第133話 アバン・フォークロス

「その服装、お前王国軍だがまだ訓練兵だな。そんな奴が何でこんな所にいる?」


 ロバートはルークから手を離し、アバンの方へと体を向ける。

 アバンはロバートからの問いかけに素直に答え、サストたちと攫われたオービンともう1人を連れ戻しに来たと嘘なく答えた。

 それにロバートは眉が少しだけ動く。

 その理由は、何故そこまで答えるのかと言う事に疑問を持った為だった。

 基本、王国軍所属する者は任務の事を相手にそう簡単に話すべきではないと教育されており、訓練兵なら尚更の事であるとロバートは知っていたからであった。


「(何だこいつは? 本当に王国軍兵か? まぁ、それはどうでもいい事か。ただ邪魔者が増えただけだ)」


 ロバートはアバンを冷徹な目で睨み、威圧するもアバンはロバートの目をそのまま見つめずに、周囲の状況を確認しロバートへと視線を戻した。


「これはあんたがやったのか?」

「何故そんな事を聞く?」

「大切な事だからさ。で、あんたがやったのか?」


 ロバートは少し間をとってからアバンの問いかけに「私がやった」と答えた。

 アバンはその答えを聞き、更に問いかけた。


「それじゃ、俺の妹を傷つけたのもお前か?」

「妹?」


 ロバートは一瞬首をひねりルークたちの方に視線を向けそれぞれを見た後、誰の事かを把握した。

 この時点までロバートは、クリスが女性である事を忘れていた事に気付く。

 事前にバベッチから器にする相手の事は、多少の情報を受け取っていたものの、あまり頭には入れていなかったのだった。


「なるほど。お前はあの男装妹を助けに来た兄と言う事か」

「俺が聞いているのは、お前が妹を傷つけたかだけだ」

「ふっ……兄妹愛か? それとも家族愛と言う奴か? 昔、似たような状況で私に今のお前と同じ様な事を聞いて来た奴がいた事を思い出したよ」

「お前の昔話なんて、どうでもいいからさっさと俺の質問に答えろ。それとも教えてもらってないのか? 質問されたら答えるのが会話だと」

「お前こそ、目上の人を思いやるというのはないのか?」


 その返しにアバンは小さくため息をつき、視線をルークへと変えて話し掛ける。


「ルーク、お前さっきトウマに向けて魔法を放ったよな。もしかしてそれを俺の妹に放とうとしていたわけじゃないだろうな?」

「……これは……」

「操られて仕方なくか? 自分勝手にここまで乗り込んで来ておいて、そんな言い訳で殺した相手の家族に説明するのか?」

「っ……」


 ルークはそのまま俯いてしまうと、ロバートが口をはさんで来た。


「おいおい、やけに当たりがきついじゃないか。助けに来たんじゃないのか?」

「俺は妹を助けに来ただけだ。その男がどうなろうと知った事か。今の俺は王国軍兵としてではなく、ただ一個人としてここに立っているんだからな」


 アバンの答えにロバートは最初に抱いた疑問が晴れ、納得し「なるほど」と呟いていた。

 直後アバンが軽く片足を上げ、勢いよく地面へと踏みつける動作をすると、ルークたちの拘束されいている壁が一気に崩れ去り、ルークたちは地面へと倒れる。

 そして目隠しされていた2人は何が起きていたか理解出来ずにいたが、アバンの存在に気付き目を見開く。


「お兄ちゃん!?」

「アリス、怪我は?」

「だ、大丈夫……ちょっと蹴られて血が出たくらい」

「っ!」


 それを聞きアバンの表情が強張る。

 そしてアバンはロバートの方を向き、右腕を左に突き出し勢いよく右へとスライドさせると『ガスト』の魔法をルークにかけトウマの方へと吹き飛ばした。


「邪魔だルーク。そこでじっとしていろ」

「急に怖い顔して、どうしたのかな?」


 ロバートは一瞬で3人の拘束を解いた事には少し驚いていたが、現在は冷静な表情でアバンの方を見つめていた。


「もう一度、聞く。お前が俺の妹に傷を負わせたのか?」

「しつこい奴だ……そうだ。私が顔を蹴り飛ばした」


 とロバートか答えた直後だった。

 一瞬でロバートは体の身動きが取れなくなり、何かロープの様な物で体を拘束された様な状態に陥る。

 更には、地面から2本の土柱が両手首目掛けて飛び出て来て両手に巻き付き、そこで土柱が鎖へと造形されそこに『メタル』の魔法で鎖が鋼へとコーティングされる。

 そしてロバートが口を開こうとした時だった、背後からも手首の拘束具と同様の物が口周りから首へとかけて行われる。


「もうお前がしゃべる必要はない。お前は俺の愛しい妹を傷つけた。それが一番の罪だ」


 そう言ってアバンがロバートへと近付こうとした時だった。

 ロバートは少し俯いた状態から、一気に顔を上げてアバンを見つめると、アバンはロバートの両目の異変に気付く。

 その直後、ロバートを拘束していた全ての物が解除されてしまう。


「その目、特殊体質か」

「いいや。これは魔道具だ。目に薄い膜を張れる道具に特殊な魔法を込めただけだ」

「魔道具だと?」


 ロバートは自由になった両手で自分の両眼の下を手で引っ張ると、目から薄い膜の様な物がこぼれ落ちて行く。

 それに驚くアバン。

 するとロバートはその隙を見逃さずに、片手でアバンを握りつぶす様な動作をしアバンの周囲の地面から無数の棘に造形した地面で覆い尽くす。


「相手を拘束しようとするからだ。敵に情けはいらないんだよ」


 そしてアバンは無数の棘の地面に覆われると思われたが、直前でアバンの周囲にある何かに弾かれてしまう。

 そのままロバートが造形した攻撃は一瞬で砕け散った。


「何?」

「そうだな、あんたの言う通りだ。敵に情けをかける必要はなかったな。つい王国軍兵としての癖が出てしまったよ。この怒りを抑え続ける必要はなかったな!」

「ほぉ~なかなかの実力者のよっ!?」


 ロバートがそう言いかけた時だった、何故かロバートは地面に片膝を付いていた。


「(何だ? 何が起こった?)」


 すぐにロバートはこの原因がアバンにあると睨み目線を向けると、アバンは片腕を前にし少し下へと下げていた。


「『グラヴィティワン』」

「(グラヴィティだと? 重力を操る魔法など存在しないはず! だが、現状私が受けている攻撃は間違いなく重力魔法だ! あり得ない! あり得ない事だ!)」

「まだ弱いか……『グラヴィティツー』」

「っ!?」


 ロバートはついには両手を地面についてしまう。

 そして顔も上げる事すら出来ない状況に陥る。


「(強くなっただと!? こいつ重力の強さまで操れるのか?)」

「よく耐えられるな。だがこれでしまいだ『グラヴィティスリー』!」


 直後、ズンという音と共にロバートは完全に地面へと張り付けられる状態になり、完全に体が動かせない状況になる。


「(な、何なんだこいつは!? ただの王国軍の訓練兵じゃないのか!)」


 ロバートは見上げる様にアバンを睨むが、アバンはロバートを冷たく見下していたのだった。

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