第111話 ルークの告白

「な、何だよ急に。変な事を聞くなよ、ルーク」

「別に隠さなくていい。お前も気付いているんだろ、お前がこの学院に来た理由がなくなって連れ帰られるって事に」

「……」


 私はその言葉を聞き、飲み物を持っていた手がピタリと口元寸前で止まった。


「大雑把だが、俺に王の子としての意識を持たせることが、お前がこの学院に来た理由だったろ。だが、兄貴との一件で俺は自分でその意識を持った。お前たちのお節介が大きいがな」

「……」

「で、お前は帰って来いと言われたら、素直に帰るのか?」


 ルークからの問いかけに私は即答できずに黙ってしまう。

 私は手に持っていた飲み物を一度机に置いた。


「そりゃ、言われたら従うしかないだろ……」

「本当にそう思っているのか?」

「思ってるもなにも、この学院に居られる理由がなくなったらそうなるのが必然でしょ」


 私は少し俯きながら苦笑い気味に答える。

 だが、私の本心は全く逆であった。

 出来ればまだこの学院に居たい……もっと皆と学んでいたい……こんな中途半端な所で帰りたくない。


「帰るなよ」

「えっ……」


 突然ルークにそう言われて、私は顔を上げてルークの方を見ると、ルークは私の方を真っすぐに見ていた。


「まだ、居てくれないと困るんだよ……俺が」

「ルーク、それはどう言う」

「前にも言ったが、契約の件もあるだろ。それと、お前は俺のライバルだろ。俺の勝ち逃げでいいのかよ」


 契約……そう言えば、女子と言う事を黙っているとか言うあれね。

 確か契約の時に、各期末ごとで3回勝負を持ち掛けられたっけ? それで今はルークが1勝してて、負けたらデート的な事も約束してやったな。

 ライバルか~まさかルークからそう言って貰えるとは、出会った初めの頃を思い出すとあり得ない単語ね。


 ……そっか。

 ルークは私に残っていてほしいのか、何か少し嬉しいな。

 でも、お母様から帰って来いと言われたら私はその言葉に逆らわずに帰るだろう。

 理由は明確だ。

 ただでさえ性別を偽っている上に、バレれた私だけでなくお母様たちにも迷惑を掛けるからだ。

 そんな危険と隣り合わせの状況を私のわがままで続けさせるわけにいかないからだ。

 私はその事をどこかで分かりつつも、まだこの学院に居たいと思っていたのだ。

 なんて親不孝者なんだ、私は……


「夏合宿の時とは状況が違うんだよ、ルーク……」

「……」


 ルークも何となく察したのか、言い返してこなかったので、私はルークから目線を外し飲み物にまた手を伸ばした時だった。


「俺は、アリスの事が好きだ。だから、まだ一緒にいて欲しいんだ」

「……はぁ!? ちょちょちょっ、ちょっと何言ってるの!?」


 突然の告白に私は動揺してしまい、立ち上がってしまう。


「お前がこのままいなくなると言うからただ、気持ちを伝えただけだ」

「伝えただけっだって……」

「別に答えが欲しい訳じゃない。言わないままいるよりも、言った方が良いと思っただけだなんだ。茶化してる訳じゃなくて、本当に俺が思っている気持ちだ」


 いやいやいや、その方が一番困るし、どうしていいか分かんないよー!!

 何で! どうして私!? これまでの関係でそこまで気持ちが変わる!? た、確かに何度か2人きりになったり危険な目にあったりして来たけど、急にそんな気持ちになる!?

 まぁ私も、ルークに対しての意識とか変わって来ていたけど、好きとかじゃなくて、何て言うか、その、友達的な? 気になったりとかは、本当に、本当に一瞬、ほんの一瞬だけあるけど、口に出して好きとか言えるものじゃないよ……

 それなのにどうしてルークは、それを言える!? あーーーどうすればいいの私は!?


 私とルークの間に沈黙の時間が流れ始める。

 私は完全に何を言っていいかも分からず、テンパっていた。

 ルークはと言うと、告白をしたのに関わらずすました顔で、持っていた飲み物を飲んでいた。

 ふざけんな! 何自分1人だけスッキリしたような顔してるんだ! 人に最悪な爆弾みたいな物を投げつけておいて!

 私はルーク方を睨むと、その視線に気付いて飲み物を置いて口を開いた。


「お前は覚えてないかもしれないが、昔に会った時に色々と遊んだ事があるんだぞ俺たち」

「え? 何それ、知らない。作り話?」

「違うわ。俺がお前を好きになったのはその時だ。ここ最近の話だけじゃない」


 はぁ? 私とルークが昔に会ってる? しかも遊んでた? ……全然記憶がない。

 いつ頃の時だろう? 確かに何度かクリバンス家の人が来てた覚えはあるけど、ルークとか居たかな? てか遊んでた? もしかして、その時によくある子供時の約束事で、将来結婚しよう的なことをやった!?

 いやいやいや、さすがにそれを今だにやる奴はいないだろ……いないよね……

 私はルークの方を見て、一抹の不安が拭い切れなかった。


「言っとくが、子供の頃に約束したとかそう言うのじゃないからな」

「心でも読めるのかよ……」

「何か言った?」

「いや、別に」

「とりあえず、俺はお前からさっきの返事を聞きたいわけじゃない。ただ伝えたかっただけだから、忘れてもらっても構わない」


 ルークは再び冷静に飲み物に手を伸ばし飲み始める。

 何でこんなに冷静に言えるんだよ、こいつは……でもひとまず、答えを迫られてないし、本人もああ言ってるから頭に隅にでも避けておくか。

 忘れろって言われても、忘れられる訳ないだろこんな事……

 私は色々な事が一気にあったので、急に喉が渇いて飲み物を一気に飲み干した。

 飲み物が無くなった事で、この場から一度離れられる理由が出来たので、私は迷うことなく立ち上がった。


「……飲み物無くなったから、買って来る……」


 ちょっと余所余所しく私はルークにそう言って、足早にその場を離れた。

 ルークは何も言わずに表情を崩さずに飲み物を飲んでいたが、私が完全に離れると飲み物を持っていた手が一気に震え出す。

 そして片手で震えを抑えながら机に飲み物を置くと、景色側に顔を向け、誰にも顔を見られない様に片手で人がいる方に壁を作った。


「(な、何言ってんだーー俺は!?)」


 一気に先程言った事を思い出し、赤面して悶えていた。

 私は足早に売店に近付き、そこの木陰で一旦冷静になろうと深呼吸をしていた。


「どうしたの? そんな深呼吸して」

「エリス先輩」


 深呼吸していた私を見つけたエリスが、そっと近付いて来た。

 私は「ちょっと空気を吸いたかった」などと言い訳ぐるしい事を言うと、「そっか」と返してくれた。

 するとエリスは私の隣に立って離れようとしなかった。


「あ、あの~何で隣にいるんですか?」

「ん? いや、どうしようかなって思って」

「何がです?」


 私は何も考えずに気軽に聞くと、エリスは私の方を向いた。

 するとエリスは、私の耳元に近付いて来て囁く様に呟いた。


「クリスが男装している事について、今聞いていいか悩んでいたの」

「っ!?」

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