた。

 しかしレオンの拳はルークへと届く寸前に、何かにぶち当たり止まってしまう。


「?」

「そう何度も背後からの攻撃を受けるかよ」

「見えない壁? ……いや、魔力で作った風の盾か」


 レオンはすぐさまルークが展開した風の盾の正体を見破り、一度ルークと距離をとった。

 その間にルークは立ち上がりレオンの方を向く。

 するとルークは、右手の人差し指と中指のみを立て銃の様に構えそれをレオンへと向ける。

 その手を左手で抑える様にする。

 レオンはルークの行動を見て何かしようとしていると感じ、同時に両手の魔力を使い目の前に魔力の塊を創りだした。

 それをレオンは魔力制御により形を変化させ、ライオンを作り上げる。

 直後、そのライオンの全身が雷を放出し雄叫びを上げる。


「『雷獣』」


 するとレオンはそのライオンをゴーレムを操る様に指示を出し、ルークへと突っ込ませた。

 一方ルークは、レオンに向けた2本指に5センチ程の魔力球体が出来上がっていた。


「面白い事をするな。だが、俺も負けてないぞ」


 そうルークが呟くと、その球体を迫って来るライオン目掛けて撃ち放った。

 すると放たれた球体がライオンの目の前で弾き割れ、中から炎の龍と氷の龍が勢いよく飛び出て来てライオンに食らいつき、そのまま押し返しレオン目掛けて突っ込んで行く。


「何!?」


 直後レオン付近で大きな爆発が起こる。

 暫くして爆発の煙が晴れると、その中から壁に囲われている所が現れる。

 すると壁が崩れて行き、中にレオンが居たがその場で片膝を付いた。


「はぁ……はぁ……何だあの威力は……くっそ……」


 レオンがルークの方を見ると、ルークは何食わぬ顔で立っていた。


「勝負ありだな、レオン」

「っう! まだだ! まだ僕はやれる!」


 そう言ってレオンは立ち上がり、前へと歩き出す。


「まだ終了の合図は鳴っていない」

「……」


 だがルークは戦を続ける意思はないのか、構えようとはしない。


「何している? 構えろルーク!」

「そんな状態で何が出来るレオン? 先程の攻撃で魔力をほとんど使い果たしただろ?」

「そんなわけない! まだ僕には魔力が……!?」


 レオンは自分でも理解できてないうちに、ほとんどの魔力を使っており先程まで両手から溢れ出ていた魔力がない事に気付き、体内にもほとんど残っていないと理解した。

 今まで怒りに任せ大きく魔力消費をしており、『雷獣』の魔法を使った際に自信の魔力をほぼ使っていたのだった。


「(くそ、こんなはずじゃ……)」

「自分の感情に従い戦った結果だろう。怒りは人を狂わせ、見失わせる……俺はそれをよく知っている」

「魔力がないからなんだ、魔法が使えないから戦えない? 違う、なら自らの体で戦えばいいだけだ!」

 レオンは勢いよくルークへと走り出し、右手を振りかぶり突き出すもルークはその拳を左手で受け止めた。

「っ!」

「分かったろ、今のお前は筋力さえ落ちて俺に簡単に受け止められる力しかないんだ」

「違う!」


 そう言って左手で殴り掛かるも、ルークにそれも受け止められてしまう。


「いい加減受け入れろ! お前の負けだレオン」

「まだ僕は負けてな……ぐっふ!」


 直後レオンの腹部にルークの蹴りがめり込み、蹴り飛ばされる。


「レオン、お前がどうして俺を憎むか知らんが、この勝負はもうおしまいだ」

「ぐっ……まだ……まだだ!」


 そう言ってレオンがまだ立ち上がり、戦闘の意思を見せるも直後、試合終了の合図が会場に鳴り響いたのだった。

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